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2009年10月29日

ブラウンGPの「血中ホンダ濃度」(2)

 前回のブログでは、主に技術面、体制面からブラウンGPの「血中ホンダ濃度」について考えてみた。前回から少し時間があいてしまったので、もう一度簡単に振り返ると、まず、2009年のチャンピオンマシン、ブラウンGPのBGP-01が、もともとはホンダの09年度マシンとしてF1界でも1、2を争う巨額の開発予算とホンダの独自技術を注ぎ込まれたマシンであるということ。

 ただし、エンジンに関しては今季搭載したメルセデスのほうが性能が高く、一般には高性能だと信じられていたホンダエンジンが実際には「足かせ」になっていたということ。また、KERS採用の是非やシーズン中の様々な判断に関して、ホンダが抜けた結果、チーム代表のロス・ブラウンにシッカリと権限が集約され、結果として現実的で効率の良いチーム運営が可能になった……という点などだ。
 それでは、技術面、体制面とならぶ、もうひとつのキーポイント「資金面」についてはどうだろうか? ここでも09年のブラウンGPは「ホンダ」微妙かつ密接な関係にある。

 2009年のF1GP「奇妙なシーズン」だと感じるのは、これまで、一部の例外を除けば「資金力」=「戦闘力」に近い構図が常識だったF1にあって、自動車メーカーの直接支援も大手スポンサーも持たないチームがシーズンをリードし続け、最終的にダブルタイトルを獲得してしまったからだ。開幕当初にウワサされた英国、ヴァージングループの関与も結局、本格的なメインスポンサー契約には発展せず、シーズンを通じて幾つかの小口スポンサー、スポット広告スポンサーが現れたものの、バトンとバリチェロがドライブるするブラウンGPのマシンはパッと見「貧乏チーム」を絵に描いたような真っ白のカラーリング。2人のドライバーがどんなに勝ち星を重ねようと「白いマシン」に劇的な変化は無かった。そんなブラウンGPはいかにして2009年の参戦コストを賄っていたのか? おそらく、最大の「見えないスポンサー」はホンダだったはずだ。

 昨年末、ホンダ上層部がF1からの撤退を決めた時点で当初考えていたのはチームの売却による存続でなく「F1チームの解散・清算」であったことは以前に触れたとおり、もちろん、突然のF1撤退とチームの清算にはそれなりの「コスト」が掛かるわけで、その経費として形状された予算が「およそ100億円」だったと言われている。しかし、ホンダからチームの清算を指示されたロス・ブラウンとニック・フライは、その予算を活動資金としてチームを存続するというプランをホンダ側に逆提案。最終的には本社サイドがこれを受け入れ、ブラウンに対するチーム売却と参戦継続を承認したのだ。

 それまでF1プロジェクトにに年間400億とも500億とも言われる巨費を投じてきたホンダにすれば、おそらく「わずか100億の予算ではシーズン中盤までも持たないだろう」という感覚があったかもしれない。しかし、ブラウンはこの「ホンダから手切れ金」を有効に活かして新チームを無事、新チームを開幕戦のスターティンググリッドに送り出し、それどころか並居るライバルたちを圧倒! ホンダが何年も夢に描きながら、触れることすらできなかったF1世界チャンピオンの座をアッサリと手に入れてみせた。

 ヴァージン・グループとの交渉が結果的に実を結ばなかったことや、ブラウンGPが圧倒的な強さを見せた後も、大手スポンサーが付かなかった理由については、正直、分からないことも多いのだが、いずれにせよ、そうした状況下でもブラウンGPが参戦を継続できたのは、ホンダから得た「手切れ金」があったからだ。つまりは、あの「白いマシン」のカウルには「見えない文字」で「スポンサードBYホンダ」のロゴが刻まれていたのである。更に言えば、そもそもブラウンGPが誕生できたものも、ホンダが長年に渡って巨額の投資を行ってきた旧BARホンダ~ホンダF1チーム(HRF1)とその施設を「タダ同然」でロス・ブラウンに売却したからではなかったか? 例えるならブラウンGPの「家」をタダで譲り「当面の生活費」も払っているホンダがその事実を大っぴらに世間に公言することなく、チームを影から支えていたであって、その意味で今季のブラウンGPは資金面における「血中ホンダ濃度」がかなり高かったと言うことができるだろう。

 もちろん、ホンダからの手切れ金が一説に言われているとおり「100億円」に近い額だったとしても、近年のF1チーム予算としてはかなり「控えめな額」であるし、その少ない予算を有効に活かしきったロス・ブラウンの運営手腕は本当に素晴らしかったと思う。ただし、ホンダからの「手切れ金」があるのは今シーズンのみ、2年目以降の活動資金をどうやって捻出するのか? というのはブラウンGPの存続にも関わる大きな課題であり、、今のところ「目に見える形」でその方向性は示されていない。果たして1シーズン「白いマシン」を走らせ続けたチーム経営陣には、何らかの隠しダマが存在するのだろうか?

 ちなみに、現時点で最も実現の可能性が高いと思われる「ウワサ」は中東、アブダビ投資会社グループがシーズン終了後にブラウンGPに対する資本参加を行い、チームを同グループの傘下に入れるという説である。加えてこの投資グループ、メルセデスの親会社であるダイムラーAGの大株主でもあり、マクラーレンの株も大量に所有している企業ということだから、数年前から一部でウワサされている「ブラウンGPメルセデスの第2チーム化」との関連が気になるところだ。

 中東のオイルマネーを使って、メルセデスがマクラーレンの他に「第2のF1チーム設立」を狙っているというハナシはこれまで何度も耳にしている。仮にそれが事実なら、今シーズン、同じメルセデスエンジンを積む「本家」のマクラーレンを圧倒したロス・ブラウンのチームが単なるエンジン供給先ではなく、名実共にメルセデス陣営の一角に食い込まれるのは、将来が見えにくいF1界での「リスク分散」という意味で、メルセデスにとって魅力的に映っても不思議ではない。状況次第ではブラウンGPをマクラーレンよりもよりメルセデス色の強い「ワークスチーム」に仕立て上げることだって可能だろう。

 今シーズン、マクラーレンの苦戦で歯がゆい思いをし続けたメルセデスとすれば、内心は複雑な心境かもしれないが、少なくともエンジン供給チームであるブラウンGPのダブルタイトル獲得で、外見上はチャンピオンの栄誉を得ることがきたし、ひとつの実績としてそれを世間にアピールできたのは、技術面や資金面で「人知れず」ブラウンGPの勝利に貢献しているホンダの立場からすれば、かなり皮肉な状況だったと言えるだろう。仮に今後、ブラウンGPとメルセデスの距離が更に接近し、先に述べたような関係へと発展することなれば、おそらくその悔しさは更に強まるに違いない。もちろん、こうした複雑な状況を生んだのは他ならぬ「ホンダ自身」なのであり、誰を責めることもできないはずなのだが、それゆえに口惜しさもただならぬものがあるはずだ……。(続く)


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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