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データマン野口の陸上記録のアレコレのイメージ画像

野口純正(のぐち・よしまさ) 兵庫県淡路島生まれ。小学校5年生の時から陸上競技やその記録に興味を持ち始め、以来、陸上競技ひと筋の人生を送る。陸上競技マガジン元編集長。国際陸上競技統計者協会(ATFS)会員。日本オリンピック委員会・専任情報・科学スタッフ(陸上競技担当)。日本陸連では競技運営委員会競技部委員(記録担当)と長距離・ロード特別対策委員会委員を務めるほか、大阪世界選手権・国際グランプリ大阪大会・日本選手権・スーパー陸上では競技場内ミニFM放送の解説を担当。世界的にも高く評価されている記録に関する知識や分析能力だけでなく、陸上競技全般に豊富な見識をもつ。現在、東京学芸大学中長距離ブロックコーチ。当人いわく「10年ほど前までヘッポコ長距離選手」でもあった。

ウサイン・ボルトのストライドは?

11年4月05日 [13:27]

 前々回、「人類最速スピード」でウサイン・ボルトのことを紹介したところ知り合いから「ボルトの歩幅(ストライド)はどれくらい?」との質問を受けました。そこで今回はそのデータを紹介します。

 ボルトが100mを9秒58で駆け抜けた時、100mに要した歩数は「40・92歩」でした。「100m÷40・92歩=244・4センチ/歩」。つまり平均ストライドは「244・4センチ」です。しかし、これは「平均」であって「最大」ではありません。

 表は、2009年ベルリン世界選手権の決勝でボルトが9秒58で走った時のデータから日本陸連の科学委員会が推定した1歩ごとの推定ストライド(胴体の移動距離)です(「日本陸連科学委員会研究報告・第9巻、2010年」による)。なお、このデータは、1歩ごとの足跡の着地位置を実測したものではありません。前々回に紹介した10mごとのトルソー(胴体)の通過タイムと距離の関係をもとに左右別のステップの着地位置を推定したものです。よって、推定ストライドは、トルソーの移動距離に相当します。また、科学委員会の元の資料には、左右別の復歩のデータが記載されていて1歩ごとの推定ストライド(トルソーの移動距離)は示されていませんが、筆者が推定着地位置の距離から1歩ごとの数字を計算したものであることをお断りしておきます。

 では、データを見てみましょう。上述の通り1歩ごとの「実測値ではない」ため、多少の推定誤差はありそうです。たとえば、3、4歩目は140センチちょっとなのに、5、6歩目は一気に180センチ台、7歩目が217センチなのに8歩目は199センチなどなどです。が、あまり細かなことは気にせずに「大きな推移」で見てください。

 10mを過ぎたあたりから200センチを超え、30m付近からは250センチ以上に達します。前々回紹介した「瞬間最高スピード(10m0秒81)」をマークした60~70m付近では1歩が270~280センチ台にもなっています。さらに、最後の1歩は表のデータでは「312センチ」ですが、日本陸連科学委員会がビデオ画像から分析した実際のストライドの長さは「300センチ」だったそうです。1歩が「270~280センチ」とか「300センチ」と言われてもピンとこないかもしれません。

 そこで小学生の走幅跳びの標準値(「平均値」と読みかえても大丈夫でしょう)を調べてみました。2007年に首都大学東京の体力標準値研究会が発表したデータ(「新・日本人の体力標準値Ⅱ」、不昧堂出版)によると、小学校2年生に相当する7歳の標準値が「227センチ」、3年生相当の8歳が「261センチ」、4年生相当の9歳が「279センチ」、5年生相当の10歳が「296センチ」でした。つまり、小学校中学年あたりのごく平均的な子どもが全力疾走してきて跳んだ走幅跳びの記録くらいの距離をボルトは「ポン、ポン、ポン」と刻みながら100m走の30m付近あたりから走ったのです。
「なぁーんだ、小学生の走幅跳びなら大したことないよ」と思った方がいらっしゃるかもしれません。でも、それならば近くの公園か学校の校庭などに280センチくらいの間隔でラインを引いて、その線を踏みながら連続ジャンプしてみてください。すると、この間隔を踏んでいくのがいかに大変なことであるかを実感できるでしょう。

 筆者は、三段跳びに14m15の記録を持つ大学生に「285センチ」のラインを引いてそれを試してもらいましたが、「走る」ではなく、完全に「連続ジャンプ」でした。

表のデータは、「別な楽しみ方」もできます。文部科学省が発表した2010年の中学生男子の50m走の平均値は「8秒05」です。ボルトが「8秒05」の時に達していた地点は、表からすると80mをちょっと過ぎたあたり。ごく平均的な男子中学生がボルトと一緒に競走すると、彼らが50mを走る間に30m以上の差をつけられてしまうのです。

 かくいう「元ヘッポコ長距離ランナー」の私の50mのベストは「6秒4(手動計時)」です。電動計時なら6秒6台あたりでしょう。「ヘッポコ長距離選手」といえども、その昔、全国で実施されていた中高校生を対象とした「運動能力テスト」の採点表では「満点の20点」です(と、少々自慢=笑)。が、私が50mを走り切った時、ボルトは65m付近。「すごいなあ!!」のひと言です。

 ご自分の50m走のベスト記録でボルトと「仮想対決」してみると「何メートル差」をつけられるのかを調べてみるのも面白いですよ!と、面白くなって、色々と書いていたら、ずいぶん長くなってしまい失礼しました。

表1・ボルトが9秒58で走った時の1歩ごとの推定着位置と推定ストライド(胴体の推定移動距離)

歩数  胴体の推定移動距離  推定着地位置  タイム 
  (推定ストライド)         
1歩目          1m14 0秒56
2歩目  89センチ 2m03 0秒77
3歩目  141センチ 3m44 1秒03
4歩目  142センチ 4m86 1秒25
5歩目  183センチ 6m69 1秒50
6歩目  180センチ 8m49 1秒72
7歩目  217センチ 10m66 1秒96
8歩目  199センチ 12m65 2秒17
9歩目  229センチ 14m94 2秒40
10歩目  217センチ 17m11 2秒61
11歩目  234センチ 19m45 2秒83
12歩目  237センチ 21m82 3秒05
13歩目  246センチ 24m28 3秒27
14歩目  242センチ 26m70 3秒49
15歩目  255センチ 29m25 3秒71
16歩目  254センチ 31m79 3秒94
17歩目  265センチ 34m44 4秒17
18歩目  267センチ 37m01 4秒39
19歩目  263センチ 39m64 4秒61
20歩目  255センチ 42m19 4秒82
21歩目  264センチ 44m83 5秒04
22歩目  262センチ 47m45 5秒26
23歩目  263センチ 50m08 5秒48
24歩目  271センチ 52m79 5秒70
25歩目  272センチ 55m51 5秒92
26歩目  269センチ 58m20 6秒14
27歩目  278センチ 60m98 6秒37
28歩目  276センチ 63m74 6秒59
29歩目  285センチ 66m59 6秒82
30歩目  267センチ 69m26 7秒04
31歩目  283センチ 72m09 7秒27
32歩目  265センチ 74m74 7秒49
33歩目  280センチ 77m54 7秒72
34歩目  262センチ 80m16 7秒93
35歩目  286センチ 83m02 8秒17
36歩目  265センチ 85m67 8秒39
37歩目  285センチ 88m52 8秒63
38歩目  265センチ 91m17 8秒85
39歩目  290センチ 94m07 9秒09
40歩目  261センチ 96m68 9秒30
41歩目  312センチ 99m80 9秒56
           100m00 9秒58

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