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2008年11月05日

2000年の歴史に圧倒、感動 

 日本には世界に誇れるすばらしい文化がある。サッカー界は世界基準で動くが、先日朝げいこを見学した大相撲には古い伝統、しきたりがあり、その中にも合理的で学ぶべき点が非常に多かった。夏場以降の激動の角界内部で何が起きているのか興味があったが、実際に目の当たりにした光景は、裸一貫の青年が命がけで泥にまみれた姿だった。

 本当に驚いた。度肝を抜かれたね。あの狭い土俵の中で、至近距離から全力で頭からぶつかり合う。ゴツーンという音が、振動となり、上がり座敷の私の元に伝わってくる。脳振とうにならないのか、よく続けられるなと、ひたすら驚嘆して見ていた。

 お邪魔したのは、貴乃花部屋だった。サッカー通の親方とは懇意にしており、JFAアカデミーの生徒がお世話になる機(10月12日の体験入門)に見学させていただいた。必死な力士を前に親方は厳しかった。「その一押しに生活がかかっているんだろ! お前には」「それで全力か!」。叱責(しっせき)の一言一言が胸に響いた。

 以前、若い力士が相撲部屋を夜逃げすると知るたびに私は「とんでもないことだ」と思っていた。が、あの姿を見ていたら夜逃げするのも分かる。それほど激しい。あれに耐えていけるのは相当に意志の強い子供だよ。

 力士の足腰は強靱(きょうじん)だが、それはまた割り、しこといった古来からのやり方で鍛えたものだ。サッカー界でもブラジルなどの南米の選手は、足の裏の靱帯(じんたい)が日本人よりかなり太く、バランス感覚が違うと言われている。ヒデ(中田英寿氏)が相手のチャージにも倒れなかったのは、倒れることは恥だ、との精神的な面が大きかったが、日本人も相撲古来の鍛錬方法で、強い足腰を培うのは可能だと気づかされた。

 あのまた割りも1年で会得できるそうだ。力士たちが身につけたあの柔軟性、しなやかで強い下半身をサッカーの選手が身につけられたら、プレーの幅が広がることは間違いない。力士たちの持つ知識、ノウハウは、スポーツ選手の足腰強化の手段として、広く通用する。

 今、貴乃花親方はモンゴルからの子供を受け入れ、鍛錬をはじめている。外国人力士が増えたことで相撲界が荒れた、乱れたと言われる現状に、親方がしっかり指導、教育すれば立派な力士、関取、社会人になることを、貴乃花親方が実践してみせようとしている。その子は両親を亡くしていると聞く。逆境を抱えた子供と向き合い、理想へ突き進む親方の心意気に、私は大いにエールを送りたい。

 相撲界2000年の歴史には素直に感動した。相撲界の底力を感じ、日本人がはぐくんできた文化に誇りを持ったよ。


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川淵三郎「キャプテントーク」
川淵三郎(かわぶち・さぶろう)
 1936年(昭11)12月3日、大阪・高石市生まれ。早大時代の58年に日本代表に初選出。卒業後に古河電工に入社し、64年の東京五輪に出場、72年に現役引退した(国際Aマッチ26試合8得点)。古河電工、日本代表監督を歴任し、91年にはJリーグ初代チェアマンに就任。02年には日本協会会長となり3期6年務めた。7月から同協会名誉会長。現在、日本サッカーミュージアム館長も兼務している。

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