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2008年10月03日

夜のシンガポールに浮かんだ跳ね馬の弛緩

 美しいシンガポールの夜景に白く浮かび上がるサーキット。F1史上初の試みとなったシンガポールのナイトレースは大成功に終わった。1600基の照明でコースを照らすという話を初めて聞いたときには、ドライバーの視界は大丈夫なのか? 雨が降ったらどうなるんだ?、そもそもサーキットは本番までに完成するのか…? と、不安になったものだが、路面がかなりバンピーであることを除けばドライバーたちの印象もおおむね好評で、シンガポールは市街地サーキットを利用したレースの新たな魅力を作り出すことに成功したと言っていいだろう。「これは将来、東洋のモナコGPになるかもしれない」とはあるチーム関係者の言葉だが、確かにそういうポテンシャルを持っている気がする。
 

 その一方で残念だったのが、フェラーリのふがいなさだ。こういうレイアウトの市街地コースの場合、セイフティーカーの導入がレース展開を大きく変えることは十分にあり得ることだし、その結果、ルノーのフェルナンド・アロンソが優勝したり、ウイリアムズのニコ・ロズベルグが2位表彰台を獲得するなど「予想外」の結果を生み出したことも面白かったが、完璧なタイムアタックでポールポジションを獲得し、レース序盤も素晴らしい走りを見せていたフェリペ・マッサが、給油作業のミスですべてを失ってしまったのはあまりにももったいなかった。セーフティーカーの影響があったとはいえ、あのまま走り続けていればハミルトンの前でフィニッシュできた可能性は十分にあり、チャンピオン争いでもトップのハミルトンに並ぶか、再び逆転することも可能だったはずで、今回、結果的にノーポイントに終わったダメージはあまりにも大きい。

 それにしても、フェラーリは一体どうなってしまったのだろう? ピットインでの危険な事故は最近のバレンシアでも経験したばかり。今回の失敗もピットアウトのタイミングをライトでドライバーに伝える“シグナルシステム”の操作をスタッフが誤り、まだ給油が終わっていない状態でゴーサインを出したことが原因だということだが、今季は何度も同じような失敗を繰り返しており、単純なミスそのもの以上に「事故や失敗の教訓が生かされず、改善が進んでいない」という点に、より深刻な問題を感じずにはいられない。シューマッハー時代のフェラーリに浸透していた「完ぺき主義」はどこに行ったのか? チーム内に巣食う「緩み」の代償はこうした形で現れる…。

 フェラーリ黄金期を支えた頭脳、ロス・ブラウンがホンダに移籍し、冷徹かつ狡猾なジャン・トッドもチームを去った今、残された「子供たち」に重いプレッシャーがのしかかっていることは間違いない。今回の事件で彼らに対する逆風はさらに強まることになるだろう。だが、自分たちが今、何をしなければならないのか? 黄金時代に育った現首脳陣はその答えを絶対に知っているはずだ。過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない。残り3戦、すべての可能性を掘り出して、タイトルを狙うためにも、以前のような緊張感と完ぺき主義を跳ね馬に取り戻してほしいものだ。

 「ミスを犯したチームスタッフを非難しても仕方がない。非難するより『ともに頑張ろう』と声をかけることのほうが重要だと思う。なぜなら、今チームに必要なのはより高いモチベーションを持って残りのレースに臨むことだからね」とレース後のマッサ。そのコメントにかつてのミハエル・シューマッハーが貫いた姿勢が、マッサにも引き継がれていることを感じた。ハミルトンとの差7ポイントで迎える富士、上海、最終戦ブラジル…。チャンピオン争いのドラマを故郷ブラジルまで持ち帰れるのか? まずは次戦、日本GPに注目だ。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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