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2008年10月20日

ハミルトン“退屈なレース”で今年こそ王座つかむ

 「金曜日と土曜日のタイヤの状態を見る限り、赤いクルマ(フェラーリ)と銀色のクルマ(マクラーレン)の磨耗に大きな違いはありません、グレーニングの出方は若干、銀色の方が近いけれど、やはりこの3レースほどマクラーレンのクルマは良くなっているなぁという印象です。そんなワケで今日の決勝もスタートでハミルトンがすんなり前に出ると“退屈なレース”になる可能性は大ですね……」とブリヂストンの浜島裕英モータースポーツタイヤ開発本部長。タイトル争いの天王山と目された中国GPは果たして、浜島さんの予言どおりルイス・ハミルトンの圧勝に終わった……。

 「今シーズン最高のスタートが切れた」というハミルトンがトップで1コーナーを抜け、キミ・ライコネン、フェリペ・マッサのフェラーリ勢がそれを追う形でレースはスタート。だが、硬いプライムタイヤを履くマクラーレンのペースはオプションでスタートしたフェラーリ2台のラップタイムを明らかに上回っており、ジワジワと2位以下のとの差を開いてゆく。「序盤の数ラップはどうしてもルイスについていけず、何とか同じペースで走れるようになった時にはもう、大きな差をつけられていた。その後、何度かギャップを詰めようと試したけど、手遅れだったんだ」とライコネン。しかも3位のマッサはそのライコネンについて行くのがやっとで、とてもハミルトンに挑戦できる状態ではなかった。

 追い抜きの難しい上海のコースで、ここまでマクラーレンの優位が明らかだと、チャンピオンシップを賭けた「大切なレース」も「退屈なレース」にならざるを得ない。最後は「チームが僕に何を望んでいるかはわかっている」というライコネンが「自主的に」ポジションをマッサに譲り、ハミルトンは2位マッサに15秒近い大差をつけて優勝! 2週間後の最終戦、ブラジルGPを残して、ドライバーズ選手権のリードを「7」へと広げ、初のチャンピオン獲得に「王手」をかけた。仮に次のサンパウロでライバルのマッサが優勝(10ポイント)しても、ハミルトンが5位に入れば4ポイント獲得でタイトルを手にするわけで“計算上”は圧倒的な優位に立ったことになる。

 だが、油断は禁物……である。なぜなら去年の最終戦、ブラジルGPを前にしたハミルトンのリードが今年の同じ「7ポイント」だったからだ。ちょうど1年前の中国GPで、“ピットレーン入り口でコースアウト”という、信じられないようなアクシデントでノーポイントに終わったハミルトンは、続くブラジルでもレース序盤にアロンソと競り合ってコースアウト! そこから一旦はポイント圏内まで追い上げて再びタイトルに手をかけたところで、今度は不運なマシントラブルにも見舞われて、僅か1ポイント差でライコネンの逆転を許し、一度はほぼ手中に収めたと思われた王座を逃しているのだ……。

 もちろん、1年目の新人であるにも関わらず、同じマクラーレンを駆るチームメイト、アロンソとの“冷戦”で異様な雰囲気の中におり、ライコネンを交えた「三つ巴」のタイトル争いを演じていた去年の状況と比べれば、ハミルトンの受けるプレッシャーは遥かに少なく、マクラーレンもハミルトンのチャンピオン獲得に全力を集中できる状態にある。「我々はタイトルのコトだけを考えて次のブラジルを戦うだろう。仮にフェラーリが1-2フィニッシュを決めても、ルイスが5位以内に入ればいいのだから、無理をする必要はない。ミスをせず、トラブルに巻き込まれずに“退屈なレース”で確実にタイトルをモノにすることが我々の目標だよ」とマクラーレンのロン・デニス。

 一方、地元サンパウロで奇跡の逆転に賭けるマッサも決して諦めてはいない。「今日は明らかにルイスが速かったけど、大切なのはこれで気落ちせずにブラジルでの優勝に向けて全力を注ぎ続けることだ。レースは何が起きるか分からないからね……」と語るその表情は、むしろこれまでより吹っ切れて見えたほど。昨年のレースではフェラーリ勢が鮮やかな1-2フィニッシュを飾っており、インテルラゴスを埋め尽くす大観衆からの熱いサポートを背に受けて最後の戦いへと挑む。

 ロン・デニスの狙い通り「退屈なレース」でハミルトンが黒人初のF1世界チャンピオンに輝くのか? はたまた「予想外のドラマ」によって91年の故アイルトン・セナ以来、17年ぶりのブラジル人チャンピオンが誕生するのか? 8ヶ月に及んだ2008年のF1グランプリは2週間後のブラジルGPで“グランドフィナーレ”を迎えることになる。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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