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2008年7月15日

「奇跡の3位表彰台」の後に思ったこと

 BMW・ザウバーが優勝したときに“ラッキーパンチの条件”というコラムを書いた。その主旨を簡単にまとめるなら「カナダGPでのBMWの優勝は確かにラッキーな要素が多かったけれど、そのチャンスを拾えたのは彼らの着実な進歩の積み重ねがあったからだ」といった内容だ。この理屈はシルバーストーンでバリチェロが3位表彰台を獲得したホンダにも当てはまるのか…? 正直なところ、ちょっと“微妙”な気分だ。

 変わり続ける路面コンディションへの対応、特にウエットタイヤの選択が勝負を大きく分けた先週の英国GPで、ホンダ久々の3位表彰台は主にふたつの要素によって実現した。ひとつは35周目にいち早く深溝の“エクストリームウエザータイヤ”に変更したホンダの好判断、そしてもうひとつはぬれた路面で久々に見せたベテラン、バリチェロの見事なドライビングだ。このふたつが組み合わさったことで、20台中、予選16位(バリチェロ)、17位(ジェンソン・バトン)だったホンダをレース中盤「コース上で最速の1台」へと変身させた。

 多くのドライバーがぬれた路面に悪戦苦闘し続ける中、35周目にタイヤ交換を行う時点で既に6番手までポジションを上げていたバリチェロだったが、そこから次のピットストップで浅溝のインターミディエイト(ノーマルウェット)タイヤに戻す。ほんの10ラップほどの間にヤルノ・トゥルーリ(トヨタ)、ニック・ハイドフェルド(BMW)らを次々とコース上で追い抜いて2番手にジャンプアップ! 一瞬、周回遅れにされていたトップのルイス・ハミルトンも37周目に鮮やかなオーバーテイクで抜き返し、同一周回へと戻って見せた。不振にあえぐホンダがコース上でマクラーレンをぶち抜く…。そんな信じられないような光景が「タイヤ選択の魔法」によって実現した。

 既に述べているように、この「魔法」がタイヤ選択を含めたホンダの的確なピット戦略と、それを見事に生かしきったバリチェロの素晴らしいドライビングによってもたらされたものであることは間違いない。だが、それと同時に今回の3位表彰台が、あの日の気まぐれなイギリスの空模様と同じぐらい「エクストリーム(極端)」なコンディションの賜物であったことは否定できないだろう。ホンダが見せた的確なタイヤ選択が、新チーム代表「ロス・ブラウン効果」の表れなのでは…と期待した向きもあったが、どうやらエクストリームタイヤの選択も雨の中で何度もコースオフ寸前の状態を経験した、バリチェロ自身のリクエストだったようだ。

 もちろん「レースは結果がすべて」だ。どんな状況であろうと、2006年の最終戦ブラジルGP以来の3位表彰台という結果はホンダにとって喜ぶべきことだし、バリチェロ自身にとっても、ホンダ移籍後初めての表彰台獲得が精神的な面で大きな救いとなることだろう。レース後、ピット前で記念撮影を行うホンダチームの表情にも、これまでの辛く厳しい状況から「一瞬」でも開放された喜びがあふれていた。この3位が彼らのモチベーションの支えとなり、シーズン後半に良い影響を与えることを祈らずにはいられない。

 しかし、ホンダの置かれている今の状況が、依然として非常に厳しいものだということもまた、今回の英国GPはハッキリと表していた。予選では(これといったトラブルがあったわけではないのに!)予選第1ステージを2台そろって突破できず、マシンのスピード不足は誰の目にも明らかだ。フェラーリ、マクラーレン、BMWのトップ3を除けば、第2グループはまれにみる接近状態にある今シーズンのF1で、今のホンダは辛うじてその「第2集団」含まれてはいるものの、全体的なパフォーマンスで評価すれば、その第2集団の「最後尾」に近いポジションにあり、シーズン前半戦を終えてなお、その厳しい状況に大きな変化の兆しは無い。その意味では、第2集団上位のポジションをキープしているトヨタの「マニクール、3位表彰台」とも、並列に扱うことはできないような気がする。

 「今のホンダはレギュレーションが大きく変わる2009年シーズンに照準を合わせ、持てる力の多くを今年ではなく、来季に向けて注いでいる」。ホンダ復活を期待する僕にとっては、そんな説明が唯一、この痛々しいほどのホンダの現状を見続ける辛さを、少しだけ和らげてくれる。もちろん、その「2009年シフト」が奇跡を起こし、来年のホンダを一挙にトップグループに押し上げるほど今のF1は甘くはないだろう。ロス・ブラウンによる新体制の下、一歩ずつ実力を積み重ねてゆく、これはその「最初の一歩」が始まったに過ぎないのだ。だが、少なくともその方向性が「今度こそ」正しいものであることを祈りたい。もうこれ以上、「にわかづくり」の表面的な期待はあおらなくていい…。あと2年、いや、あと3年かかってもいい。その代わり、いつの日か、F1の世界で築き上げた「ホンダ」という名前の威厳に恥じない姿を見せてほしい…。すっかり泥にまみれた彼らの誇りを取り返してほしいと思う。


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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