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2009年5月12日

F1における「人」の大切さが浮き彫りに

 シーズン序盤戦を圧倒したブラウンGPにとって、最初の「関門」と思われたヨーロッパラウンド初戦のスペインGP。例年、このスペインで各チームのマシンが大幅なアップデートを施されるため、ブラウンGPは優位をどの程度維持できるのか…? という点が注目されたわけだが、結局、今回もバトン、バリチェロのブラウン勢が1、2フィニッシュ! ブラウンとの差が若干縮まったとはいえ、それを追う最大のライバルがレッドブルだという構図にも大きな変化はなかったと言っていいだろう。少なくとも、資金面でブラウンGPを上回るトップチームがその開発力にモノを言わせ、「ヨーロッパラウンドで一気に差を詰める」という展開にはならなかった。

 もちろん、今シーズンは少し「特殊な事情」もある。開幕当初に議論となった「ディフューザー問題」の決着に1カ月近い時間がかかったため、結果的に合法と認められたブラウン、トヨタ、ウイリアムズ以外の各チームは空力開発の方向性を修正する必要があり、シーズン序盤の出遅れを取り戻すには、もう少し時間が必要なのかもしれない。だが、今回のスペインGPで一定の前進を感じさせたフェラーリは「信頼性」の面で大きな不安を抱えたままで「今シーズンのタイトルは忘れた方がいい」と白旗降参のマッサ。マクラーレンに至っては「前進」というよりは「迷走」と言ったほうがいい状態で、昨年の王者ハミルトンも「マシンの戦闘力は最悪だ…」と、こちらもいつもの優等生コメントをする余裕は既になくなっている。

 ブラウンGPやレッドブルのような「非自動車メーカー系チーム」がシーズンをリードし、あれほどまでの強さを誇ったフェラーリやマクラーレン・メルセデスが泥沼状態に陥っている…という、この大きな「地殻変動」をもたらしたものは一体何なのか? その直接の要因が、今年から大きく変わったテクニカルレギュレーション(技術規定)への対応にあることは間違いない。新しい空力規定、新しいタイヤ、ある意味、横一線からの「仕切り直し」となった技術競争で正しい方向にダッシュを決めたチームの優位は大きく、逆にスタートでつまずいた代償もまた大きいということだ。ただ、これまではそうした新規定への対応でも、フェラーリやマクラーレンといったトップチームは豊富な経験とデータの蓄積、そして恵まれた人材や優れたチームマネージメントによって、そうした「転機」をチャンスとして生かし、優位を保ってきたはずだった…。

 さらに不思議なのは、彼らがそうして「新規定への対応」に失敗しただけでなく、これまで常に高いレベルを維持してきたマシンの信頼性やレース戦略といった、いわゆる「チーム力」や「仕事の質」という点でも、多くの問題を抱えてしまっているということだ。開幕以来、フェラーリのチーム運営は信じられないような判断ミスを何度も繰り返しているし、マクラーレンはオーストラリアGPでの「偽証事件」でハミルトンとレースエンジニアが醜態をさらし、長年F1界をリードしてきた名門チームの品位を大きく傷つけた。フェラーリにしろ、マクラーレンにしろ、これまでだったそれなりに「エゲツナイ面」がなかったワケではないが、総合的な「仕事の質」という点では、すべてのチームにとってのリファレンスとなるような、高い「基準」を示してきたチームだけに、現在の目を覆わんばかりのバタバタ具合が本当に信じられない気持ちだ。

 僕自身、これまでずっと「ダメなチーム」について語るとき、常にフェラーリやマクラーレンをひとつの「基準」として考えてきた。その「お手本」に今起きている事態は何なのか? 慌てて結論を出すことはできないが、その上でひとつのヒントとなるのは「人」という要素かもしれない。近年、現代F1は何百人ものスタッフが力を合わせて戦う「チーム戦」であり、以前のようにひとりの「カリスマ」がチームの成功に与える影響は少ないと言われてきた。だが、成功のための必須条件である「質の高いチームマネージメント」を実現するためには、やはり優れたリーダーが必要であり、結局は「人」に帰するのではないか?

 ロス・ブラウンというリーダーの存在が旧ホンダチームを鮮やかによみがえらせ、そのブラウンGPを追うレッドブルの躍進も、かつてウイリアムズやマクラーレンに数々の栄光をもたらしたテクニカルディレクター、エイドリアン・ニューイの存在抜きでは語れないはずだ。ロス・ブラウンが去り、ジャン・トッドが去り、さらにはミハエル・シューマッハーという精神的支柱を失ったフェラーリの混乱や、ロン・デニス引退後のマクラーレンの惨状を見るにつけ、F1における「人」という要素の大切さが改めて浮かび上ってくる気がする。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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