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2008年8月07日

コバライネンの初優勝に想う、GP2世代の台頭と「F2」

 あれは確か2002年のF3マカオGPだったと思う。リスボアコーナー外側の観客席でオープニングラップの先頭集団を待っていると、例のごとく血の気の多いF3ボーイズたちが狭いコーナーに一団となって飛び込んでくる。案の定、いくつかのマシンが接触し、大混乱状態のコース上で、更に1台が360度スピン…。ところがコースのど真ん中でクルっと1回転したそのマシンがほとんどスピードを落とさず、ナニゴトも無かったかのようにコーナーを立ち上がってゆくではないか! まるでフィギュアスケートのスピンを見ているかのようなその光景に一瞬、あっけに取られながら、気を取り直してカーナンバーを確認すると…それが「ヘイッキ・コバライネン」という名のフィンランド人ドライバーをはじめて意識した瞬間だった。

 小柄な体に、いかにもフィンランド人らしいプラチナブロンドの髪と白い肌、彼がその後、GP2にステップアップしてサーキットで直接言葉を交わすようになってからも、控えめだが明るくて気さくなそのキャラクターと、コース上で見せる切れ味の良い走りに触れて、僕はすぐに彼のファンになった。その後、テストドライバーを経て、ルノーからF1デビューを果たし、今年アロンソと入れ替わりでマクラーレンへと移籍! デビュー3年目にしてつかんだ大きなチャンスに大きな注目が集まっていた。

 そんなコバライネンが、先週のハンガリーGPで念願のF1初勝利を挙げた。レーズ前半、完全にレースの主導権を握っていたチームメイトのルイス・ハミルトンが思わぬタイヤトラブルで足をすくわれ、代わってトップに立ったフェラーリのフェリペ・マッサがチェッカーフラッグまで残り3周を残して無念のエンジンブロー…と、上位陣にトラブルが起きた結果巡って来た、いわゆる「タナボタ」の勝利ではあったが、まずはコバライネンにおめでとうと言いたい。いつもニコヤカで感じのいいコバライネンだが、今シーズンは開幕以来、いくつかの不運にも見舞われ、常にハミルトンと比較される厳しい環境の中で大きなプレッシャーにさらされてきた。そんな彼にとって、この1勝は間違いなく心理的にも大きな意味を持つはずだ。ここにきてマクラーレンの戦闘力が伸びているだけに、一皮向けたコバライネンの後半戦の活躍に期待が掛かる。

 ところで、そんなコバライネンの初勝利を見ながら、僕は改めてF1の急激な「世代交代」を実感した。今回、コバライネンに次ぐ2位表彰台を獲得したのは昨年のGP2チャンピオンでもあるトヨタのティモ・グロック! GP2卒業生だけを挙げても、ニコ・ロズベルグ(2005年GP2チャンピオン)、コバライネン(2005年GP2シリーズ2位)、ルイス・ハミルトン(2006年GP2チャンピオン)、ネルシーニョ・ピケ(2006年GP2シリーズ2位)、ティモ・グロック(2007年GP2チャンピオン)、中嶋一貴(2007年GP2シリーズ5位)と既に6人を数え、それぞれが今年のF1シーンの中で既に重要なポジションを担っている。こうしてみると「GP2シリーズ」の存在が、F1の歴史の中にハッキリとした「地層」を形成していることが分かる。

 もちろん、GP2の卒業生がみなF1での将来を約束されているワケではないし、いったんはF1に「進級」を果たしたものの、そのポジションを守りきれなかったドライバーも何人かいる…。また、ロベルト・クビツァやセバスチャン・ベッテルのように、GP2を経験せずにF1で実力を証明しているドライバーの存在も大きい。それでも、過去3シーズンのGP2の存在が確実にF1の新陳代謝を加速していることは間違いないと思う。ところが、一連のスキャンダルを何とか乗り切ったFIAもモズレー会長は最近、F1のひとつ下にあたる「若手養成のためのカテゴリー」としてF2の復活を提案しはじめた。GP2がその機能をきちんと果たしているいる今、なぜ、敢えて新カテゴリーの創設が必要なのか? 正直なところ理解に苦しむところだ。ルノーを母体とした組織を持つGP2の「形態」や、その運営に関しては、もちろん、いくつかの課題や問題点が残っていると思うが、この次期にあえてFIAがそのライバルカテゴリーを作り、無用な混乱を招くことは避けるべきだろう。

 個人的には現在のGP2を母体としながら、運営形態をより透明化し「F2」するのが理想ではないかと考えている。そもそも、今もF1があってF3があるのに「F2」が存在しないというこの不思議な状況は、どう考えても不自然で、一部のモータースポーツマニア以外には到底理解できないに違いない。モノゴトもその名称も、出来るだけシンプルなほうがより多くの人たちに訴えかけられる。F3→F2→F1、僕が子供の頃はそうだった……。難しいのはイヤなのだ。「それでいいのだ!」


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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