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2008年12月06日

ホンダ撤退に思ふ(1)…当然と理解しつつも「強い怒り」

 ドンヨリとした曇り空の下、強い南風が吹き荒れる青山一丁目の交差点。「F1撤退」の記者会見を終えてホンダ本社ビルを出た僕のアタマの中には、いくつかの異なる気持ちが複雑な形を成して漂っていた……。あまりにあっけない、そして情けない、足掛け10年にも及んだ「ホンダ第3期F1活動」なるものの幕切れに、ドンヨリと暗い空が何ともお似合いな日だった。

 本当に突然の発表だったが、不思議と「驚き」は無かった。「ああ、そうか……」というのが、胸の奥から出てきた、おそらく最初の言葉だった気がする。あえて言えば、撤退の予感があったわけではないのに、この事態を「驚いていない自分」が、唯一の「驚き」だった。朝10時にホンダ広報部から緊急記者会見の連絡があった瞬間、すぐにホンダF1の「訃報」だと思ったが、悲しみは沸いてこなかった。すぐに何人かの知り合いに電話をし、淡々と支度をして青山へと向かった……。

 こんな事をいうと、意外に感じる人もいるかもしれないが、僕はホンダのF1撤退を、ある意味、当然の事だと思っている。撤退のステートメントを読み上げる福井威夫社長の目には、うっすらと悔し涙が浮かんでいたが、ビジネスの面から考えれば、そして「レースの世界」の外側の視点から見れば「このご時勢にF1などやっている場合ではない」というのがむしろ普通の感覚であり、人一倍モータースポーツへの想いが深い福井社長が撤退を決めたことは文字通り「苦渋の決断」であっただろうが、経営者としては正しい判断であったと評価することもできると思う。

 福井社長のコメントにもあったように、サブプライム破綻後の世界は急激に変化しており、自動車産業は一瞬にして激流の中に飲み込まれている。今や「プライベートジェットに乗った物乞い」に成り下がった米国ビッグ3の窮状は、彼らのパイを奪って米国市場で成長を続けてきた日本の自動車メーカーにとっても人事ではなく、その影響は来年以降、さらにハッキリとしたダメージとなって現れてくることだろう。こうした中、多くの期間労働者を解雇する一方で、年間、数百億円をつぎ込んでF1を戦うことが許されるのか? という問いが「レースの外」の世界から出るのは当然であり、それは今、F1に参戦しているすべての自動車メーカーが直面している問題でもある。

 「これまでF1に注いできたリソースの再配分を行い、新たな時代に対応していくことで、この決断が正しかったことを、今から3年後、5年後に証明したい。今回あえて活動休止ではなく、撤退という表現を使ったのも、そうした強い意志の表明だ」という福井社長の言葉は、故に一定の説得力を持っている。急激に悪化する世界経済、重要さを増す環境問題への技術的対応やモータリゼーションの変化、来るべき「化石燃料の枯渇」に向けた長期的な戦略の確立……。世界が大きな転換点を迎えている中で、自動車産業が直面する課題は多く、これからの5年間が会社の将来を決めると言っても過言ではない。そう考えると「F1なんてやってる場合じゃない!」というのは至極マットウな発想であり、過去2シーズンのホンダが「最もお金を使いながら、最も成績の悪い自動車メーカー」であったという悲しい事実と考え合わせれば、今回の撤退はむしろ当然だとさえ言えるのだ。

 こうした受け止め方は、その夜のテレビで見た「識者」たちの意見とも多くの部分で重なっていた。それはおそらく「世間の一般的な見かた」として受け入れられ、定着していくことになるのだろう。「時代の変化と共に、自動車に求められるモノは変わった」「豪華さや速さはもはやクルマに求められてはいないのです」テレビ画面に登場するニュースキャスターやコメンテイターたちは口々に時代の変化を語り、ホンダのF1撤退のニュースをその象徴的な出来事として扱っていた。

 だが、そうした状況をある程度理解しつつも、僕の中には同時に、ホンダに対する「強い怒り」や「憤り」が浮かび上がってくるのを抑えることが出来ない。なぜなら、そうした「自動車レースの外の世界」の論理を盾にF1を投げ出してしまったホンダという企業がこれまで「レースは自分たちのDNA」と公言し、あたかもモータースポーツを象徴する企業のように振舞ってきたからだ。そんなホンダには「レース世界の外」の論理とは別に「レースの世界の一員」としての社会的責任があり、それは、これほど身勝手な形で放棄していいものではないと思う。

 長年に渡って多くのファンの期待を煽り、その期待をある種の「燃料」として消費してきたホンダという企業が、自らのをモータースポーツ象徴であるかのごとく振舞ってきたホンダが、実際にはいかに身勝手でモータースポーツの世界を大きく傷つけているのか? その点を曖昧にしたままにしておくことは、もはや許されないと思う。そこで次回は「レース世界の外」ではなく「レースの世界」の視点から見た『ホンダ撤退』のもうひとつの像をジックリと検証してみたいと思う。(続く)


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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