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2008年5月14日

僕は怒りを感じている

 スーパーアグリF1の消滅からもう1週間、先週火曜日(5月6日)の正式発表後1度もコラムを更新しなかったのは「やっぱりこうなったか……」という印象の後に、正直、何を言うべきか分からなくなってしまったからだ。スーパーアグリに関する3回のコラムを読んだ何人かの友人からは「良くぞ書いてくれた!」という声があったが、逆に「あまりにもホンダに責任を押し付けすぎている」というご批判も頂いた。

 この問題の難しさはまさに、それぞれの立ち位置によって問題の見え方が大きく異なるという点にあると思う。鈴木亜久里の視点、佐藤琢磨の視点、ファンの視点、ホンダの視点、他チームの視点……。しかも、ホンダの視点とはイギリスに本拠地を置くホンダ・レーシングF1(HRF1)のそれなのか、東京、青山に本社を置く本田技研工業(HMC)のそれなのか、はたまた栃木の本田技術研究所(Honda R&D)のそれなのかすら、明確ではないのだからタチが悪い。逆の言い方をすれば、そうした異なる立場=視点が「スーパーアグリF1」という大きな仕掛けに対してあまりにもバラバラであったことが、結果的に不幸な状況を招いたということもできるだろう。

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 誤解しないでほしいのだが、僕は「スーパーアグリが撤退を余儀なくされた」という事実を残念だと思うけれど、そのこと自体にショックや怒りを感じているわけではない。むしろ、チームが置かれていた状況を考えれば、これはある意味、当然の結果だったと思っている。それどころか、ホンダF1という視点に立てば、彼らは自分たちの活動に専念できる状況が整ったわけで、ようやく本来あるべき姿に戻ったとすら考えているのだ。

 前にも書いたが、そもそもホンダF1には他チームのサポートなどをしている余裕などどこにも無かったはずである。資金面的にも、技術の面でも文字通りの「総力戦」となった現代のF1で、彼らに他チームの技術支援や資金援助をする余裕などあるはずがないし、あってはならない。もし、そんな余裕があるのなら、それはすべて「本体」の戦いに注ぎ込むべきだろう。2000年のF1カムバック以来、もう8年間もふがいない戦いを続けているホンダF1ならなおさらである。おそらく昨年末からチーム代表となったロス・ブラウンだって同じ考えだったに違いない。F1で真剣に「勝つ」ことを望んでいるならそれが当然。そんなこと、誰だって分かっていたんじゃないのだろうか?

 スーパーアグリの撤退以降、多くのファンがホンダへの怒りを爆発させているようだ。彼らが愛するスーパーアグリを撤退に追い込み、琢磨のシートを奪ったのは「ホンダが支援を継続しなかったから」というのがその理由である。だが、僕の怒りは必ずしも、彼らのそれ同じではない。なぜなら僕は「ホンダがこのまま支援を継続し、長期的にスーパーアグリ(もしくはスーパーアグリを買収した新チーム)をサポートする」という方向も従来のいびつな状況を継続するという意味で、やはり最悪の決断だっただろうと思うからだ。彼らがそんな妥協を続けている限り、ホンダF1に明るい未来など期待できないだろう。

 もちろん、今でもそれを期待している人がどれだけいるのか……というほどに、その栄光は泥まみれになってはいるが、僕はこのまま「弱いホンダ」を見続けるのは耐えられない。だからこそ、安易な妥協の連続でゆがんだ状況を作り出し、その産物としてスーパーアグリの新たなF1チームまで作り上げた末の、この顛(てん)末を、悲しく、情けなく思うのだ。

 ホンダは何のためにF1を戦っているのか? 彼らはF1で何がしたいのか? そのために本当に必要なことは何なのか? 確か、1年以上前にも同じことを書いたが、それらが見えない状況があまりにも長い間続いてきたことに、僕は怒りを感じている。だからこそ、その場しのぎの安易な妥協は、これで本当に最後にしてほしい。トルコGP決勝、奇抜な1ストップ作戦で後方集団に埋もれ続ける2台のホンダを見ながら、ため息をついている多くのF1ファンたちが、本当にあきらめてしまう前に……。

※写真は記者会見するスーパーアグリ・ホンダの鈴木亜久里代表(共同)


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F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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