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2008年10月01日

私ならノムさん王さん選んじゃいけないよ

 7月に日本サッカー協会会長を退任し、名誉会長に就任した川淵三郎キャプテン(71)が日刊スポーツ紙上で、月1回ペースでコラムを執筆します。強力なリーダーシップで激動のサッカー界をけん引してきたキャプテンならではの感性で、昨今の話題について切り込みます。第1回は、国民的関心事になっている来年3月開催のワールドベースボールクラシック(WBC)監督人事。サッカー日本代表監督の人選にかかわってきた経験などから、持論を展開します。

 WBCの監督人事は野球ファンに限らず、国民のみなさんが高い関心を寄せておられる。僕にとっても、どうやって選ぶのか、誰を選ぶのか、非常に気になるところだ。そもそも、前回大会よりいい成績を望むのは非常に難しいでしょう。だって、前回は優勝ですからね。今回は米国もかなり本気で来る。国民、野球ファンは、今度優勝するのは本当に大変なことだと思って見てあげないと。

 選考で大切なのは、プロセスをオープンにし、どうしてその監督になったのか明確な理由を示すことだろう。どうしても渡辺さん(巨人渡辺恒雄会長)の発言に注目が集まるが、渡辺さんの発言はWBCそのものへのPR効果を意識したもの。広く世間に関心を持たせる意味では、渡辺さんの発言は大きい、というぐらいの認識でいいんだ。渡辺さんはプロ野球組織の中心ではないのだから。

 今は加藤コミッショナー(加藤良三=日本プロ野球組織の第12代コミッショナー・前駐米大使)に一任されている。加藤さんは野球のことをよく理解されているだろうし、高い見識をもって判断を下してくれるだろう。代表監督の重要な資質は求心力、それにカリスマ性ということになる。「この監督のために」というのが一番大事。そして相手チームの分析力。情報を把握、分析し自分の口で選手に説得力を持って伝える能力だな。「ここでバントのサインかよ」と言われてしまう監督ではダメだ。

 私なら、(楽天の)野村監督だね。あの人に分析力でかなう人はいない。野村監督は「こうだからこうした」と説明できるでしょ。負けたとしても、言い訳じゃなく解説できる。落合監督も能力はあると思うが、あまり発言しないから分からない。バレンタイン監督もいい。ただ、野村監督は数多くの修羅場をくぐっているでしょ。唯一の不安は年を取っていることぐらいかな。でも、それは全然問題にならない。だって、(監督が自分で)走るなら問題あるけど、頭は走ってるから大丈夫。ここが大事なんだ。

 代表監督というのは、短期間でチームをまとめることが求められる。チームの和を乱すことがあれば、時として主力選手でも外す決断が必要だ。仮にそうなっても、野村監督ならトップ選手を集めて、その前で「いらないよ」と言える。サッカーでも野球でも、強いチームにするには1つにまとめなくてはいけない。代表監督なら、その責任はなおさらだ。そういう時に、(所属球団やクラブから)借りてきたのに出さないと批判を浴びるとか、けがさせたら申し訳ないとか、いろんな事情が出てくる。

 サッカーでは多くの監督が経験しているけど、野球の監督で経験している人はほとんどいない。だから、野球の監督が代表監督として日の丸を背負うと体をこわすことだってある。今回はね、王さんは選んじゃいけないよ。どれだけプレッシャーがかかるか。もう本当にぶっ倒れちゃうよ。命さえ奪いかねない。

 日の丸を背負って戦うことがどれだけ大変なことか。ただ単に「スター選手を集めましたが負けました」ではダメなんだ。だから、イチローが前回、韓国戦を前にして言ったでしょ。「向こう30年、日本には勝てないなと思わせる勝ち方をしたい」。あんなこと普通言えないよね。ああいうことを言う人とは思わないよね。びっくりした、僕も。それほど勝ちたいんだと思っていると、一番わかりやすい言葉だった。チーム全体を鼓舞し、自分自身を鼓舞しているんだ。「オレがやってやるぞ、みんなついて来い、一緒に戦うぞ」ってことだから。

 ヒデ(元日本代表MF中田英寿氏)もサッカー界では抜きんでた実績を積んだが、あそこまでは言えなかった。それだけイチローの持っていた人間としての魅力、WBCにかける思いが、チームを団結させた。それから宮本(ヤクルト)のような、チームワークには欠かせない選手が絶対に必要なように、チームが熟成されるには、そういうところも見ないといけない。監督にはそういう観察力もないとね。

 勝敗の結果として直接的に責任を負うのは監督だが、コミッショナーが一番大きな責任を負う。選んだ監督をどんなことがあっても守り抜く、そう思える人間を選ばないと。権限がないとか、泣き言を言わずに、なければマスコミを通じて、権限が与えられるよう問題提起をすればいいんだ。加藤さんは世界を知っているわけだから、前例踏襲じゃないだろうし、説明責任を負っていることも知っているはず。加藤コミッショナーには期待したいと思う。


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川淵三郎「キャプテントーク」
川淵三郎(かわぶち・さぶろう)
 1936年(昭11)12月3日、大阪・高石市生まれ。早大時代の58年に日本代表に初選出。卒業後に古河電工に入社し、64年の東京五輪に出場、72年に現役引退した(国際Aマッチ26試合8得点)。古河電工、日本代表監督を歴任し、91年にはJリーグ初代チェアマンに就任。02年には日本協会会長となり3期6年務めた。7月から同協会名誉会長。現在、日本サッカーミュージアム館長も兼務している。

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