2007年5月21日
本当にF1は盛り上がっているのか?
更新が大幅に遅れてしまってごめんなさい。スペインGPから、もう1週間が経ってしまいましたもんね……。正直に白状すると、コラムのテーマについてちょっと悩んでしまっていた。「あのレースの後で、いったい何を書いたらいいのか?」と、恥ずかしながらアタマの整理ができずにいたのである。
「えーどうしてぇ?」と不思議に思う方もいるだろう。そう、バルセロナではスーパーアグリの佐藤琢磨がチームにとって初のポイント獲得となる8位入賞を果たし、レース後のパドックで喜びを爆発させる琢磨やチームスタッフの様子を眺めながら、僕の胸にもジーンと熱いものがこみあげてきた。もちろん、ルノーのフィジケラが給油機のトラブルに見舞われ、レース終盤に予定外のピットインを強いられたという「幸運」があっての8位入賞ではあるが、あのレースでそうした「幸運」を拾えるポジションに琢磨とスーパーアグリがいたということ自体が、このチームの成り立ちやこれまでの歩みを考ると、手放しで「素晴らしいこと」だと思うし、それを実現するためにどれほどの努力と情熱が必要だった? 想像するだけで琢磨にも、そしてチームスタッフのひとりひとりにも大きな敬意を感じずにはいられなかった。
ちょっとベタな表現になってしまうが、いろんな意味で「モノ」と「金」が絶対的な影響力を持つ現代のF1でもなお「人」や「気持ち」「情熱」といったものが何かを変える力を持っていることを、スペインGPでの琢磨とスーパーアグリの8位入賞は証明してくれたと思う。そして、それを自分の目で見ることができたというのが、今のF1に対して漠(ばく)然とした不安を感じている僕にとっても大きな救いになった。琢磨だって、チームスタッフのひとりひとりだって、チーム設立から1年半足らずのあいだに何度も「クサって」不思議じゃないほどつらい状況はあったはずだ。将来に夢を抱こうにもF1界の「格差問題」はあまりに大きく、彼らが現実的に望めるものだって限られていたはずだ。それでも、自分たちを信じ、わずかな可能性を信じて全力を尽くし続けたからこそ、彼らは今回のように文字通り「千載一遇」のチャンスをつかめたのだと思う。そして、レース後のパドックで抱き合って喜ぶ彼らの姿に、そうしたことが全て凝縮されていたか、見ているこっちもジーンと胸が熱くなったのだ。それでは、どうして僕は悩んでいたのか? 単純に「感動した、良かった!」で済ませられないのか? なぜなら、これまでこのコラムでも何度か書いてきた「ニッポンのF1」対する漠然とした不安が、喜びに沸くパドックの向こう側にチラついてしまうのである。
例えばスーパーアグリの将来、今回の結果が証明しているように、今シーズンのスーパーアグリは昨年とは比べ物にならないほど高い戦闘力のマシンを手に入れ、1年間の経験を確実に活かすことで、1年目のシーズンより遥かに高いポテンシャルを得ていると言っていい。開幕前に半ば冗談、半ば本気? で言っていた「スーパーアグリの方がホンダより速かったりして?」が、今や現実となりつつあるのだ。しかし、スーパーアグリのボディーに付いたスポンサーロゴを去年と比較して見てみよう。去年だってお世辞にも潤沢とは言えなかった(むしろその逆だった)スポンサーは少なくともマシンについたロゴの数を見る限り、更に少なくなっている印象を受けるし、実際、チームの台所事情はかなり厳しい状態が続いているという。
どんなに小規模なチームとはいえ、F1チームを運営し、1年間シーズンを戦うにはそれ相応の資金が必要だ。もちろん、スーパーアグリがホンダから技術面(あるいは技術的協力を含めた資金面で)で多くのサポートを受けているので、純粋なプライベートチームとは比較できないかも知れないが、少なくとも外部から見る限り、現在のスポンサー状況でどう考えても「自立した」チーム運営が可能だとは思えない。しかし、そうした「資金面」での基礎が確立できなければ、この「夢」が今後も続くことなど絶対に不可能だ。
このコラムの前半にも書いたように、スーパーアグリは彼らが今持っている条件の中で最大限の成果を出していると思う。だが、これでもチームのスポンサー状況が好転しないのだとしたら、シビアな言い方だがこの「夢」はやがて消えてなくなる運命にある。
「どうですか? 今年はF1盛り上がってます?」こんな仕事をしていると、そんな風に聞かれることがある。スペインの後は「琢磨もポイント取ったらしいし、なんかイイ感じじゃないですか!」みたいな感じで言われることもしばしばだ。正直なところ、僕はその答えに困ってしまう。もちろんスーパーアグリの活躍や琢磨の入賞はポジティブな話題だし、バルセロナの翌日には日本の新聞なども、さまざまな形でその話題を取り上げ、一般メディアでの露出は大きかった。フジテレビは地上波や衛星放送で多くのF1関連番組を放送し(世界選手権と名が付くイベントが地上波で全戦中継されているスポーツはF1を除くと極めてまれだ)CSではスーパーアグリの情報を紹介する番組だってあるほどなのに、そのチームのスポンサーになろうという企業はさっぱり現れない……。これではどうしても「ホント、今年は盛り上がってるよぉ……」とは言いにくいのだ。
F1がマシンという機械に依存するプロスポーツである以上、商業スポンサーの資金なしで成り立たないことは誰だって分かっている。そして商業スポンサーを行う企業は、自分たちの投資するスポーツの注目度や人気が、さまざまな形でその企業のメリットになり得ると判断したときにお金を出すのだ。スーパーアグリにスポンサーが集まらないのは、彼らに、もしくは「F1」そのものに、それだけの価値がないということなのだろうか? 表面上はそこそこ注目を集めているように思えるのに、企業や社会はそうは考えていないという事なのだろうか? 今回の初入賞で状況が少しでも好転することを祈りつつ、「F1は本当に盛り上がってるのだろうか?」と僕は自問自答を繰り返してしまうのだ。
1つだけ確かなのは、仮にこのままの状況が続けばチームの経営はやがて行き詰まり、先週のスペインで垣間見えた「夢の萌芽」もいつか「夢」のまま消えてゆく運命にあるということだ。もちろん、これまで同様に、いやこれまで以上にホンダがさまざまな面でスーパーアグリを支援し続ければ、ある程度の「延命」は可能だろう。だが、本体であるホンダF1のワークスチームが最悪の状況にある中で、ホンダにどこまでそれを続ける余力があるものなのか? こちら側の「ねじれ」も既に限界に近い状況に来ているのではないだろうか? 「スーパーアグリの挑戦」という夢を、その冒険ドラマをこれからも一緒に楽しみたいのならば、もうこれ以上「タダ見」は許されない。日本の企業が、それを取り巻く社会が今、動かなければ、冒険はいつか「幻」と消えてしまう……。
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