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アジア杯2007特集

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海島健「アラーの国のフットボール」

胸を張れインドネシア、そして誇れ日本サポーター

2007年7月21日

スタジアムに向かうインドネシアのサポーターたち(撮影・海島健)
スタジアムに向かうインドネシアのサポーターたち(撮影・海島健)

 わがバーレーンは、スマトラ島で散った。サウジアラビアに0-4の大敗。バーレーン紙などの報道によると韓国戦に勝った後、ホテルに帰るまでバスの中でずっと歌を歌っていたらしい。バーレーン人がこの状態になったら止まらない。名将ミラン・マチャラ監督が「リーグ突破が決まったわけじゃない。お祭り騒ぎは後にしろ!」などと言っても、だれも言うことをきかないだろう。やはり、韓国戦は引き分けにして、がけっぷちに立たされなければダメだったのだろうか?(笑) これでもうバーレーン代表の姿をこのアジア杯で見ることはできなくなった。バーレーンのジダンの異名を持つタラルユーセフも代表引退を発表した。荒れたい気持ちを抑え叫ぼう。
 「シュクラン(=アラビア語のありがとう)、バーレーン。目指そう2010年」
 
 さて、15日にバーレーンが韓国を打ち負かしたことは、筆者が現在滞在しているインドネシアの人々を勇気づけ、1次リーグ第3戦の韓国戦(18日)に向けて国内の盛り上がりも最高潮になった。
 「我々インドネシアが韓国を倒すのも不可能ではないという気持ちが、バーレーンの勝利によって、さらにさらに高まることを期待する」というシャムスディンコーチのコメントが翌16日付けのコンパス紙に載った。インドネシアは初戦でバーレーンに快勝しているだけにこういった期待も当然のことだろう。

 17日付けの同紙には、「韓国、以前ほどの強さなし!」とのタイトルで「韓国の不調は予想外のことだ。攻撃にいつものようなスピーディーさが見られない。インドネシアの選手がこれまでの2試合で見せたファイトもたくましく、韓国戦勝利の期待を生んでいる。これに応援団の大声援が加わればいけるかもしれない。過去5戦全敗の対戦成績など、この際、気にすることなどない」という元代表監督シニョアリアンドゥ氏のコメントが掲載された。

 さらに、この日17日には、西ジャワにいたユドヨノ大統領も「国民が一体となって勝利祈願をしよう。スタジアムで国歌インドネシアラヤを盛大に歌って、代表として戦う選手の士気を高めよう」と呼びかけた。こうなると、もうサッカーの試合ではなくて、国と国とのプライドをかけた戦争だ。
 D組の第3戦、中東サッカーウオッチャーの筆者はサウジアラビアvsバーレーンを考えていたのだが、場所がスマトラ島のパレンバンでフライトの予約などがうまく入らず、またこの盛り上がりぶりでもあるし、インドネシアvs韓国でいこうと切り替えた。

 試合当日はスタジアムまでの大通り(片側5車線ある)ジャランタムリンも大渋滞だし、スタジアムに入るまでも何人かのサポーターに「コレア(韓国人)だ」と、威嚇(かく)的な視線ならびに態度をとられた。まさかの時のためにインドネシア代表シャツを買い込んで、スタジアムへ乗り込んだ。

 気になる席だが、日本人だし「あっちの方(東アジア)の人」という大雑把なくくりで韓国応援団席に放り込まれるんだろうな、と予想していた。安全面を考えれば当然の措置だし「まあ、今日は韓国の応援、思いっきりいきますよ、いろいろな意味で…」などと考えながら、チケットに記されたゲート2に行ってみると、そこにはインドネシア人が殺到していた。韓国人らしき姿は全く見えない。これでいいのか、インドネシア? (今度はインドネシアサポーターの中で韓国の応援をしなければいけないのか)とバーレーンvs韓国戦に続く完全アウエー状態に頭を抱えてしまった。前回は韓国人の中に紛れることが可能だったが、中東在住が長いとはいえ、さすがに筆者をインドネシア人に見間違える奇特な人はいないだろう。これ見よがしに日本語の取材ノートを広げたりしたが、インドネシア人に日本語とハングルの区別はつかないことがはっきりと認識できた以外に、何の効果もなかった。

 そういえばW杯ドイツ大会の最終予選、イランで行われたイラン-日本戦では出口に人が殺到して観客が多数死亡したという事故があり、日本でも大きく報じられた。
 「日刊スポーツ通信員の海島健氏、スタジアムで暴動に巻き込まれ死亡。なぜ、インドネシア側に? あらためて問われる自己責任」の新聞タイトルが脳裏をかすめる。

