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2009年6月23日

不毛な分裂騒動…目的はモズレー降ろし?

 懸念されていた「F1大分裂」がいよいよ現実味を帯びてきた。予算総額制限(バジェットキャップ)の導入を柱とした新レギュレーションの是非を巡り、この2カ月ほど続いていたFIAとFOTA(F1チーム協会)の対立は、FIA側が最終期限としていた6月19日までに解決せず、ウイリアムズ、フォースインディアの2チームの除く既存8チームで構成されるFOTAは「これ以上FIAと交渉を重ねる意味はない」と、F1に代わる独自シリーズの立ち上げを正式に宣言。来季からの開催に向けて、各国のプロモーターやサーキット、テレビ局などと具体的な準備に入る予定だ。

一方、FIAは19日に発表予定だった2010年の最終エントリーリスト発表を延期し、新シリーズ立ち上げに向けて動き出したFOTAやフェラーリに対して「法的な手段を講じる」意向を表明しているが、現時点でFIA側についているのはウイリアムズ、フォースインディアに新規参入組のUSF1、カンポスレーシング、マノーを加えた計5チームのみ。FIAのモズレー会長はこれまで「既存チームがF1から撤退しても、新規参入を望むチームはいくらでもいる」と強気だったが、イギリスGPの段階で既にローラとイタリアのNスピードが既にエントリー申請の取消しを表明。もうひとつの有力チームであるプロドライブもFIAの「F1」ではなく、FOTAによる新シリーズへの参入を検討しているという。

 4月のFIA総会以来、僕はこの問題についてコラムで書くことを意図的に避けてきた。なぜなら、毎週のようにヨーロッパから届く最新情報を追いかけても、それが結局「徒労」に終わるような気がして、いささかウンザリしていたからだ。その根底にあったのは、「FIAもチーム側も、最終的にF1の価値をドブに捨てるほどバカではないはずだ…」あるいは「日々の情報にメディアもファンもさんざん振り回された挙句、最終的には当事者たちが適当な“落としどころ”を見つけざるを得ないだろう」という、今となってはいささか楽観的に過ぎる考えだったのだが、現実はよりシビアだった=彼らは想像以上にバカだった…というコトか? ちなみに短期的に見れば現状は「モズレーの敗北」で、「FOTA」の勝利と見ることもできるが、長期的にみればF1に関わるすべての人たちにとって「敗北」となりうる危険をはらんでいると思う。

 分かりやすく表現すれば、今起きているのはFOTAによる一種の「クーデター」だ。巧みな政治手腕でFIAに事実上の「独裁政権」を確立したモズレーに対して、強大な力を持つ自動車メーカー・有力チームが公然と反旗を翻し、超法規行為の実力行使に出たという構図である。ちなみに、クーデターで一番重要なのは「裏切り者」を出さないこと。F1に参戦する自動車メーカー各社は数年前にも、GPWCという連合を組んで、モズレーによるFIA支配、バーニー・エクレストンによるF1商業権支配に抵抗しようとしたが、この時はフェラーリの裏切りによってすべてが台無しになってしまった。今回もウイリアムズ、フォースインディアの2チームがFOTAの方針に反して、結果的にFIA側に付くことになったが、モズレーの意に反してこうした離反の動きは広がらず、フェラーリはトヨタと共にFOTA側のリーダーシップを発揮。残る8チームが結束を保ちながら、強い姿勢でFIAとの戦いに臨んだことがモズレーを追い込む結果へとつながった。

 それでは、F1は本当にこのまま「分裂」してしまうのだろうか? 来季からはFIA公認の「本家F1」とFOTA系チームを中心とした新団体による「新シリーズ」が別々に競い合う状況になるのか? 当面の動きで最も注目されるのは6月24日に予定されているFIA世界評議会の成り行きだろう。F1大分裂の回避に向けた唯一の希望は、今回の世界評議会でFIA内部でも「反乱」が起き、モズレー会長の解任が実現。新体制へと改められたFIAとFOTAとのあいだで「和平」へと向けた新たな対話が再開する…というシナリオである。「楽観的に過ぎる」とバカにされてしまうかもしれないが、僕は一連の騒動がすべて、このFIA総会での「モズレー降ろし」を最終的なターゲットに進められていて、この1週間ほど不気味な沈黙を守り続けているバーニー・エクレストンも、それを承知しているのではないかと思っている。

 だが、仮に今回のFIA総会でもこうした「モズレー降ろし」が実現せず、逆に彼がFIA内での基盤を固めるようなコトになれば、F1分裂回避に向けた和平への道は完全に閉ざされてしまうに違いない。仮に新シリーズが順調にスタートし、それなりの成功を納めたとしても戦後、60年近くに及ぶ歴史の中で築かれてきた「F1」の伝統や権威は瞬く間に失われ、それは長期的に見て、F1はもちろん、モータースポーツ界全体にとって、取り返しのつかない大きな損失となるはずだ。「FIAの世界評議会で何が決まろうと、もはや我々には関係ない。新シリーズの立ち上げに向けて動き出すだけだ」と語るルノーのフラビオ・ブリアトーレだが、そのコメントが「ダメ押しの脅し文句」であることを祈らずにはいられない。不毛なエゴとエゴのぶつかり合いが、すべてを破滅に導く危険は、既に目の前に迫っているのだから…。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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