日刊スポーツのニュースサイト、ニッカンスポーツ・コムのモータースポーツページです。



ここからこのサイトのナビゲーションです

共通メニュー

企画特集


2010年11月19日

「一番速いヤツ」フェテルは文句なしのチャンピオン!

 最終戦、アブダビGPを前に「レッドブルのチームオーダー云々…」なんてコトばかり考えていた自分が恥ずかしくなるセバスチャン・フェテルの見事な逆転劇! 近年まれに見る激戦となった今シーズンを締めくくるに相応しいドラマチックな幕切れ。結果論ではあるけれど、結局、最後に笑ったのは最終戦で誰よりも純粋に勝利を目指して戦ったフェテルだった。ポイントリーダーだったアロンソ(あるいはフェラーリ陣営?)も、また、それを8点差差で追っていたランキング2位のウェバーも、最終戦、アブダビGPの勝利ではなく「それ以外のなにか」に気持ちを奪われていたが故に、本当の意味で自分のレースを戦うことができないまま、目前にあったチャンピオンの座を失ったのだ。

 「今朝起きてから可能な限り人と話さず、今日のレースでベストを尽くそうという事以外考えないようにしたんだ。ともかく、僕にできることは(この最終戦で)優勝することだけだったから…」と弱冠23歳で史上最年少チャンピオンとなったフェテル。

 「この週末を通してチャンピオンシップは意識しなかったし、トップでチェッカーフラッグを受けたときも、自分の状況が分かっていなかったんだ。ゴールの瞬間、僕の担当エンジニアが無線で『いい感じだ…、でも、もうちょっと待って!』って言うのを聞いて、もしかしたたら…とは思ったけど、その後『やったぞ、チャンピオンだ!」と知らされるまでは、ともかく冷静でいるように努めていた…」。

 もちろん、奇跡的な逆転でのチャンピオン決定を知らされたフェテルが、そのまま「冷静」でいられたはずはなかった。ヘルメットの中で号泣しながら喜びの声を上げるその姿を、その瞬間、世界中のF1ファンが祝福したことだろう。優勝してもタイトルの行方はライバルの順位しだい…という厳しい状況の中で僅かに残されたチャンスに賭け、ただひたすらに前を向いて戦うその姿は文句なしに「美しかった」と思う。

 一方、掴みかけていた王座を前に手も足も出ないまま、最後の最後まで伏兵、ルノー、の新人、ペトロフの後方に閉じ込められたアロンソとウェバーは、どれほど口惜しい気持ちで最終戦のチェッカーを受けたことだろう。開幕から約8ヶ月に及んだ長く激しい戦いは最後に明と暗の強烈なコントラストを映し出してその幕を閉じた。最高に面白いシーズンの、最高にドラマチックな幕切れだった。

 まず、ふたりの「敗者」について感想を述べたい、ウェバーに関して言えば、今回、彼は「戦う前から負けていた」ように思えた。シーズン中盤、チームメイトのフェテルをも凌ぐスピードと安定感でシリーズをリードしていた時のウェバーには「挑戦者」としての気迫が感じられ、それは周囲の期待を遥かに超える素晴らしい戦いぶりだったと思う。

 もちろん、ウェバー自身が強く意識していたように、レッドブルには「フェテル優先」の空気があり、ウェバーがそれと絶えず戦い続けねばならなかったのは事実だ。トルコでのウイング事件や、それに続くフェテルとのアクシデント、また、シーズン終盤まで選手権をリードしながら、それでもチームから優先的なサポートを受けられなかった事などで彼が心理的に大きなストレスを感じていたに違いない。

 しかし、少し厳しい言い方かもしれないが、だからこそウェバーには余計なことに気を取られずに、最後まで意地を見せて欲しかった。「チームのお気に入りはフェテル」とメディアに愚痴るよりも、コース上で同じマシンに乗る若いチームメイトに実力で打ち勝って、そんなチームを見返して欲しかったのだ。

 だが、ブラジル、アブダビと2週連続でフェテルに敗れた事で、ウェバーは自分の置かれた状況をひっくり返す貴重なチャンスを「自ら」逸してしまった。特に最終戦のアブダビでは予選でも決勝でも、全く本来の力を出し切れていなかった。自分が発した「雑音」に飲み込まれ、明らかに集中力を欠いているように見えた。

 これまでも多くのF1ドライバーが「脇役」のレッテルを貼られ、悲哀を感じてきたように、人生はいつだって「不公平」に満ちている。そして、それを跳ね返すことができるのは、他ならぬ自分自身でしかない…。自分の運命をあと1歩でひっくり返す所まできながら、星を掴みそこなった男の無念は想像に余りある。

 一方、最もチャンピオンに近いところにいたアロンソは、チームの明らかな戦略ミスで3度目の王座を逃してしまった…。予選でマクラーレンのハミルトンに敗れたのはやや予定外だったが、それでも直接のライバルであるウェバーの前、予選3番手のグリッドというのは十分に想定の範囲内だったはず。だが、タイトルを確実に手にするためには「ウェバーの前でゴールすることが最優先」という考えに囚われすぎたピットストップでポジションを大きく落とし、そのまま追い抜きの難しいアブダビのコースでペトロフの後方に閉じ込められ、まさかの7位でレースを終えることになる。

 1周目に起きたシューマッハーのアクシデントでセーフティカーが導入され、ロズベルグやペトロフが早々とタイヤ交換を行ってしまったこと、また、決勝当日の路面コンディションがフリー走行時とは大きく変わり、タイヤの磨耗によるタイムへの影響が想定より遥かに小さかったことなど、フェラーリの判断ミスにはいくつかの(やや不運な)要因があったとは思う。だが、シーズン終盤のアロンソ自身が繰り返し口にしていたように、チャンピオンとなるためには「コンスタントに表彰台に上がり続ける」ことが大切で、それはおそらく最終戦の状況でも変わらなかったはずだ。

