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2010年11月11日

最後の“チームオーダー”…フェテルがウェバーにV譲る?

 “チームオーダー”か、それとも“チームプレイ”か…? 中身は同じでも、表現の仕方でイメージは大きく違ってくるものだ。2010年のF1チャンピオンを決する最終戦、アブダビGPを前にして、大きな注目がこの「ふたつの表現」の狭間に集まっている。

  しかし、ドライコンディションで行われた日曜日の決勝レースでは、依然としてマシンの戦闘力に勝るレッドブル勢が他を圧倒する強さを見せ、終わってみれば「余裕」で1位、2位を独占。特にフェテルの走りは素晴らしく、ドライバーズ選手権2位のウェバーに大差を着けての完璧な勝利だった。

 また、予選で躓いたアロンソも冷静なレース運びで着実にポジションを挽回し、最終的にはキッチリと3位表彰台を確保。レース前「もしレッドブルが速くても(現時点でポイント差が大きい)フェテルが優勝してくれるなら問題ない、むしろ優勝の大量25ポイントをウェバーじゃなくてフェテルが持って行く方が都合がいいぐらいだ…」と語っていたアロンソとしては「理想的」とは言えないまでも、十分に「想定の範囲内」の結果で、通算獲得ポイントは246点に。その結果、2位のウェバーに8ポイント、フェテルとは15ポイント差のトップで最終戦、アブダビGPへと臨むこととなった。

 アロンソの言葉にもあったように、もし、サンパウロの優勝ポイント=25点をウェバーが得ていたとしたら…、つまり、レッドブルが“チームオーダー”を発令し、ウェバー1位、フェテル2位の形でブラジルGPを終えていたとしたら…。ウェバーは通算245点までポイントを伸ばして、アロンソとの差は僅かに1ポイント! 逆転でのチャンピオン獲得を完全に射程距離内に捉えた形となり、追われるアロンソの立場はかなり厳しいものになっていた。だが、レッドブルは早くから「チームオーダーは発令せず、ふたりのドライバーを自由に競わせる」と公言。結果的にアロンソとフェラーリを利する形になっても、その言葉を貫いたわけだ。

 こうしたチームの方針をウェバーが面白く感じていないことは明らかだろう。ブラジルGP前にもメディアに対し「チームはふたりのドライバーを対等に扱ってくれているが、心情的にはフェテルがひいきされているのは明らかだ」と漏らし、ポイントでチームメイトをリードしながら、チームから優先待遇を受けられない苛立ちを露にしていた。ベテランのウェバーにとっては、年齢的に考えても、これがタイトル獲得の千載一遇の…いや、ハッキリ言えばラストチャンスである可能性は高く、彼自身もそれを感じているからこそ、フェラーリがアロンソに対して採っているような「優先待遇」を自分が受けれらないことへの不満を感じているのだろう。

 だが、レッドブルはそうしたウェバーの不満を知った上で、ブラジルでもチームオーダーを発令せず「最終決戦」の舞台となるアブダビでも「ふたりのドライバーを自由に戦わせる」ことを宣言した。「私はどのような状況でもチームオーダーを出すことを望まない、外からレース結果を操作するぐらいなら、結果的にタイトルを逃すことになっても2位でシーズンを終えることを選ぶ」と語るのはレッドブルのチームオーナー、デートリッヒ・マティシッチだ。

 なるほど栄養ドリンク一本で巨大なレッドブル帝国を一代で築き上げた実業家であり、また熱心な自動車レースファンとしても知られるマティシッチ氏の「一本筋の通った」姿勢を感じさせる発言だが、「でも、ホントにそれでイイのかなぁ?」と、外野にいるこちらの方が少々心配になってしまうほどの潔さ。当事者のウェバーがイジケル気持ちも分からなくもない。もしウェバーとフェテルのポイント状況が逆だったら、本当にレッドブルはこれと同じ対応をしただだろうか…と。

 ちなみに、最終戦アブダビGPで今回と同じようにレッドブル勢がフェテル、ウェバーの順で1-2フィニッシュを決め、アロンソがキッチリと3位表彰台を獲得した場合。アロンソが3位=15点を加えた総合261ポイントとなり、その時点でアロンソのチャンピオンが決定! フェテル、ウェバーは共に256点で並び、年間5勝のフェテルが4勝のウェバーを逆転してシリーズ2位の座を手に入れることになる。

 一方、ウェバーが最終戦を制した場合は総合263ポイントとなり、アロンソが3位以下ならウェバーが逆転でタイトルを獲得! また、フェテル優勝、ウェバー2位でアロンソが4位の場合は、3人がいずれも256の同ポイントで並び、アロンソとフェテルは共に年間5勝、2位入賞回数も2回と同じことから、3位入賞回数でアロンソを1回上回るフェテルがタイトル獲得…という、まさに紙一重の逆転劇が演出される計算だ。

 少々複雑な話になったが、例えばアブダビの最終ラップでアロンソが3位のポジションをキープしている限り、ウェバーが逆転でチャンピオンとなるためには優勝しかなく、フェテルは仮に優勝してもタイトルには手が届かない。もし、最終戦でこうした状況になったとき、フェテルはそれでもシリーズ2位を狙ってチームメイトのウェバーを抑えて優勝を狙うのか? それとも、ライバルであると同時にシーズンを共に戦ってきたチームメイトのタイトル獲得をサポートするのか? とかくネガティブなイメージで語られることが多い“チームオーダー”の話題だが、後者のほうがより自然な選択に感じられるのは、果たして僕だけだろうか?

 “チームオーダー”という言葉は直訳すればチームの出す「オーダー」つまり命令であり、場合によってはドライバーの意思に関係なく、チームが2台のマシンのポジションを外から操作することを意味している。今年のドイツGPでフェラーリが議論を呼んだように、また、シューマッハーの全盛期にルーベンス・バリケロやエディー・アーバインといった「ナンバー2ドライバー」が経験したように、チームの冷酷な判断によって片方のドライバーが一方的に犠牲を強いられるケースではまさしく、この「チームオーダー」という表現が相応しいと思う。
 しかし、、同じ目的に向けて長いシーズンを戦ってきたチームメイト同士が、お互いをサポートしあうという「チームプレー」が存在する余地も、F1には残されていていいのではないだろうか? 事実、F1の長い歴史を振り返れば、そうした「チームプレー」が素晴らしいドラマを生んだ例も少なくないはずだ。

 もちろん、レースは何が起きるか分からない。最終戦のアブダビでレッドブルがフェテル、ウェバーの順で1-2体制を築けるとは限らないし、当然、アロンソが3位内をキープできない可能性もあるだろう。
 だが、もし、上記のような状況になった場合、レッドブルのドライバーふたりが「チームオーダー」による強制ではなく、自らの意思で「チームプレー」によって助け合い、僅かに残されたウェバーのタイトル獲得の可能性をこじ開けたなら、果たしてその行為を批判する人はいるのだろうか? 僕はむしろチームメイトのタイトル獲得のチャンスを潰してても、優勝で逆転シリーズ2位を狙う行為のほうが、遥かに後味の悪い気がするのだが、それは歪んだ考え方なのだろうか?

 文句なしに面白かった2010年のF1GP、長く激しいチャンピオン争いが、中東、アビダビの地でついに決着する。タイトルの行方は終わってみるまで分からないが、いずれにしても素晴らしいシーズンの終わりに相応しい「気持ちのいいエンディング」を観たいと、最終戦を前にして、心から祈らずにはいられない。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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