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2009年9月18日

ブラウンGPタイトル目前…微妙な気持ち

 5月のモナコGP以来となるブラウンGP1-2フィニッシュで幕を閉じた今年のイタリアGP。今回、ライバルのレッドブル勢がセバスチャン・ベッテルの8位、1ポイントのみに終わったこともあり、チャンピオン争いは実質的にバトン(80ポイント)とバリチェロ(64ポイント)のチームメイト同士による一騎打ちになったと見ていいだろう。

 今シーズンも残すところシンガポール、鈴鹿、ブラジル、アブダビの4戦のみ、数字の上で見れば1戦平均で4ポイントずつ差を縮めなければならないバリチェロにはシビアな戦いとなるが、シーズン中盤以降、やや「守りに入った」感のあるポイントリーダーのバトンに対して、もはや失うものがないバリチェロはよりアグレッシブな姿勢で残りのレースに臨めるはず。彼にとってはこれが「万年ナンバー2ドライバー」の烙印から逃れる最後のチャンスとなるだけに、ブラウンGPのふたりによる激しいタイトル争いが繰り広げられれば、シーズン終盤の大きな見所になりそうだ。

 それにしても、これでいよいよブラウンGPが1年目にしてタイトルを獲得する可能性が高まってきたことになるわけだ。記録的には「新チームがデビューイヤーでチャンピオン」ということになるのだろうが、ご存知のようにブラウンGPの実質的な母体は昨年末にF1を撤退したホンダF1チーム。マシンも、もともとはホンダの09年型マシンとして開発されていた車体だった…。

 こうして、ブラウンGPのタイトル獲得が少しずつ、現実味を帯びてくると共に、今年の開幕戦、オーストラリアGPで感じた、あの、何とも言えない「微妙な気持ち」があの時よりハッキリとした形で蘇ってきてしまう。長い間、日本の多くのファンたちの熱い期待を集めながら、そうした期待よりも大きな失望と共に消えていった、あの第3期ホンダF1チームが、たった1年でこれほどまでに劇的な変化を遂げ、今まさにタイトルに手を掛けようとしているという事実を、僕と同じようにうまく消化できず、どう受け止めていいのか戸惑っている人は多いのではないだろうか?

 もちろん、ブラウンGPだけでなく、ベルギー、モンツァと2戦連続でフォース・インディアが大活躍するシーンを見れば、大きくレギュレーションが変わり、コスト削減でテストが禁止された今シーズンのF1が、多くの人たちの想像を遥かに超える「変化」を遂げたことは間違いないと思う。そして、その「変化」がブラウンGP躍進の主な要因であることも確かだろう。また、フォース・インディアの活躍は今季、ブラウンGPが搭載するメルセデスV8の高い戦闘力もハッキリと証明している。ブラウンGPのマシンが昨年までのホンダからメルセデスへとエンジンを変えた影響も、やはり大きかったのだなぁ…と今さらながら、納得させられたりもする。

 だが、そうしたF1全体を取り巻く変化やエンジンの違いを認めた上でなお、去年のホンダと今年のブラウンGPを隔てる「ギャップ」は余りにも大きすぎて、何とも言えない、「空しさ」や「やり切れなさ」あるいは「悲しさ」にも似た感覚となって、僕の心の奥底のほうで澱んだ水のように、漂っているのだ。本当に長い間「日本とF1」の距離が近づくことを夢見てきた自分にとって、今こうして見ている現実は「遠いF1」のひとつの象徴のように感じてしまうのだ…。

 ちなみに、イタリアGPの少し前あたりから「メルセデス・ベンツが将来、ブラウンGPに資本参加するのではないか」というウワサが欧州で流れ始めている。長い間、マクラーレンとの緊密な関係を築いてきたメルセデスは現在、マクラーレンの株式も40%保有しているのだが、今から2年ほど前にはこれと平行して、同社がより直接的な影響力を行使できる「Bチーム」を作ろうという動きも確かにあった。「本家」のマクラーレンよりも同じ自社製エンジンを積んだブラウンGPが活躍し、チーム規模で遥かに劣るフォースインディア・メルセデスが驚きの速さを見せている現状を考えれば、メルセデスが「マクラーレン中心」でやってきたこれまでの戦略を、将来的に大きく転換する可能性もゼロではないかもしれない。

 それまで巨額の資金をつぎ込んできたホンダが「タダ同然で」いや、今季の活動資金という「手切れ金」まで付けて放り出したチームが、僅か1年でタイトル獲得を目前にしているだけでも何だか微妙な気持ちなのに、メルセデスがそのチームに資本参加して「有効に活用しよう」と計画しているというウワサが本当だとしたら…「それって一体ナンなんだよ!」って叫びだしたいのは、きっと僕だけじゃないはずだ。これを「長期的戦略の欠如」と呼ぶのか、「したたかさの差」か、あるいは「経験の差」とでも呼ぶのかな? 

 そうそう、こんな事を書いていたら、今から10年以上前、日本のコンストラクター、童夢がF1参戦を計画していた当時、社長の林みのる氏が自ら手がけた企画書中にあった、なんとも「痛い」キャッチコピーをふと思い出した。曰く「日本の鳥と言えば鶴ですが、モータースポーツの世界ではカモのようです」。嗚呼、僕の目の黒いうちに、F1の世界でニッポンが「いいカモ」じゃなくなる日は本当にやってくるのだろうか? 子供の頃からかれこれ30年以上も「その日」を夢見てきたのになぁ…。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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