日刊スポーツのニュースサイト、ニッカンスポーツ・コムのモータースポーツページです。



ここからこのサイトのナビゲーションです

共通メニュー

企画特集


2008年5月04日

ホンダの無責任さでスーパーアグリは迷走

 スーパーアグリ2年目のシーズンとなった07年、ホンダとチームはついに「禁じ手」に手を出してしまう。開幕戦オーストラリアGPに姿を見せたのは、前年のホンダが走らせたRA106をベースに07年のレギュレーションに合わせて改造したSA07。もちろん、昨年もカスタマーカーの使用は禁止なので、公式には「スーパーアグリのオリジナルマシン」ということになっていたが、その実体が06年型ホンダF1改であることは誰の目にも明らかであり、ホンダは外部の技術系コンサルタント会社を通じて間接的に“技術支援”を行ったという一種の「詭弁」を使い、実質的なカスタマーカーをスーパーアグリに供給するという「暴挙」に出たのである。

 もちろん、F1の統括団体であるFIA(国際自動車連盟)がこれを問題とせず、スーパーアグリのエントリーやマシンを合法と認めた以上、何も問題はないという論理も成り立つのだろう。また、レッドブルのNO・2チームであるトロロッソもエンジンこそ異なるものの、レッドブルと基本設計が極めて近い車体を使用していたのだから問題ないという声もあるようだ。しかし、FIAが提案していたカスタマーカーの導入はあくまでも08年シーズンからという前提であり、少なくとも07年は各チームが独自に車体を製造する義務があったはずである。FIAがいかなる理由からスーパーアグリやトロロッソの車体を「合法」と見なしたのかは分からないが、レギュレーションの精神を尊重すれば、それが限りなく「脱法行為」に近いことは明らかであり、プライベートチームであるウイリアムズやスパイカー(現フォースインディア)から強い不満の声が挙がったのはむしろ当然のことだろう。それに、こうした行為は援助するホンダ側の判断があって初めて実現するものでり、僕はスーパーアグリ以上にホンダの責任が重いと考えている。「スーパーアグリを救うため」という口実なら、何をやっても良いというモノではないはずで、レギュレーションの精神を軽視したホンダのこうした姿勢が、事態をいっそう複雑でよじれたものにしてしまったのだ。

 ちなみに「公式には」ぶっつけ本番で開幕戦オーストラリアGPに投入されたスーパーアグリSA07だったが、その性能や信頼性は06年シーズンである程度確認済みであったことから、佐藤琢磨、アンソニー・デビッドソンのドライブで予想以上の戦闘力を発揮し、佐藤琢磨が2度の入賞でポイントを獲得。ホンダの07年型マシンが致命的な失敗作であったという、いささか皮肉な現実にも助けられて、苦闘する本家のホンダF1を上回る活躍を見せたシーンも少なくなかった。だが、それは裏返せばスーパーアグリがホンダの技術支援に全面的に依存していることを意味しており、その後、08年から予定されていたカスタマーカーの導入が暗礁に乗り上げたことで事態はさらに悪化してしまうのだ。 喧々諤々(けんけんがくがく)たるチーム間の議論の結果、この状況を乗り切るための妥協案として提示されたのは「とりあえず08年、09年の2年間だけはカスタマーカーの使用を暫定的に認め、その間に該当するチームは独自の車体開発ができるような体制を整える」というモノ。つまりスーパーアグリは08年、09年の2年間で独自にマシンの開発が可能なF1チームとして独り立ちすることを義務付けられたわけだ。

 これを現在の状況に当てはめるなら、今のスーパーアグリには独自のマシンを開発する能力など到底ないワケだから、①少なくとも08年、09年の2シーズンはホンダ(あるいは他のチーム)から車体、エンジン、ギヤボックス等の供給を受けることが参戦継続のための大前提であり、②遅くとも来年までには、2010年用マシンの開発を独自に行うための体制を確立しなければならない…というコトになる。

 つまりは、仮に今、誰かがスーパーアグリを買収したとしても、チームが今後もF1活動を継続するためには、これまでと同じようにホンダの全面的な支援が最低2年間保証されることが必須条件であり、それに加えて、今から09年までの短期間で「独自のマシン開発が可能な一人前のチーム」となるための巨額の追加投資やチーム規模拡大が必要だということになる。それに加えて、現在のスーパーアグリはホンダやその他の企業に対して少なからぬ負債を抱えていることが想像されるので、買収者はこれらの借金も丸ごと抱え込むことになるわけだ。

 こうして見ると①ホンダの全面的な支援なしでは機能せず、②独自にマシンを開発する体制を持たず、③大きな日本系スポンサーも持たず、それどころかホンダや他の企業に対して多くの負債を抱えており、④フォースインディア(旧スパイカー)との間で07年用マシンの合法性について裁判で係争中でもある…スーパーアグリを買収することは、多くの負担やリスクを伴う投資であることが良く分かる。しかも、そうした要素の多くについて、スーパーアグリではなく「ホンダ」の企業としての判断が非常に重要な意味を持っている。加えて、ホンダが今後も技術的な支援を続けるということは、それがホンダにとって経済的にも労力の点でも大きな負担を意味していることを改めて確認しておいたほうがいいだろう。スーパーアグリに対するホンダの支援には「スポンサー」としての経済的な面と技術的な部分に大きく分かれるが、エンジン供給など公式には「有償」でのサポートとなっているものも、現時点ではその代金が未収となっている部分が多く、また仮に支払いがあったとしても、その値段は実際の経費の一部を賄うに過ぎないレベルのものだと考えられる。それに加えて、ホンダは多くの「無償」技術援助を行っているため、スーパーアグリの売却に伴い、新たなオーナーにも技術サポートを保証するということは、こうした多額の支出や労力を今後も負担していくことを意味している。

