ジャカルタの空に響く「ケンチャナヨ」
2007年7月17日

- バーレーンに敗れ、ぼう然とする韓国サポーター(撮影・海島健)
「わが」バーレーンがやってくれた。初戦を落とし、もう後がない1次リーグ第2戦で韓国に2-1の勝利。勝ち点3をゲットして、決勝トーナメント進出に大きく前進した。
筆者は日本人でありながら、日本代表が戦うベトナムではなく(現在暮らしている国である)バーレーン代表見たさに、インドネシアにやってきた。ところがバーレーンは初戦でインドネシアに敗れ、いきなり崖っぷちに立たされてしまった。15日の韓国戦、もし負ければ1次リーグ1試合を残して早くも敗退が決まる。「何とかしてくれバーレーン!」という思いを胸に大一番当日の15日、バーレーンに声援をと意気込んでスタジアムに乗り込んだまでは良かったが、筆者の入ったエリアは韓国人で埋め尽くされていた。インドネシアではタイと違ってチケットの販売がほぼ手作業で行われ、カテゴリーのみ指定でき、細かいエリアの要求などには対応できないため、こういうことになる。在ジャカルタの韓国人たちだろうか、あちこちで「アンニョンハセヨ(こんにちは)」状態。それでなくてもスタジアムに韓国人が非常に多く、いけませんね、これは。
バーレーンの応援団は反対側、正面スタンドのVIP席付近に少し見えた程度で、完全な韓国のホーム状態でゲームに入ることになった。開始早々の前半4分、キムドヒョンのゴールが決まると、すっかりおなじみになった「テーハミンゴ、デデンデデンデン」の応援で一気にヒートアップ。個人的には韓国代表のサッカーはかなり好きな方ではあるが(いや、本当に)、バーレーン戦となると話は別だ。かといって周囲が韓国人ばかりの中、日本人がバーレーンに対して必死に声援を送るのは相当、勇気がいる。「バーレーンの席で応援しろよ」と言われるぐらいですめばいいが、興奮したサポーターから「謝罪と賠償を」とか「正しい歴史認識を持て」なんて、つるし上げられたらたまらない。かといって「僕はバーレーンに10年住んでいて、バーレーンのファンでして…」と説明しながら応援するわけにもいかない。仕方なく「テーハミンゴ!」に適当に手拍子を打ちながらも、声なき声をバーレーンに送ることにした。
スタンドで筆者が選手以上の完全アウエー状況に置かれ四苦八苦している時、バーレーンの選手は何を考えて戦っていたのだろうか。後がない韓国戦、彼らと言うよりミラン・マチャラ監督の戦略は明白だった。前回コラムにも書いたが、最悪でも引き分けて3戦目でサウジアラビアを突き落とす。大事な一戦でサウジアラビア落しといえば、2004年にカタールで行われたガルフ杯1次リーグ3戦目での3-0圧勝が記憶に新しい。現在のサウジアラビアは当時より、さらに戦力ダウンしているように思う。マチャラ監督も試合前の会見で「最低でも勝ち点1を」と話したが、逆に考えれば「勝ち点1なら最終戦で何とかなる」という自信の裏返しなのかもしれない。
しかし、その控えめな作戦が思わぬ結果を生む。前半を1-1で終え、後半45分、何とか持ちこたえればいいと開き直ったバーレーンは、ちんたらプレーや倒れこみはもとより、GKが靴ひもを結び直したり、グローブを取ってゆっくり付け直したりして、韓国の選手やサポーターをイラつかせる。焦ってボールを奪いにくる韓国の選手にボールを当ててピッチ外に出し、のんびりプレー再開と、その方法は実にバラエティーに富んでいる。一昔前はカウンター一本やりだったバーレーンだが、合法的遅延行為が「こんなにあったのか」と思わせるほどの創造性を単純極まりなかったサッカーの戦術に生かしていれば、とっくの昔にW杯に出場していただろうに…。
この開き直ったバーレーンVS何とか勝ち点3がほしい焦燥の韓国の図式が韓国の雑なプレーにつながったのか、後半40分のイスマイルアブドルラティフのゴールを生み出した。
それにしてもバーレーンの選手はすごい。エースFWアラーフバイルは、初戦のインドネシア戦(10日)の2日前の8日におばあさんが亡くなっており、インドネシア戦当日には、いとこが逝去と不幸続きでサッカーに集中できる環境ではなかった。さらに、ベテランのタラルユーセフやGKアリハッサンなどが食中毒にかかったらしい。この地域の食中毒は強烈で、筆者も3~4回ほど、やられた。これにかかると3~4日ほどは、大げさでなく、生きているのがやっとという感じなので、いかに頑健なサッカー選手とはいえ立っているのもつらいという状況ではないだろうか。また、W杯予選の日本戦で痛恨のオウンゴールで有名になったゲームメーカーのMFサルミーンは足の負傷で、この日はリードした終盤に出てきたが、まだ完治とは言えない。そういった最悪と言ってもいいチーム状態にありながら韓国相手にリードを奪うのだから、わがバーレーンの何とたくましいことか。
それはともかく、ちんたらプレーのバーレーンによるまさかの勝ち越しゴールに、韓国サポーターは一瞬静まり返った。だが、そこはたくましい国民性、すぐに必死の応援が再開された。韓国選手がボールを持つと筆者の周囲は「ウォー」っと盛り上がり、筆者だけは「ウヮ~」と悲鳴を上げる。バーレーンDFアドナンらに大きくクリアされると周囲は「あぁ~」と落胆し、筆者だけは「おぉ~」と安堵する。周囲とは微妙に声の質が違っていたはずだが、どちらも必死だから他人のことに構っているヒマなどない。残り5分+ロスタイム5分、リードしてからが本当に長かった。
そしてタイムアップの長い笛。その瞬間、声を失い、呆然とする韓国サポーター。悲嘆にくれるサポーターの中で、ただ1人、口元が緩んでいた男性がテレビ画面に映し出されたら、それは多分、筆者だ。
