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2009年11月04日

可夢偉の「夢の続き」を見せてくれ

 セバスチャン・ベッテルの今季4勝目で幕を閉じた2009年のF1GP。砂漠の中の未来都市といった雰囲気のヤス・マリーナーサーキットで行われた最終戦、アブダビGPはいろいろな意味で今シーズンを象徴するようなレースだったと思う。

 チャンピオンは取ったけど、後半戦の戦いぶりはイマイチだったバトンはプレッシャーから開放されたはずの今回も「有終の美」を飾ることができなかったし、結局、ドライバーズランキング3位を守れなかったバリチェロも「やっぱり」という感じ。単純にマシンの戦闘力で「前半戦はブラウン、後半戦はレッドブル」という構図があったことも確かだが、ブラウン勢のふたりに「迫力不足」を感じたのは僕だけだろうか?

 逆にアブダビでも完璧なレースを見せたセバスチャン・ベッテルには、今回もドライバーとしての「輝き」を感じた。チームメイトのウィーバーもレース終盤にバトンからの猛攻を押さえ込んでベテランの「意地」を見せたが、シーズンを通してみれば若いベッテルとの差は明らかな気がする。凄く頑張ってるのは分かるし、それなりの速さ、強さもあるのだけど、やっぱり漂うデイビッド・クルサードやバリチェロのような「脇役キャラ」感。その構図は来季以降、さらに強まって行く気がする。

 一方、今季、予想外の不振に苦しんだ名門2チーム、マクラーレンとフェラーリの最終戦もそれぞれ象徴的な内容だった。終盤戦に入ってそれなりの速さを見せるようになったマクラーレンは予選でハミルトンが圧倒的な速さを見せるも、決勝レースではマシントラブルでリタイアを喫し、信頼性を含めた総合力で最後まで本来の強さを示すことはできなかったし、フェラーリに至っては「悲惨」の一語に尽きる寂しいシーズンの幕切れ。今季限りでチームを去るライコネンは入賞すらできず、フィジケラに至っては最下位グループを惨めに這い回る状況……。来季、ルノーからの移籍が決まったアロンソに「跳ね馬再建」への期待が集まるが、今季の不振を徹底的に検証し、問題を徹底的に洗い出す努力が無ければ、この泥沼を抜け出すことは難しそうだ。

 歯車が合えば「そこそこ」いい戦いが出来るけれど、やっぱり優勝争いには手が届かないトヨタ、チャンピオン争いへの期待が完全に外れ、撤退へと追い込まれたBMWも、ハイドフェルドが最後の意地で5位の座を得たが、行けても「ここまで」だったからこそ、本社が撤退を決めたともいえるかもしれない。アブダビGPの翌日にはタイヤサプライヤーのブリヂストンも2010年いっぱいでのF1撤退を発表。華やかなアブダビGPの雰囲気とは対照的に、F1を中心としたモータースポーツ界からの「引き潮」は相変わらず止まらない。2年目のシーズンを期待された中嶋一貴は結局、1ポイントも獲得できないまま、ウイリアムズを去ることが決まった……。

 そんな中、僕たちに唯一の「希望」を与えてくれたのは、前戦に続いてティモ・グロックの代役を務めたルーキー、小林可夢偉の大活躍だった。ブラジル、アブダビの終盤2戦で突如として舞い込んだF1デビューのチャンスを活かして、僅か2戦で6位入賞で3ポイントを獲得した可夢偉! レース中、チャンピオンのバトンを鮮やかに抜き去り、3位を快走するその姿は世界中に「カムイ・コバヤシ」の存在感を強烈にアピールしてみせた。 中嶋一貴を輩出したトヨタのドライバー育成プログラム、TDPの「本命」と目され、10代から本場ヨーロッパで経験を積んできた可夢偉だが、2年目のシーズンとなった今季のGP2では所属チームとの関係にも悩み、ランキング16位と大苦戦。夏に一時帰国した際「どーすんだよ?」と聞いたら「もー最悪ですわ、俺にもどーなるのか分かりません」と半ば諦め顔で答えていたのがウソのような「大逆転劇」だ。

 海外メディアからのインタビューに「今からほんの4週間前まではレース辞めて、尼崎にある実家の寿司屋で働こうと思ってました」と答えたという可夢偉。トヨタのチーム代表、ジョン・ハウエットも今回の6位入賞を受けて、来季のレギュラードライバー昇格を強く示唆するコメントを残している。今月中旬に行われる本社の役員会で最終的な承認が下されるまでは2010年のF1活動にゴーサインが出せないトヨタだが、モータースポーツ界を包み込む一連の「引き潮」に飲み込まれることなく、可夢偉の「夢の続き」を僕たちに見せて欲しい。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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