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2008年9月17日

戦う「楽しさ」感じるベッテルのキャラに期待

 F1の現場で久しぶりに泣いた……。表彰台の下で初優勝の喜びに沸くトロロッソのみんなの本当に嬉しそうな姿を見ていたら、何だかこっちまで目頭がウルウルしてきたのだ。まだ子供っぽい顔立ちのセバスティアン・べッテルが表彰台の真ん中に立って何度もガッツポーズを繰り返すと、チームの連中の歓声も頂点に達し、あっちこっちで目を真っ赤にしながら抱き合って喜んでいる。中にはミナルディ時代からの知った顔もあり多く、長いあいだ弱小チームで戦い続けてきた彼らにとっては、まさに「夢のような瞬間」だったに違いない。

 シューマッハー時代にイヤというほど聞かされたドイツ国歌+イタリア国歌の組み合わせが、この日は全く別の曲に聞こえるほど新鮮だったのも、史上最年少F1ウイナーとなったべッテルの若々しく爽やかなキャラクターとトロロッソという小さなチームがこの日の主役だったせいだろう。それにしても、誰かが心の底から喜んでいるのを見るのは本当に気持ちのいいものだ。ものすごく、心を動かされたし、自分があの場所に立ち会えたことが本当に幸運だったと思う。

 ベッテルのいいところは、彼がF1のドライブを心から愉しんでいることが、外からでもハッキリと分かることだ。1週間前のスパでも雨の難コースへのチャレンジを本当に楽しそうに語り、天候の悪さなど気にかける様子もない。ここ数戦、本家レッドブルを上回る好調さを見せているトロロッソの戦闘力が今回の優勝をもたらしたことは事実だが、それを操るベッテルの類まれな才能とドライビングを純粋に愉しむ姿勢が、雨の予選でのポールポジション獲得と、初優勝というふたつの「史上最年少記録達成」をもたらしたのだろう。

 しかも、ベッテルが凄いのは彼がものすごく「チャーミング」で「カワイイ」事である……って、いや、僕は別に「その手の趣味」はないので誤解しないで欲しい。ミハエル・シューマッハーが新人として登場したときや、アロンソのデビュー時、もしくは最近のハミルトンも含めて“未来のチャンピオン候補”と目されるドライバーたちには新人のときから一種独特のオーラがあって、どんなに若くても「僕は誰よりも速くて強いから、そのうち絶対チャンピオンになるんだもんね!」という……それはもう、感じ悪いぐらいの自信、もしくは威圧感が伝わってくるものだ。

 ところがベッテル君はそういうのが全然無くて、才能は超一流なのに、雰囲気的には「ただ純粋にレースが楽しくてしかたない」男の子が目の前にいる感じなのである。もちろん、これから先、戦い続けてゆく中で、そんな彼のキャラが変質していく可能性もあるのだろうが、あの童顔とドイツ人らしからぬ? お茶目なキャラそのままに、彼が今後もどんどん強くなっていけたら「モトGPのバレンティーノ・ロッシみたいな新しいタイプのチャンピオン候補になれるんじゃないだろーか?」と思わず夢が膨らんでしまう。

 そう、今のF1には彼みたいなキャラが絶対に必要なのだ。戦うことの厳しさだけではなく、戦うことの「楽しさ」をダイレクトに感じさせてくれるドライバーが。「本当に夢みたいだ。表彰台の上からみたあの景色を、僕は一生忘れることはないだろう。チームのみんなや家族が喜んでいるのが見えて、コース上には観客がどんどんと流れ込んでくる……、ホントに、これまで見た中で最高の景色だったよ」と嬉しそうに語る「新キャラ」の登場が「タイトル争いは接近しているのに、いまひとつ盛り上がらない」と言われるF1の「救世主」となることを期待したい。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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