 しかし、しかし、ありがたいことに、これはまったくの杞憂であった。インドネシアのサポーターは試合後、筆者の予想とは全く違う表情を見せたのだ。試合は前半33分に韓国に先制され、そのまま押し切られてしまったのだが、敗れたにもかかわらずインドネシアサポーターは選手たちに温かい拍手を贈ったのだ。敗戦に対する怒りのエネルギーがおかしな方向に向かうことはなく、スタジアムの外に出ても、サポーターのノリは1次リーグ敗退決定直後のものとは思えないものだった。意外とニコニコ顔だし、まるで勝ったかのように太鼓をうちならして帰っていく一団もいる。まさに「テリマカシー(=インドネシア語で「ありがとう」)インドネシア代表」状態で、こちらの気持ちまで温かいものになってきた。
 どうなってんの?

 ジャカルタ在住の久世つきこ氏(いつもコンパス紙を驚くべきはやさで日本語にしてくださるインドネシア語の達人)によると「インドネシア人にはラテン的なところがあって、いつも騒ぐチャンスをうかがっている」とのことだが、もうラテン以上なのではないだろうか。初戦がバーレーンに2-1で快勝、2戦目がサッカー大国サウジアラビア相手にゲーム終了寸前まで1-1と粘り(結果は1-2の惜敗)、この日も韓国に食い下がっての敗戦と同国サッカー史上最高と言ってもいい内容がサポーターの琴線に触れたのか。よくやった、という満足感と、最後まで夢(決勝T進出)を見られたことへの感謝の気持ちなのか。

 それを示しているかのように、試合後のコンパス紙の内容は、さすがに試合翌日の19日はやや辛口だったが、20日にはトーンが一変していた。

 19日は「インドネシアはまだアジアのエリートになれない。」「コレフ監督、ほかの選択肢がない(=選手層が薄い)ことを認める」といったタイトルで、「国際経験もまだまだ足りないし、選手の中に門限を守らないといった規律違反をしたものもいた」との監督の弁を紹介。ところが20日には「恥じることはない、インドネシア!! 将来に向けての誇るべき資本がある」とのタイトルで「選手たちは真の英雄。持てる力をすべて出し切って戦った。負けはしたが、それはゲームの一部に過ぎない。われわれも敗北を素直に受け入れた。今までにこんなに印象的な試合を見せてくれたことはなかった」と評論した。
 負けた直後はさすがにガックリきたが、冷静になれば(よくやったじゃないか)という思考経路をたどったのが紙面制作に反映されたのかもしれない。

 ほとんどの庶民の感情も20日付けの記事の方、「テリマカシーインドネシア」の感情であるように思われる。筆者の滞在しているホテルのスタッフの1人は「本当に満足している。国内リーグでよく荒れることもあるけど、無事に締めてくれてよかったよ」と話した。そして驚くべきことに、マナーの良かったサポーターの理由をこう話してくれた。
 「われわれインドネシア人が目指しているサポーターのあり方は、日本人のそれなんだよね」。
 日本サポーターのマナーの良さが、こんなところまで知られているとは。これはさすがにマニアックな意見で、多少、リップサービスを多少含んでいるにせよ、見ている人は見ているものだとあらためて思わされた。前出の久世氏は「日本人といえば規律正しく、礼儀正しいというイメージがかなり浸透しており、そこからきているのでは」と解説してくれた。

 ホテルのスタッフの話を聞き、こんなことを思い出した。その昔、あるバーレーン人と話した時に「ドーハの悲劇」の話題となった。そのバーレーン人は「おいケン、知っているか? あの時、日本のサポーターは(イラク戦のロスタイムの同点弾で)W杯出場を逃したにもかかわらず、泣きながら(スタジアムの)ゴミを拾って帰ったんだぞ」と(どうだ、驚いたか)とでも言うように、自慢そうに話すのだ。負けて暴動が起きるのが珍しくないW杯予選でのこの行動は、湾岸エリアの新聞に掲載され、大きな反響があったらしい。

 バーレーン代表はこの街を去っていったが、この居心地のいいジャカルタに、もう少しいてみようか。

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サッカー 日本vsサウジアラビアをミル

[ 日本 vs サウジアラビア:公式会見の様子 ]J's GOAL同じく試合前日...