 「本家」であるはずのホンダF1が参戦から8年を経てなお、苦しい戦いを強いられている中、ホンダが他チームへのこうした支援を続けていくことについて、ホンダ内部からも異論が出るのは当然のことだろう。もし僕が日本人ではなく、ロス・ブラウンのようにチームの全権を任される立場ならば、迷うことなく「スーパーアグリへの支援など止めてしまえ! 我々にそんなコトをしている余裕はない!」と言うだろう。いや、ハッキリ言えば07年や06年だってホンダにはそんなコトをしている余裕などなかったはずだ。それにも関わらず彼らがスーパーアグリを支えてきたのは佐藤琢磨という日本人ドライバーの存在があったからであり、琢磨の存在に支えられていた日本国内のF1人気を何とか維持したいという企業としての考えがあったからに他ならない…。

 だが、何か間違っていないだろうか? そもそも、05年秋に琢磨がホンダのシートを失ったのも、他ならぬホンダ自身の判断であったはずだ。勝手にウイリアムズ移籍を画策し、わがままを言い続けるバトンに固執して、その慰留のために大金をはたき、ドライバーとしてはピークをとうに過ぎたバリチェロの価値を過剰評価したため、結果的に琢磨から活躍の場を奪ったのもまた、ホンダ首脳陣の判断なのである。

 自分たちの責任で琢磨の解雇を決めておきながら、その場を取り繕うために、しっかりとした見通しもないまま、新チームまで立ち上げてしまい、その後、2年あまりも多くの負担とレギュレーション違反ギリギリの脱法行為まで重ねて維持してきたスーパーアグリは、どこから見ても「ホンダのNO・2チーム」だ。それを公式には「独立したチームです」と言い続けてきたホンダの姿勢は、一企業としてあまりにも無責任だと思う。しかもこの2年余りにわたってスーパーアグリに対するホンダのスタンスは全くというほど一貫せず、あるときはあたかも「自分たちのNO・2チーム」であるように振舞ったかと思えば、あるときは「そろそろ独立してもらわないと困る」と突き放し、少なくとも僕の目からはホンダ側の長期的なビジョンが見えたことなどは1度としてなかった。一方、我々メディアもこうした複雑でよじれた状況を思い切って伝えることができず、いつも「本音」と「建前」のあいだで煮え切らない態度をとり続けながら、結果的にスーパーアグリへの人気に依存してきたことを正直に認めざるを得ないだろう。

 最後に誤解のないようにしておきたいのだが、僕はこのコラムを通じてスーパーアグリがこの2年間に成し遂げてきたことや、それによってもたらされた様々な感動を否定するつもりなど毛頭ない。それどころか、可能性が限られた非常に厳しい状況のなかで常に全力を尽くし続けた佐藤琢磨の姿勢や、わずかなチャンスを結果へとつなげたチームスタッフの奮闘に心から敬意を表するし、昨年のスペインGPで琢磨が7位入賞を果たしたシーンでは、喜びに沸くチームスタッフの姿を見ながら思わず目頭が熱くなった…。チームの実力差が圧倒的な意味を持つ現代のF1において、それは全員が本当に100%の力を発揮したことで初めて実現した、素晴らしい結果だと思う。だが、それよりももっと根本的な部分で、このチームの存在がどうしようもなく不幸なよじれの中にあったこと、それがホンダというモータースポーツの世界で多くの尊敬を集めている企業の、無責任で、場当たり的な態度に起因するものであったことを考えると、どうしようもなく悲しい気持ちになる。

 スペインGPから1週間、最新のニュースによれば、ドイツの「バイグル」という企業がスーパーアグリへの出資について交渉中で、来週開かれるホンダ取締役会の承認があればチーム存続の可能性があるという…。次戦、トルコGP参戦に向けたデッドラインは刻一刻と迫っているし、バイグルという企業の実態も知らないので、現時点では何とも言えないが、これでチーム存続に向けていちるの望みが出てきたということなのだろうか? そしてホンダはこの新たな提案にどのような決断を下すのだろうか?


この記事には全0件の日記があります。


ソーシャルブックマークへ投稿

  • Yahoo!ブックマークに登録
  • はてなブックマークに追加
  • Buzzurlにブックマーク
  • livedoorクリップに投稿

ソーシャルブックマークとは

F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

最近のエントリー





日刊スポーツの購読申し込みはこちら

  1. ニッカンスポーツ・コムホーム
  2. モータースポーツ
  3. コラム
  4. F1放浪記

データ提供

日本プロ野球(NPB):
日刊編集センター(編集著作)/NPB BIS(公式記録)
国内サッカー:
(株)日刊編集センター
欧州サッカー:
(株)日刊編集センター/InfostradaSports
MLB:
(株)日刊編集センター/(株)共同通信/STATS LLC

ここからフッターナビゲーションです