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2008年12月03日

闘莉王オウンゴールに「ナイスシュート」

 06年のW杯ドイツ大会の惨敗から、ずっと日本サッカー界にたれこめてきたもやが晴れた。11月19日のカタール戦での日本代表の3―0勝利が何もかも吹きとばした。明るい未来が見えてくるサッカーだった。

 何よりも値打ちがあったのは、最後まで自分たちのサッカーをやりきったところにある。90分動き続けた走力はもちろん、日本が逆襲をかけた時も、ほとんどの場面で敵陣のゴール前に日本の選手が4人はいた。これまでは1、2人だったのに。まるで今年のユーロを制覇したスペインのようだった。

 私は1人、深夜の日本でテレビ観戦した。06年W杯直前のドイツとの親善試合(5月30日=2-2引き分け)以来、オシムジャパンも含めて、最高の試合だった。勝利を確認し仮眠後、3度、試合を見直した。内容があり、結果も伴う試合だった。

 W杯本戦出場を決めるぐらいの重要な試合だった。負けていれば、大変な負担を抱えて年を越さねばならなかった。もちろん、日本協会の犬飼会長は敗れたとしても岡田監督の続投を決めていたし、私も同じ思いだった。ただ、それとは別に監督周辺でざわざわした空気が起こりえただろうし、確実に重圧になっただろう。

 過去にもW杯予選で何度も正念場を経験していたからこそ、カタール戦を前に、いろんな思いが頭をよぎり、頭痛を抱えた。薬を飲み、ペットボトルの水を5本そばに置き、気持ちを落ち着かせた。

 W杯アジア最終予選の初戦はアウェーでのバーレーン戦(9月6日)だった。この時、日本は後半40分に3点目を奪い3-0から、まさかの2失点で浮足立った。気持ちで守りに入った時、サッカーではどんなことでも起こりうる。それを学んだ選手は、カタール戦で最後まで連動していた。あの2失点の恐ろしさが、身に染みていた。

 もうひとつ、私は日本代表に新しい息吹を感じていた。これは犬飼会長に聞いたエピソードだが、あのバーレーン戦で、闘莉王がオウンゴールを与え1点差に迫られた時、即座に中村俊輔が闘莉王へ「ナイスシュート」と声をかけていたそうだ。その言葉に闘莉王は一瞬にして気が楽になり、気持ちを切り替えたと聞いた。

 オウンゴールした味方に「ナイスシュート」なんて言葉は普通では考えられない。だが、ただでさえ周囲から白い目で見られている時に、俊輔は絶妙のタイミングで、闘莉王のなえかけていた気持ちに勇気を与えた。

 ヒデ(中田英寿氏)がいたころ、俊輔はそういうタイプではなかった。自分のことに専念していた印象がある。大黒柱のヒデ、宮本らが去ってチームが生まれ変わり、俊輔は自分の言葉で仲間を助け、励ますようになったということだ。新生日本代表のムードをとても感慨深く見ている。

 実は、ホームで引き分けたウズベキスタン戦(10月15日)後、私はFW玉田を酷評した。本気でボールを取ろうとしていないと、激しくマスコミを通じて叱責(しっせき)した。カタール戦での2点目の弾丸シュートも見事だったが、試合序盤から本気でボールを奪いに行く姿勢に心打たれた。批判を跳ね返そうと全力でファイトした気迫が、本当にうれしかった。

 代表がカタールから帰国した日、私は岡田監督に祝福の電話を入れた。しきりに謙遜(けんそん)する彼に、私は「右肩上がりで行くものじゃないから、一喜一憂しないように」と伝えた。次も同じ内容をと、期待してはいけない。サッカーとは階段状のように、少しずつ進歩していくものだ。

 もし、カタールに負けていたら、Jリーグの優勝争いも、入れ替え戦も、天皇杯も、国内のサッカー熱が、ただのコップの中の嵐になりかねなかった。この快勝によって、すべては杞憂(きゆう)に終わった。


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川淵三郎「キャプテントーク」
川淵三郎(かわぶち・さぶろう)
 1936年(昭11)12月3日、大阪・高石市生まれ。早大時代の58年に日本代表に初選出。卒業後に古河電工に入社し、64年の東京五輪に出場、72年に現役引退した(国際Aマッチ26試合8得点)。古河電工、日本代表監督を歴任し、91年にはJリーグ初代チェアマンに就任。02年には日本協会会長となり3期6年務めた。7月から同協会名誉会長。現在、日本サッカーミュージアム館長も兼務している。

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