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2008年3月24日

開幕2戦を見て感じた「人間のちから」

 ここ数年、頻繁にコスト削減をめぐる議論が行われているにもかかわらず、トップチームが年間に数百億円もの資金を投じて戦う現代のF1は、今のところ文字通りの「総力戦の時代」が続いている。ちなみに総力戦とはお互いの持っている「すべての力」が試される戦いであり、それは多くの場合「物量戦」という側面を持っている。

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 このように物量戦としてとらえたとき、F1チームの「潜在戦力」は比較的簡単な足し算の形で表すことができる。基本的な公式は“資金力+設備+人材力”、この値が一定の基準を満たさないチームに「勝者」となる資格はまずないといっていい。ちなみに、そもそも「設備」と「人材」は資金力による部分も大きいので「結局は資金力」という大胆な単純化もある程度までは可能だろう。いずれにせよカネ+モノ+ヒト、つまり「ある一定以上の資金力を持ち、十分な規模のファクトリーと大型風洞実験施設などの最新設備を備え、かつエンジニアなどで質が高い人材を十分にそろえていないチームには絶対に「チャンピオン」は狙えない。ハッキリとした「物量」の差がある限り、時に偶発的な「ミラクル」は期待できても、シーズンを通じて選手権を争うことなど絶対にできないからだ。

 ただし、厳密に言うと資金力+設備+人材力のうち「人材力」に関しては評価が難しい面がある。もちろん絶対的な労働力やその質というのは、ある程度まで単純に評価することができるが、実際にマシンを操るドライバーやチーム全体の流れを作るキーパーソンの存在は、基本公式の「和」として表しきれないほど大きな影響力を持っているものだ。そこで僕はF1チームの実力を(資金力+設備+人材力)×mという式で表すことにしている。mとは「持っている物量をどれだけ有効に生かせるか」というマネジメント係数、言い換えればチーム首脳やドライバーが持つ「人間の力」の係数である。

 メルボルン、マレーシアと今シーズンの開幕2戦を見て、改めて思ったのは、この「人間の力」の面白さだ。上記のように「物量」が圧倒的な存在感を持つ現代のF1だが、それでもなお「人間」という要素が大きな影響を与えうることを僕は改めて感じ、少しうれしい気持ちになった。昨年の言動には正直、あまり関心しなかったアロンソだが、低迷期に入った古巣ルノーに戻り、厳しい状況の中でも「チャンピオンの風格」を感じさせる仕事を黙々とこなす彼の姿にはトップドライバーのオーラを感じたし、そのアロンソと新人ピケジュニアに追われる形で都落ちしたフィジケラと、トヨタの技術トップの座を追われたテクニカルディレクターのマイク・ガスコインが小規模チームの「フォースインディア」で予想以上の健闘を見せているのもそうした「人間係数」の重要さを示す好例だろう。

 どんなに技術が進歩しても、そしてどんなにF1の規模が大きくなっても、最後に「人間」という要素が決定的な大きな役割を担っている以上、そこには人間の意志や心とつながった体温や手触りがあり、彼らを主役としたドラマが存在する。だからこそ、そうしたF1の「人間係数」の部分にしっかりと光を当て、ドラマを掘り起こしてあげる努力をしなければならないと思う。そうでないと、巨大化したF1はどこまで行っても「限界を超えた無機質な物量戦」にしか見えず、短期的なビジョンでどんなに表面的な部分をあおっても、ファンの心は現実とのかい離の中でしだいに離れていってしまうのではないだろうか? 情報の氾濫(はんらん)の中で、我々メディアがF1の何を伝えるべきなのか……? そんなコトをぼんやりと考えながら、僕の「F1リハビリテーション」が続いている。

※写真はマレーシアGPで今季初勝利を果たし喜ぶフェラーリのライコネン(AP)

F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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