 これも結果論かもしれないが、3人の中で唯一、「自力」でチャンピオンを決められる立場にいたアロンソとフェラーリ陣営が、ライバルのポジションや「仮定」に基づくポイント計算に惑わされずに自分たちのレースに集中して戦っていれば、2010年シーズンは全く別の形でエンディングを迎えていた可能性が高かったと思う。複雑なポイント計算を考えるより、もっとシンプルに戦えば良かったのだ。

 唯一の救いは失意の底にあったはずのアロンソがレース後チームの致命的な判断ミスを一方的に非難したりせず「それでも2010年が自分に素晴らしいシーズンであったことに変わりはない」とフェラーリの「リーダー」としての自覚を感じさせる態度を見せてくれたことだろう。今季、特に後半戦は久々に名門らしい「強さ」を感じさせたフェラーリだが、最終戦のミスが象徴するように、チームにも、また新たなリーダーであるアロンソにも部分的な「スキ」や「甘さ」を感じさせるシーンがいくつかあり、再び黄金時代を迎えるための道筋と、その課題が見えてきたシーズンでもあったと思う。

 今回の失敗でチームがバラバラになるのではなく、これを今後への重い教訓として活かす流れに繋げられるなら、ポストシューマッハー時代のフェラーリがアロンソを中心として、新たな黄金時代を迎えられる可能性はまだまだ残されているような気がする。

 最後になったが、新たなチャンピオンとなったフェテルと、ドライバーズ、コンストラクターズのダブルタイトルを獲得したレッドブル、そしてエンジンサプライヤーのルノーを心からの賛辞を送りたい。

 予選ポールポジション10回という数字がハッキリと物語るように、今季最速のマシンがレッドブル・ルノーであり、このマシンと若きドイツ人ドライバーの組み合わせがコース上最速のコンビネーションであったことは疑いようがないだろう。そんな「一番速いヤツ」が最後のチャンピオンになったのだから、これ以上スッキリとした結末はないだろう。

 不運なマシントラブルやチームメイトとの確執、自らのミスなどもあり、フェテルにとっては本当に波乱万丈のシーズンだったが、シーズン中も確実に成長を続け、最終戦が象徴するように精神的にも本当にタフになった。また、チャーミングな性格でパドックでも多く人たちから愛されており、何よりも純粋に「走るのが楽しくてたまらない」という雰囲気がストレートに伝わってくるところもイイ!

 史上稀に見る混戦のシーズンを制したことで更に大きく成長し、おそらく一時代を築くドライバーとなってゆくのだろう。願わくばそのキャラクターを失わず、ちょっとタイプは違うかもしれないが、2輪のヴァレンティーノ・ロッシのような「メチャクチャ速くて強いけど、オチャメな存在」になって欲しい。

 また、チャンピオン争いが白熱したシーズン終盤も、チームオーダーを巡る外野からの雑音に惑わされず「ふたりのドライバーを自由にコース上で競わせるのがレースの本筋」という姿勢を貫いたレッドブルチームの首脳陣と、彼らに最強のマシンを供給し続けたエイドリアン・ニューイ以下、レッドブルチームスタッフ全員の働きも本当に賞賛に値すると思う。F1で大きな成功を収められぬまま撤退した旧ジャガー(フォード)のチームを引き継いだ栄養ドリンクメーカーのレッドブルが、フェラーリやマクラーレン、メルセデスなどの並み居る名門、強豪を退けてダブルタイトルを獲得したのは本当に凄いことだし、テクニカル・ディレクターのエイドリアン・ニューイはまたしても、自分が最高のF1デザイナーであることを証明してみせた。

 また、エンジンサプライヤーとしてまたも王座を獲得したルノーの存在も忘れることはできないだろう。今季は世界的な経済危機の中でワークスチームを事実上売却するなど、他のメーカーと同様にF1活動の縮小を強いられたルノーだが、不況だからといってすべてを投げ出してしまうわけではなく、スポンサー、エンジンサプライヤーなど、様々な形でF1を支えながら、こうしてタイトルまで獲得してしまうあたりに、ホンダやトヨタとは違う「底の深さ」を感じてしまうのは僕だけだろうか?

 F1に対して、そしてモータースポーツに対して、そんなルノーに匹敵する「底の深さ」で取り組み、本当の意味でパドックの信頼と尊敬を集められた日本のメーカーは、結局、今回のレースを最後にF1を去るブリヂストンだけだったのかなぁ…。本当に長い間、ニッポンの誇りを支えてくれたブリヂストンの皆さんにも、本当にお疲れ様でしたと、感謝の言葉を送りたい。


この記事には全0件の日記があります。


ソーシャルブックマークへ投稿

  • Yahoo!ブックマークに登録
  • はてなブックマークに追加
  • Buzzurlにブックマーク
  • livedoorクリップに投稿

ソーシャルブックマークとは

F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

最近のエントリー





日刊スポーツの購読申し込みはこちら

  1. ニッカンスポーツ・コムホーム
  2. モータースポーツ
  3. コラム
  4. F1放浪記

データ提供

日本プロ野球(NPB):
日刊編集センター(編集著作)/NPB BIS(公式記録)
国内サッカー:
(株)日刊編集センター
欧州サッカー:
(株)日刊編集センター/InfostradaSports
MLB:
(株)日刊編集センター/(株)共同通信/STATS LLC

ここからフッターナビゲーションです