送信元:最新のにゅーす|2007年7月26日

コメント

こういう話を聞くと月並みですが「継続は力なり」・・・と思います。
代表の強化も、サポーターも正しい方法と道順で少しずつの積み重ねを気長に続ける事の大事さを強く感じます。

投稿者:海島さん、良いコラムありがとうごさいます。|2007年7月22日 07:53

>W杯出場を逃したにもかかわらず、泣きながら(スタジアムの)ゴミを拾って帰ったんだぞ

ドーハの別のストーリー。感動しました。
「フットボールは文化だ」といえるのは海外だけかと思っていました。最近は日本でも文化の片鱗が感じられるようになって来てましたが、14年前にあったこのストーリーは、「へーもうこの時に…」と思わされました。

投稿者:Aru|2007年7月22日 10:55

大変興味深い記事を拝見させていただきました。
今回のアジアカップ試合後のどの国のスタッフの会見を見ましても
相手国の監督・選手に最大級の敬意をはらうコメントを見ることが出来て大変嬉しい思いです。
負けても誇れるものがあるのは素晴らしいことです。

投稿者:kyou|2007年7月22日 11:08

ドーハの時イラクは負けたら全員、処刑だったらしいですね。相手も己も知って初めてわかることがなんと多いことか

投稿者:.|2007年7月22日 15:45

日本のサポーターも今の代表とともに独自路線(選手は日本のサッカー)を貫きそれが正しい道だということがわかりました。暴動する部分は決してマネしてはいけない。いつも興味深い記事楽しみにしています。

投稿者:DiegoArmando|2007年7月23日 01:05

大変いい記事を読ませていただき、少し感動しています。
「日本のサポーターはW杯出場を逃したにもかかわらず、泣きながら(スタジアムの)ゴミを拾って帰ったんだぞ」・・・フランスW杯で日本人サポーターが試合後に応援席のゴミ拾いをしていたことは全世界に報道されて有名な話になりましたが、すでにドーハの悲劇のときからそういうことがあったとは・・・今初めて知りました。感動です!!さあ、次はサウジアラビア戦ですね。3連覇まであと2勝です!!
がんばれ!!日本代表!!!

投稿者:トロジャン|2007年7月23日 12:35

海島先生、リヤドから一時帰国中のサイトヲです。
いつも更新楽しみにしてます。
中東にいると、「礼儀正しく、マナーがよい」という日本人に対するイメージに日々助けられている身としては、そういう話を聞くと、自分も恥ずかしくない行動を心がけなきゃな~、と思います。
ちなみに「ドーハの悲劇」はサウジ人にとっても印象深い出来事だったらしく、サウジ人とサッカーの話をすると、未だにカズやラモスの名前が中田英や俊輔と同じくらい出てきます。

>.さん
>>ドーハの時イラクは負けたら全員、処刑だったらしいですね。
さすがに処刑は…(汗)。確か鞭打ちだったと思います。
今回のイラク代表の中心選手ナシャト=アクラムは、現在サウジのアルシャバーブに在籍してますので、AFCチャンピオンズリーグでプレイしているところを一度見たことがあります。
柔らかいボールタッチと的確な判断力で、かなりの好プレイヤーでした。決勝で見てみたいですね。

投稿者:サイトヲ|2007年7月23日 17:15

>ドーハの時イラクは負けたら全員、処刑だったらしいですね。

これは誇張した事実です。しかしフセイン大統領の息子のウダイ氏(アメリカのイラク進攻で殺害された)がイラクサッカー協会の会長をしており、当時ワールドカップ出場は絶望となっても日本戦の敗北は許さなかったそうです。負けた場合には鞭打ち刑が待ってたようで、選手はモチベーションが高かったというのが真相のようです。これは何年か前にNHKの特集で当時のイラク代表選手が赤裸々に語っていました。

今のイラク協会の会長はラディなのでしょうか?日本戦で同点ゴールを決めた彼は、何年か前にイラクを訪問したラモスに、日本が成功したノウハウを教えて欲しいと懇願していましたね。日本協会もイラクにかなりの援助をしているし、現在も混乱した国内情勢の中強いチームでいられるという事は素晴らしいの一言に尽きます。裕福なほかの湾岸諸国よりもはるかに好感が持てます。準決勝では韓国を撃破し、決勝で日本と好勝負して欲しいですね。勿論その時には日本が勝つことを信じてます。

投稿者:ジェームス|2007年7月24日 02:06

ゴミ拾いのエピソードは知っていました。

知っていたからこその行動ではありましたが(というのが少し情けない…)、
そういう日本人のイメージを壊したくないという気持ちで
先日、Victoriaでのチェコ戦後に自分もゴミを片付けて来ましたよ。

こういう草の根運動みたいなのが浸透して、
日本人に対する良いイメージがどんどん広がっていくといいな、と思っています。

投稿者:k23|2007年7月24日 08:34

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