2009年6月09日
拡大と発展…“バーニーズモデル”崩壊
トルコGPが行われたイスタンブール・サーキットの観客席は深刻な“ガラガラ状態”だったようだ。トルコに限らず、上海やマレーシアなど、アジア圏内のGPはここ数年、深刻な観客数の減少に悩まされているが、今年はヨーロッパのレースでもハッキリとその傾向が現れており、スペインGPもグランドスタンドには空席が目立ったし、あのモナコですら、決勝レース当日でもチケットが売れ残っているという明らかな異常事態。地元のタクシー運転手も「こんなに寂しいモナコGPの週末は初めて……、お客さんは少ないし、渋滞もない、近隣のホテルも空室がいっぱいらしいよ」と嘆いていた。
歴史と伝統を誇るF1GPの代名詞、あのモナコですらこのアリサマなのだから、マレーシアや上海、バーレーン、トルコなど、決してF1の人気が高いとは思えない国々でこの10年余りに生まれた「F1新興国」のGPが苦境に陥るのは、当然の流れだろう。今年のトルコGPの観客動員は公式発表で3万6千人。仮に公式発表の数字が事実だとしても、13万人収容のサーキットでこの人数では「ガラガラ」に見えるはずである。もちろん、来年以降のF1開催を危ぶむ声がでていることは言うまでもない。トルコだけじゃない、世界中の多くのF1開催地が同様の危機に瀕している。
なぜ、観客数が大幅に減少しているのか? もちろん、理由はひとつだけではない。「人気チームのフェラーりが低迷しているから」とか、トルコも制し、ここまで7戦6勝を挙げている「バトン&ブラウンGPが強すぎて退屈だから」とか「シューマッハーのようなスターがいない」とか、「レース中の追い抜きが少ない……」とか、細かい理由をいくつも探すことは可能だろう。何より「世界経済の深刻な不況」がF1GP全体の急減速に大きな影響を与えていることは間違いない。
だが、今、僕たちが目にしているのは、今、F1GPが直面しているのは、それよりももっと本質的な問題なのではないかという気がしてならない。それはひと言で言えば「拡大と発展」をすべての前提にF1を膨張させてきた「バーニー・エクレストン・モデル」の崩壊だ。
1980年代初頭に全チームのまとめ役となり、その後、F1GPの商業権を握ったバーニーが、F1GP発展の偉大なる立役者であることは間違いない。彼はテレビという国際的なメディアとスポーツを結びつけ、一大スポーツイベント&エンタテインメントとしてのF1のブランド価値を高め、そのブランド価値を用いて更なる「マネー」を世界中から集めることで、F1の更なる拡大と発展を実現してきた。
特に、大手自動車メーカーがこぞって次々とF1へと参入したここ10年余りは、こうした自動車メーカーの存在と、アメリカを中心とした世界的な好況にも後押しされる形で莫大な資金がF1ビジネスへと流れ込み、最高潮に達した「宴」の華やかさにつられて、中東やアジアの新興国の「マネーまでがF1という巨大なパーティーに吸い寄せられていた。
だが、自動車メーカー間の過当競争がF1チームの参戦コストを非現実的なレベルまで押し上げ、F1GP開催権料やテレビ放送権料は高騰、その反動は自動車メーカーやチーム、主催者、テレビ局などに重くのしかかり、誰もが「F1に関する将来」を再考せざるを得ない状況に追い込まれている。そして何より、F1はもちろん、すべてのモータースポーツにとって、本当の「基礎」となるべき、一般の自動車レースファンから、F1を遠ざけ始めていることを、関係者すべてが深刻に受け止めるべきではないだろうか?
エクレストンの要求通り、莫大な費用を投じて建設された巨大なサーキットがF1開催断念によって放置され、砂漠やジャングルや、荒野の真ん中で「巨大F1遺跡」となって朽ち果てていく…という景色は遠い未来のモノではないだろう。また、そうした新興サーキットの参入でF1GP開催権を失った、歴史ある幾つかのサーキットでF1は「現在」ではなく「過去」の記憶として、多くの熱心なファンと共に失われ行く運命にある。
ちょっと大げさに聞こえるかもしれないが、F1に限らず、今、世界が直面しつつあるの問題の根底にあるのは、永遠に続く「拡大と発展」を前提にしたシステムの崩壊なのだと思う。F1のような、本当の世界から比べれば本当にちっぽけな世界起きているのは、そうした問題の実に分かりやすい縮小版であり、そこには「拡大と発展」あるいはそれを端的に示す指標である「マネー」を盲信し、それを追い求め続けて行く過程で「失われて行く大切な何か」への警鐘が隠されている気がしてならない。
F1の将来がどうなるのか? 今の僕には全く想像できない。だが、バーニーが築き上げた「拡大と発展」のモデルがついに崩壊を始めた今、F1の未来が大きな岐路に立たされていることは間違いないだろう。問題はそうした危機感を当事者たちがどれだけハッキリと共有し、つまらない「エゴ」と「エゴ」とのぶつかり合いを離れて、新たな方向性を打ち出せるかだ? 連日のように伝えられるFIAとチーム間の対立を眺めていると、どうにもあまり楽観的な気持ちにはなれないのだが…。
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