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2009年8月27日

バリチェロとバドエル“ナンバー2”明暗

 ルーベンス・バリチェロがやっと勝てた…。今シーズンの開幕以来「勝てるマシン」を手にしながら、チームメイトのジェンソン・バトンに文字通りの「やられっぱなし」だったバリチェロがフェラーリ在籍時以来、実に5年ぶりの優勝をバレンシアで飾ったのだ。

 とはいえ以前からバリチェロのコトを全然評価していない僕なので「ああ、どーせ今回もマクラーレンのミス(注:ハミルトンとチームの間で無線交信のミスがあり、ピットストップのタイミングを誤ったこと)があったから勝てたんでしょ…」と少しイジワルな視線で切り捨ててしまいそうになるのだが、それと同時に「そんなバリチェロに大差で負けてしまったバトン」のスキを指摘しないのは、フェアじゃないだろう。

 で、白状するなら「全然評価も期待もしていない」はずだったバリチェロの今季初優勝に、実はちょっとグッと来てしまった…という自己矛盾が自分でもちょっと恥ずかしい。いや、同じ「アラフォー」と言っても、こっちは40台半ばだから「同世代」みたいに括られたら37歳のバリチェロには失礼なのだが、僕自身が彼に浴びせかけてきた「罵声」も含め、周囲の厳しい目やプレッシャーの中で「中年の意地」を見せたバリチェロの気持ちに、無意識にシンクロしてしまったりするのである。

 長年、ミハエル・シューマッハーの忠実なナンバー2ドライバーを務めてきたバリチェロの事を、僕は「シューマッハーのポチ」と呼んでいた。断っておくが、バリチェロは決して悪いドライバーじゃない。いや、スチュワートGP(現在のレッドブルの前身、ジャガーのそのまた前身)で頭角を顕したころのバリチェロは野心バリバリでいい感じのドライバだったとも思う。だが、フェラーリのシートと引き換えに跳ね馬の忠実な下僕となったバリチェロの姿が僕はどーにもイヤだった。バリチェロだけじゃない、シューマッハーのナンバー2のドライバーはほぼ例外なく、フェラーリとの契約と引き換えに「常に頂点を目指す」というGPドライバーの魂を売り飛ばしてしまう運命にあるのだが、ずっとその立場に甘んじ続ける姿を見るのは、F1ファンとしてあまり気持ちのいい物じゃない。

 そんなバリチェロにとってブラウンGPで久々に「勝てるマシン」を得た今季は、大きな期待と不安が背中合わせのシーズンだったと思う。もちろん、彼自身は自分の能力を信じるしかなかっただろうが、それはとても「孤独な戦い」であったに違いない。シーズンが進むにつれて高まるプレッシャーの中で、このまま磨耗して、どこかで心が「ポキリ」と折れても不思議じゃない状況の中で、ついに掴んだこの1勝が、孤独な戦いを続ける中年F1ドライバーにとっていかに大きな意味を持つのか! その気持ちを想像するとき「バリチェロ嫌い」を自認する僕の胸にも、何だかグッと来てしまうものがあったのだ。

 ちなみに、同じ欧州GPでは「もうひとりの中年ドライバー」38歳のルカ・バドエルが「マッサの代役のシューマッハーのそのまた代役」という微妙な立場で、こちらは何と10年ぶりのF1に臨んだが、予選も決勝もボロボロの最下位……。事前テストもほとんど出来ず、10年ぶりのF1復帰というかなり無理のある条件を考えれば、バドエルに多くの期待するのがそもそも無理というモノだが、シューマッハーのナンバー2でも、とりあえずレースに出場できたバリチェロと違い、長年、レースにも出ずにテストドライバーとして影でフェラーリの黄金時代を支えてきた苦労人のバドエルが、今回も「損な役回り」でスポットライトを浴びている姿にも、フクザツな気持ちにさせられる。

 そういや、バリチェロとバドエルは国際F3000時代からのライバルだし、F1デビューも共に93年南アフリカGPという全くの同期生。フェラーリで脇役としてシューマッハー全盛期を支えたそんなふたりのドラマに、中年心を揺さぶられたヨーロッパGP、バレンシアの週末だった。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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