2007年6月20日
ハミルトン2連勝は序章でしかない

カナダ、米国の北米2連戦が終わって“予感”は“現実”に変わった。カナダでの初優勝に続き、インディアナポリスでも王者アロンソをキッチリと封じ込めての2連勝! 今やルイス・ハミルトンという1人の新人ドライバーが、F1の歴史に新しい流れを作ろうとしている。
ハミルトンが並みのルーキーではないことは、彼のデビュー前から多くのF1関係者が分かっていた“つもり”だったと思う。何しろレーシングカートに乗っていた10代前半の頃から、マクラーレンのロン・デニスが手塩にかけて育ててきた文字通りの秘蔵っ子である。それにその実力はユーロF3や昨年のGP2など、厳しい戦いの中でも証明済み。天性のスピードに加えて冷静な判断力、チームの力を自分へと向けさせる人間的な魅力、そして決してブレない目的意識……。F1で成功するために必要な要素を着実に身に着けながらハミルトンはここまで成長を続けてきた。しかも、長く続いた“ミハエル・シューマッハー時代”が終わり、F1が新たなエポックを迎えんとするその時に、復活に向けて上昇気流に乗り始めたマクラーレンからのデビューという、まさにこれ以上ないタイミング! この時点で彼の将来が“ある程度”約束されていると思った人は多かったと思う。
だが、彼らが(そして僕も)想像していた“ある程度”とは正直「新人ドライバーとしては驚異的な」という範囲であって、ハミルトンがこれほど早く「タイトルコンテンダー」の1人に、しかも、その主役に躍り出るなどとは思っていなかったはずだ。もちろんF1初年度をダブル・チャンピオンのアロンソと共にマクラーレンで過ごすというのは、新人のハミルトンにとって多くを学ぶ格好の機会だし、マシンのセッティングや戦略面でもアロンソの経験を身近で吸収することができる。それに新人のハミルトンにはタイトル争いのプレッシャーがないので、逆にノビノビとレースできるから、思わぬ好結果(優勝を含む)につながるかも……という可能性だって考えなかったわけじゃない。だが、それも今になって考えればずいぶんとノンキな予想だったと言わざるを得ないだろう。
実際にシーズンが開幕し、毎戦、毎戦、表彰台の上に立つハミルトンを見るうちに「もしかしたら自分は大きな“時代の節目”を目にしているのではないか……」という感覚が1レース毎に強まり、それは徐々に予感から確信へと変わり始める。おそらく、モナコGPの頃には、もう、誰もがことの重大さに気がついていたと思う。
だから、モントリオールでの初勝利は「驚き」でも「衝撃」でもなく「来るべきものが来た」という感覚に近かったし、インディアナポリスでの勝利も、その「再確認」に過ぎない感じがした。今やハミルトンは「新人」でも「初の黒人ドライバー」でもなく、1人の、そして有力なチャンピオン候補であり2007年のF1は彼を中心に動き始めている。そして僕は「とんでもなくスゴイヤツ」が出てきたものだ……と、半ばあ然としながら、今はその事実を受け止めるだけで精一杯。いろんなことが消化不良で、アタマは少しクラクラしているが、決して悪い気分ではない。実を言えば、「ハミルトンのスゴさ」を予想しきれなかった不明を恥じるより、予想をはるかに超える状況が「たった1人の人間」によってもたらされたということにあらためてF1というスポーツの奥深さ、面白さを再発見させられた気がして、ちょっとうれしかったりもするのだ。
来週からは再びヨーロッパに戦いの場を移すF1、このままハミルトンが破竹の快進撃を続けるのか? それとも王者アロンソの反撃が待っているのか? 失速気味のフェラーリだってこのままマクラーレンの独走を指をくわえて見ているとは思えない。しかし、この後、どんな展開が待っているとしても、ハミルトンはその中で重要なポジションを占め続けるに違いない。しかもそれは、これから先、何年も続くであろう新たなストーリーの「序章」でしかないのである。何しろ彼は、まだ7戦しか戦ってないのだから……。
※写真は米国GPで2連勝を飾り、喜ぶルイス・ハミルトン(左)とさえない表情のフェルナンド・アロンソ(AP=共同)
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