2008年5月02日
スーパーアグリは琢磨のためにつくられた
スーパーアグリF1がなぜ、ここまで追い込まれてしまったのか? その理由を考えるとき、どうしても振り返らなければならないのが、このチームが生まれた特殊な背景だ。誤解を恐れずに言えば、今、彼らが直面しているすべての問題はその誕生の経緯に原因があったと言っても過言ではないと思う。
極論すれば、スーパーアグリとは佐藤琢磨という1人のドライバーのためだけにに作られた極めて異例なチームだった。今から2年以上前の2005年秋、当時のホンダF1首脳陣はルーベンス・バリチェロとの契約にサインする。当時、本来なら契約期間が残っていたはずのジェンソン・バトンがウイリアムズへの移籍を強行しようとしたため「バトンを失った場合」を考慮してのバリチェロ獲得だったのだが、その後、ホンダがバトンの引き留めに成功したために2006年のホンダドライバーがバトン、バリチェロのコンビに決定。そのあおりを食ったのが佐藤琢磨で、彼は新加入のバリチェロに押し出される形でホンダのシートを失うことなってしまうのだ。こうして結果的に「失業した」琢磨の扱いをどうするのか? 日本では絶大な人気を誇る琢磨を「クビにした」というファンの厳しい批判をかわすために、ホンダが飛びついたのが「鈴木亜久里を代表にした新チーム設立」というアイディアだったのだ。
「亜久里さんには大口スポンサーのアテがあり、チームの運営資金については全く心配がないと聞いている。あとは我々がエンジンや車体に関する技術支援を行えば新チームは十分に機能するはずで、日本人オーナーと日本人ドライバーの組み合わせによる新チームの参戦は日本のF1にとってもポジティブなものになるはずだ…」と当時語っていたのはあるホンダ上層部の人物。05年日本GP直前にホンダから明らかにされたこの「11番目の新チーム」の計画はその後、「スーパーアグリF1」というチーム名とともに発表されたわけだが、ある程度間近でF1を見てきた人なら、この計画に少なからぬ不安と驚きを感じたはずだ。
まず第1にハードウェア、つまりマシンの問題があった。参戦の正式発表が05年の11月で翌年3月にデビュー戦という日程は、既存のF1チームを丸ごと買収したならともかく、ゼロから新チームを立ち上げるとなると、常識的に考えて限りなく不可能に近い。ニューマシンの設計から開発、完成には通常、10カ月近いリードタイムが必要だと言われているからだ。唯一の手段はエンジンやギヤボックスだけでなく、車体の設計や製作に関してもホンダが全面的な支援を行うという方法であり、当時のホンダ関係者が「アグリさんのトコはウチのマシンを走らせるんだから大丈夫」という“不用意な”発言をしていたのを僕はハッキリと覚えている。ちなみにスーパーアグリがデビューした06年には他チームのマシンを買って使用する「カスタマーカー」での参戦は許されてはおらず、たとえ旧型のマシンであってもレギュレーション上、亜久里のチームがホンダのマシンを走らせることはできないのだが、驚くべきことに当時のホンダ関係者はそれを強行突破しようと考えていたようだ。これはあまりにも乱暴でレギュレーションの精神を軽視した発想である。
結局、この強引は手法はFIAに認められず、基本的な方向転換を迫れられたスーパーアグリは仕方なく旧アロウズF1が作った2年落ちのマシンを「知的所有権」ごと買い取ってホンダの全面的な技術支援の下でこれを改造、スーパーアグリF1初のマシン、SA05と名づけて06年の開幕戦にデビューさせることになった。当然、戦闘力はライバルに大きく劣り、好結果など望むべくもないマシンだったが、琢磨を引退の危機から救い、新たな“ジャパニーズパワー”の象徴となった新チーム、スーパーアグリF1は苦戦の連続にも関わらず日本のファンたちから全面的に支持されたので「日本におけるF1人気をつなぎとめる」というホンダの目的はある程度実現したと言えるかも知れない。ちなみに、この時点でもまだ、スーパーアグリ、ホンダの両者はシーズン途中から「ホンダの05型マシンに切り替える」というアイデアを捨てておらず、それをアテにしたスーパーアグリが06年中も独自のマシン開発に着手することはなかったが、その間、「2年落ちのアロウズ改」で奮闘する琢磨の姿を我々日本のメディアは追い続け、多くのファンが2年目のシーズンへの期待を胸に忍耐強 く待ち続けた…。そして、2年目の07年、待ち望んだニューマシン、SA07が開幕戦のオーストラリアGPにデビューする。だが、そのマシンはどこから見ても06年型ホンダF1のコピーマシン。そう、2年目のスーパーアグリとホンダはいよいよ、あの「禁じ手」に踏み込んでしまったのだ…。
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