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2009年6月29日

悔やまれる、5月のなでしこ北米遠征中止

 FCインディアナは24日にアイルランド代表と練習試合を行い、1-2で敗れた。

 アイルランドのシュートがDFに当たって角度が変わり入ってしまったゴールなど、崩されたわけでもないのに不運な2失点を喫して、逆転することができなかったのだ。試合のぺースを握っていたのは、間違いなくインディアナの方だった。だがアイルランドと対照的に、何度もあった決定機を外し続けたのが痛かった。

 アイルランドのFIFAランキングは27位。しかしインディアナ戦を見る限り、なでしこリーグに入っても中位以下に沈みそうな実力である。

 そして27日は、Wリーグの試合でウェスト・ミシガンと対戦。12-0で圧勝した。全員がプロ選手であるインディアナに対して、ウェスト・ミシガンは完全なアマチュアチーム。選手は日中、仕事を持っていたり学生であったりする。ほぼ毎日2部練習を行っているインディアナとの力の差は歴然としていた。

 阪口はもちろんこの試合に出場することはできなかったが、気分が乗ったのかインディアナのスタメン発表時のアナウンスを買って出た。時々つかえながらのたどたどしい読み上げに、ピッチ上に並んだ先発選手たちは大笑い。

o-sc-090628-0301.jpgウェスト・ミシガン戦前、阪口(左)は飛び入りでFCインディアナのスタメンをアナウンスした

 こうした格下との試合を連続して見ていると、仮に阪口が出場していたにしても、彼女を成長させるタフな経験にはならなかったように思う。インディアナが所属するWリーグ中西部ディビジョンには骨のあるチームがほとんど存在せず、本当の真剣勝負はプレーオフからになってしまう。

 だからクラブとしてはチームに刺激を与えるため、リーグ戦の合間に代表チーム(7月にはアルゼンチン戦が控えている)や、シカゴ、ロサンゼルスなどのWPSチームとの練習試合を組んでいるが、やはり回数は限られる。3-2で勝利した5月のシカゴ戦、ボルコウスキ監督によれば、阪口はWPS選手を相手に互角以上に渡り合ったそうだ。そのような機会が毎週のようにあればいいのだが…。

 返す返すも悔やまれるのは、5月のなでしこ北米遠征におけるアメリカ戦とカナダ戦を、日本協会が取りやめてしまったことだ。世界女王のアメリカには、世界中の国から親善試合要請が引きも切らさず届く。だからアメリカとの親善試合を実現させるのは至難の技なのだ。そのアメリカが、自分たちの側から日本を相手に選んで招待してくれていたのである。千載一遇のチャンスというやつだ。もちろん、北京五輪での活躍が認められてのもの。WPSでプレーする沢、宮間、荒川、そしてインディアナの阪口も現地で合流し、なでしこジャパン強化のためにまたとない試合となるはずだった。

 そこへ例の新型インフルエンザ騒ぎである。

 だが、アメリカ国内ではなでしこ遠征の前後から、プロスポーツイベントはスケジュール通り行われていた。WPSやWリーグも例外ではなかった。

 しかし日本の過熱報道を受け日本協会の犬飼会長は、組織として渡米の是非を正式に検討する前に「協会の責任者として軽々に楽観的なことは言えない。こういう状況で(北米に)飛び込んでいくことはない」

 と個人的見解を記者に披露してしまった。これで、議論はあらかじめ『中止ありき』で方向付けられてしまった。個人的見解とはいえ、組織の長が前もって意向を明らかにすれば、配下のスタッフがそれを無視できるわけがない。「協会の責任者」として「軽々に楽観的なことは言えない」のであれば、軽々に「悲観的なこと」も口にしてはいけないのではないか? かつて世界的企業の要職にあった人物にしては、あまりに軽率、あるいは独善的な行動だった。

 そしてその数日後、協会からなでしこ北米遠征中止の正式発表がなされたのだった。

 現在の日本の実力を計り、課題を明らかにするために絶好の相手との対戦が、水泡に帰してしまった。次にアウェーでアメリカと対戦できるのは、いったいいつになるのか…。『犬飼発言』がなでしこジャパンの強化計画に与えた影響は計り知れない。

 いや、会長が<選手達に万が一のことがあったら>と心底慮った上で発言していたのなら、それなりに理解はできるのだ。弱毒性とはいえ、感染するよりしないに越したことはない。

 しかしだとすれば、先日の男子W杯アジア予選最終戦で、オーストラリアに日本代表を送ったことはどう説明するのか? 試合直前、WHOによって感染レベルがフェーズ6に引き上げられたばかり。しかも会場となったメルボルンは、当時感染者が爆発的に増加していた上、季節は冬に向かうという最悪のタイミングだった。なでしこ北米遠征の初戦会場であったテキサス州でも当時感染者が急増していたが、メルボルンの状況に比べればはるかに安全度は高かった。

 だが犬飼会長や日本協会がFIFAやAFC、あるいはオーストラリア協会に対して試合延期の要請をしたとは、寡聞にして知らない。選手に移動中のマスク着用を義務付けただけで、何事もなかったかのように出発した。

 これでは、男女代表間の措置に整合性がないと言われても仕方がないではないか。

 考えられるのは、5月と6月で新型インフルエンザに対する日本の世論が大きく変わっていたということだ。オーストラリア戦前の時点で、日本国内感染者の数はむしろ増加し続けていたにもかかわらず、メディアを始めとした狂騒はかなり沈静化していた。

 もし5月になでしこの渡米を決行したら、一部メディアから危機管理能力を疑問視する声が上がったかもしれない。逆に6月のオーストラリアとのアウェー戦を中止していたら神経質、あるいは過保護すぎるとメディアのみならずサッカーファンからも激しく非難されただろう。

 だがそれらはいずれも、外野の声。選手たちがインフルエンザに感染する危険度そのものとは何の関係もない。

 もうひとつ穿った見方をすれば、男子代表の方には巨額のスポンサーマネーが絡んではいるが…。

 自分の中に確固とした判断基準を持って行動したわけではなく、風見鶏よろしくただその時々の状況に左右されただけ。

 男女代表のアウェー戦に対する犬飼会長の『ぶれ』は、そう邪推されても仕方がないのではないか。


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WPS
 Women‘s Professional Soccer、03年に休止したWUSA(Women‘s United Soccer Association)の後を受ける形で、運営組織を新たにして09年から再開された米女子プロサッカーリーグ。初年度の参加チームはボストン、シカゴ、ベイエリア、ロサンゼルス、ニューヨーク/ニュージャージー、セントルイス、ワシントンの7つ。10年にはフィラデルフィアとアトランタの2チームが加わることになっている。08年秋に行われた海外選手対象のドラフトでは日本から沢穂希、宮間あや、大野忍、荒川恵理子の4人が指名され、沢はワシントン、宮間はロサンゼルス、荒川はベイエリアへ入団したが、大野は日テレに残留した。WPSにはほかに、北京五輪優勝の米国代表全選手や世界NO・1女子選手とされるブラジルのマルタらが在籍している。
河崎三行「なでしこ in USA」
河崎三行(かわさき・さんぎょう)
 1965年(昭40)8月13日、高松市生まれ。港湾労働者、建設作業員、スポーツ新聞社勤務等を経てフリーランスライターに。時に自動車産業、ミシュランガイド東京版、チェ・ゲバラ、環境問題などについての記事を執筆することもあるが、主な取材対象はサッカーをはじめとするスポーツ。近年は日本の女子サッカーとオーストラリアのサッカーを継続的に追いかけている。著書に『チュックダン!』(双葉社)。

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