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2009年2月28日

琢磨は資金難でシートを獲得できなかった

 相変わらず暗いニュースばかりが続くニッポンのモータスポーツ界。2月6日にはトロロッソが最後まで残っていたシートにセバスチャン・ブールデの残留を発表し、同チームからの参戦を狙っていた佐藤琢磨がF1カムバックのチャンスをほぼ失った。
 

 昨年から3回にわたりトロロッソのテストに参加し「そのスピードと献身的な態度でドライバーとしての価値をハッキリと証明した」(個人マネジャーのアンドリュー・ギルバート・スコット)にも関わらず、琢磨がトロロッソのシートを獲得できなかった原因は、ライバルであったセバスチャン・ブールデとの「持ち込みスポンサー獲得競争」に敗れたからだと琢磨のマネージメントサイドが認めている。

 ちなみに今のF1界「ドライバーとしての実力だけ」でシートを獲得できるドライバーはほんの一握りだけである。以前、何かの雑誌で某F1ジャーナリストが「琢磨ほどの実力を持つドライバーが持ち込みスポンサーの額でチームと契約するなど有り得ない」などとトンチキなコトを書いていたが、まさか、そんなハズはないだろう? ましてや彼が狙っていたのは資金的に余裕のある(というチームがこのご時勢、本当に残っているのかはともかく)自動車メーカー系のチームではなく、小規模プライベーターの代表格ともいえるトロロッソなのである。

 昨年までのチーム代表、ゲルハルト・ベルガーが持っていたチームの株式を実質的な親会社であるレッドブルが買い戻したことで、100%レッドブル参加となったため、短期的には資金面での基盤が安定したと言えるかもしれないが、某大手自動車メーカーですら夜逃げ同然の体でF1を逃げ出すこのご時勢に、トロロッソがドライバーの持ち込みスポンサーに関係なく「純粋な実力でドライバーを選ぶ」などあるワケがない。

 もちろん、ミハエル・シューマッハーかフェルナンド・アロンソが契約してくれるというならハナシは別かも知れない。だが、そのときは黙っていても大口のスポンサーが自動的に付いて来るに決まってるワケで、今チームが本当に必要としているのは「ある程度実力があって、しかも十分なスポンサーを持ち込んでくれるドライバー」である。それに、セバスチャン・ブールデは決して悪いドライバーじゃない…というか、去年のシーズン後半に見せた彼の頑張りを考えると、彼がここでクビになったら気の毒だと思うぐらいだ。

 で、僕が何を言いたいのかと言えば、あまりに冷たすぎる表現かもしれないが、最終的にこういう結果に終わったのは琢磨の陣営が十分なお金を集められなかったからであり、それ以上でも、それ以下でもないというコトだ。もちろん、琢磨が日本のモータースポーツ界にとってかけがえのない財産であることは言うまでもない。だが、モータースポーツ発祥の地であり、かつてはF1に一時代を築き上げたフランスにとって、現状、セバスチャン・ブールデが唯一のF1ドライバー候補であることを考えれば、ブールデの去就はフランスのモータースポーツ界にとっても大問題なのだ。

 トロロッソでの1年目となった昨年にそれなりに結果を残し、チームからの信頼も得ているブールデを差し置いて、琢磨が「残るひとつのシート」を確実に手に入れるためには、絶対にブールデを上回る額のスポンサーマネーをトロロッソにもたらすことが必要だが、唯一のフランス人F1ドライバーを失いたくないフランスのモータースポーツ界も必死で資金をかき集めたに違いない。トロロッソとすれば、そうして両陣営にギリギリまでスポンサーを集めさせ、その額が競りあがったところで、より多くの資金を獲得したドライバーとサインするというのが理想である。

 そして、最後はフランスが競り勝った…。もしかするとフランスGPの集客を心配したバーニー・エクレストンがそっとブールデの背中を押しをしたかも知れないが、それとてF1の「椅子取り合戦」ではゲームの一要素である。ふたりともこの不況の中でスポンサーを集めるのは大変だっただろうが、特にモータースポーツに対する強烈な逆風が吹き荒れる日本で資金集めをしていた琢磨は辛かっただろう。一説に30億とも、35億円とも言われるスポンサー資金を今の日本で集めるのは並大抵のコトではない。

 で、ここから先は前回のコラムに似てくるのだが、日本と同様に厳しい不況に見舞われているフランスで、ブールデがなぜ、琢磨を上回る資金を集められたのはスゴイ! と改めて思った。それはすなわち、フランスにはこんな時代でも「フランス人F1ドライバー」守るため、少なからぬ資金を出そうという人たちが、まだいるということだ。

 一方、琢磨の陣営が金策に走り回ったであろうニッポンの社会に、フランス社会ほどの包容力は残っていなかったということか? いずれにせよ、コレで琢磨は厳しい状況に追い込まれた、琢磨のように強烈なキャラクターを持った日本人ドライバーは、めったに現われるものではない。もう1度、F1のコース上で彼の雄姿を見たいと思っている多くのファンのためにも、何とかF1で生き残って欲しいのだが…。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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