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2007年10月09日

アロンソの「怨念」がハミルトンを止めた

 「レースは最後まで何が起きるかわからない」とは、この世界で昔からよく言われることなのだが、最近は残念ながら「何が起きるか分かってしまう」ケースのほうが多い。中国GPも土曜日の予選でハミルトンが見事にポールポジションを獲得し、逆転タイトルを狙うアロンソは「コンマ6秒」の大差で予選4番手……。2人のポイント差は日本GP終了時点で既に12点もあり、「ああ、これはチャンピオンはハミルトンで決まりだわ」と思ったのは僕だけではないだろう。

 しかし、レースはホントに何が起きるか分からない。31周目、ピットロード入り口でコースを外れ、グラベルに捕まって空しくもがく、カーナンバー2のマクラーレン・メルセデスを見ながら、僕は改めてレースの怖さを思い知った。結局、スタートからトップを快走し続けたハミルトンはチャンピオン決定を目前にしながらリタイアでノーポイントに終わり、一方のアロンソはキミ・ライコネンに続いて2番手でフィニッシュ! その結果、2007年のドライバーズチャンピオン争いはトップのハミルトンが107ポイント、2位アロンソが104ポイント、そして3位ライコネンが100ポイントとなり、1986年のナイジェル・マンセル、アラン・プロスト、ネルソン・ピケ以来、実に21年ぶりで、3人のドライバーがタイトルをかけて最終戦に臨む「三つ巴」の戦いとなった。

 それにしてもなぜ、ハミルトンは目前のチャンスを失ってしまったのだろう? 台風15号が上海に接近する中、ウエットコンディションの路面状況で始まった中国GPだが、幸い(?)1週間前の富士のような酷い雨にはならず、路面は少しづつ乾いていく方向にあった。ただし、厄介なのは一旦「止んだ」と思うと、思い出したようにまた雨がパラつくという、何とも先が読みづらい状況。「どの時点でドライタイヤに変えるのか?」「本当にこの先雨は降らないのか?」といった判断を間違えれば、それがレース結果に大きな影響を与えかねないという意味で、チームにとってはかなり難しい状況だったのも事実。
 上海の場合、ラップタイムを参考に考えれば、ウエットタイヤからドライに履き替える“分岐点”は1分43秒前後だと考えられていたが、一旦、ドライを履いた後に雨が降れば最悪の状況が待っている。実際、今回のレースでも早めにドライタイヤに変えたチームの中には、その後に再び降り始めた雨の影響で大きくポジションを落としたり、アクシデントでリタイアに追い込まれたケースもあり、マクラーレンのチーム関係者もレース後「コンディションの変化が読みにくいレースだったので、天候の状況がハッキリ分かるまでタイヤ交換を待ちたかった……」と語っている。

 しかし、ハミルトンがチャンピオンを決めるための条件は「優勝」ではなかった。それどころか、あの時点で12ポイントというアロンソとの得点差を考えれば、その後ろでゴールしても十分にタイトルを決められる可能性はあったし、ここでしっかりとポイントを獲得しておけば、最悪、チャンピオンを決められなくても、圧倒的に有利な条件で最終戦、ブラジルGPに臨むことができたはずだ。にもかかわらず、マクラーレンはハミルトンのタイヤ交換時期にこだわった。こだわりすぎて最も大切な事を見失ってしまった。ラップタイムが一気に5秒近くも落ちこみはじめ、コーナーというコーナーでコントロールを失いかけているハミルトンのタイヤをピットに呼び戻さず、そのままコース上で走らせ続けた……。あの名門マクラーレンをして、何がこれほど「近視眼的」な判断をさせたのか?その答えはおそらく「アロンソとの決定的な関係悪化」だったのではないだろうか。

 ここ数戦、悪化の一途をたどっているマクラーレンとアロンソの関係は上海の週末に入ってもさらに深刻さの度合いを増しており、特に土曜日の予選でハミルトンがポールポジションを獲得し、一方のアロンソが「コンマ6秒」という大差を付けられて予選4番手に終わった時点でアロンソの不満が爆発! 「予選第2セッションまでハミルトンを完全にリードしてた僕が、全くミスのない完璧なラップをまとめたのに、彼にコンマ6秒もの差を付けられるなんて信じられない、チームは僕のクルマに何か小細工をしたに違いない!」とまで言い出す始末。少なくとも残り2レースをマクラーレンで走らなければならないにも関わらず、チームや代表のロン・デニスに対する批判をメディアに対して遠慮なくブチまけてしまう。こうしたアロンソの批判が真実かどうかはともかくとして、これほどあからさまにチームを誹謗中傷するドライバーをマクラーレンが勝たせたいはずがない。

 あの時、チームがハミルトンのタイヤ交換タイミングに異様なほどこだわったのも、ハミルトンがドライタイヤに交換した後で再び雨が降り始め、その後でアロンソが新しいウエットタイヤに履き替える……というパターンを恐れていたからに違いない。ハミルトン同様、スタート時のウエットタイヤでコース上に残っていたアロンソだが、タイヤそのものコンディションはハミルトンのそれよりも良く、あと数周はコース上で持ちこたえることができる状況。可能性は低いとはいえ、是が非でもアロンソに逆転のカードを握らせたくないというマクラーレンの過剰な意識が彼らの判断を誤らせ、結果的にアロンソのチャンスを大きくしたばかりか、事実上「終戦」と思われていたフェラーリのライコネンにまでタイトルの可能性を与えることになってしまったのだ。言い方を変えれば、これはアロンソの強烈な「怨念」がなせる業だったとも言えるだろう。マクラーレン内で膨らみ続ける緊張と確執がシーズンの最も大事な瞬間に、大きな失敗へと繋がったのである。

 こうして、決戦の舞台は2週間後に行われる今季最終戦、ブラジルGPへと移る。文頭でも書いたように、最終戦の段階で3人のドライバーがチャンピオンを争うのは、実に1986年以来、21年ぶり。あの時もランキングトップのマンセルから3位、ピケまでのポイント差は今年と同じ7点だった。「現実的に考えれば、今回のような何かが起きない限り、次のブラジルで逆転するのは難しいと思う。チームには今週の“予選1、2回目までと同じように”2台のマシンを平等に扱ってほしいと思う」と、レース後もなお、マクラーレンの悪口を言い続けるアロンソ。ポイント的にはアロンソを3点差でリードするハミルトンが依然として有利だが、改めて「レースは何が起こるかわからない」ことを思い知った今回の中国GPを教訓に、あえてタイトル争いの行方を予想するのはやめておこう。

 ちなみに、86年の最終戦アデレイドでは、ランキング首位のマンセルがトップを走りながら残り20周でタイヤバーストに見舞われてリタイア。チームメイトのピケも予定外のタイヤ交換でリードを失い。マクラーレン・ポルシェに乗るプロストが優勝! ウイリアムズ・ホンダが優位を誇ったシーズンを逆転で制し、世界チャンピオンに輝いている。

F1放浪記
川喜田研(かわきた・けん)
 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。  現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。  愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。

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