それでも敗れた韓国の選手がスタンド前に挨拶にくると、サポーターたちは健闘した選手に大きな拍手を送り、意外にも(?)「ケーンチャーナ(気にするな)デデンデデンデン」と締めくくった。韓国サポーターにすれば、もう開き直るしかない状況だから他に言うべき言葉が見つからなかったのかもしれない。
2戦を終了した時点で勝ち点はサウジアラビア4、インドネシアとバーレーンが3、韓国が1で、最終戦はサウジアラビア-バーレーン、インドネシア-韓国。韓国は勝って勝ち点を4にすることが決勝トーナメント進出のために最低限必要な条件だ。しかし仮にそうなったとしても、サウジとバーレーンが引き分ければ、サウジアラビアが勝ち点5で1位通過が決定。勝ち点4でバーレーンと韓国が並ぶが、当該成績でバーレーンが韓国に勝っているため、バーレーンが2位となり、湾岸2カ国が自動的に決勝トーナメント進出となる(勝ち点が並んだ場合は当該国間の成績が最優先される)。
もっとも、この湾岸2カ国が「あうんの呼吸」で引き分ければ無条件で両国が上がれるという状況ではない。インドネシアが勝てば勝ち点6となるため、湾岸2カ国のうち確実にどちらかは落ちる。B組ですでに敗退が決まっていたUAEがカタールを下してベトナムが2位になったように、いかにGCC諸国同士とはいえ、最初から“談合ありき”ではないし、どちらかが落ちる場合もあるなら、談合が成立するわけがない。この状況であれば、ベースは真剣勝負。もっとも勝たないと話にならない韓国が序盤から飛ばして前半終了時に3-0なんてことになれば、後半の比較的早い時間に「あうんの呼吸」が発揮される可能性はある。これは2004年アジア杯1次リーグ最終戦で日本とイランが終盤、お互いに全く攻めずに引き分けた例もあり、勝負の世界では当然のことだ。
となると、韓国は前半、おとなしくして、終了間際にチョコン、と1点取るのが理想? ただ勝つだけでも難しいのに、そんなことができるはずがない。つまり、こういうことだ。
韓国は1次リーグを突破するには勝つしかない
↓
勝つために序盤から必死に点を取りに行く
↓
序盤から点が取れたら、湾岸2カ国による談合が成立しやすくなる
↓
談合が成立すると、韓国が1次リーグで落ちる
1次リーグを突破しようと、もがけばもがくほど、自分の首が絞まっていくとは、サッカーは悪魔が考え出したゲームなのか…。そういえば韓国のサポーターは「赤い悪魔」だ。
う~ん「ケンチャナヨ」と言いたくなる韓国人の気持ちが分かりますね。わがバーレーンも罪つくりだなあ。ごめんね、韓国。次の試合は適当に手を打つのではなく、心の底から応援することにしますから、ぜひ、勝ってください。…そうなるとバーレーンとサウジは…いや、とにかく「ケンチャナヨ!」
- コメント [24]
- トラックバック [2]
adderall side effects
news
送信元:adderall side effects|2007年12月 6日
ephedra products
news
送信元:ephedra products|2007年12月 6日
面白いコラムですねー!!韓国のピム監督が余裕こいて「第3戦が面白くなった」なんて言ってたけど多分(当該国間の対戦成績)制度を理解してないのでしょう。
投稿者:norinori|2007年7月17日 16:19
こんにちわ。
バーレーンと言えば、ジーコ日本の分岐点という印象が強いな。
もしバーレーン戦で負けていたら、違うジーコ日本に
なっていたんじゃないでしょうか・・・・
ジーコ日本との比較として、オシム日本とバーレーンとの対戦を
願っているのは私だけでしょうか???
投稿者:tora|2007年7月17日 16:57
なんで韓国のエースのアンジョンファンについて触れないのですか? わかりたいですね、、、、、、、ア
投稿者:しお韓マンセー|2007年7月17日 19:50
いや~とても文章がうまいですねw
ここなんて声を出して笑っちゃいました!
>>合法的遅延行為が「こんなにあったのか」と
>>思わせるほどの創造性を単純極まりなかったサッカーの戦術に生かしていれば、とっくの昔にW杯に出場していただろうに…。
投稿者:ファンファン少佐|2007年7月17日 20:14
日本VSバーレーンよふたたびですか。
準決勝以降ですが、見てみたいですね。
投稿者:海島健|2007年7月17日 21:19
すごく読みやすくて面白い文章ですね!
バーレーンファンというのも珍しいと思いますし、
韓国サポーターの写真が載ってるから、雰囲気がとてもイメージしやすかったです。
正直いって、このアジアカップの位置づけがイマイチよく分かってないんですけど、
韓国がいるリーグの次の組合せが面白いカードであることはよく分かりました。
投稿者:通りすがり|2007年7月17日 23:02
いつもおもしろいですね。私は東南アジアに在住の者ですので、東南アジアの国の試合が気になります。インドネシアは驚くほど急速に伸びました。はっきりいって韓国は苦戦するでしょう。バンバンとかが思いもしないミドルからシュートを打って、はじいたところを詰められて失点という場面が出てくるかもしれません。韓国は今回のアジア杯を若干なめていた感は否めせん。相手の研究がなっていないように思えます。それだけに一番情報不足のはずのインドネシアに足下をすくわれかねません。インドネシアも必死ですから韓国の人が思っているほど韓国は容易くは勝てないでしょう。湾岸対決が談合にはならない試合が展開されると信じてます。
投稿者:Marvin|2007年7月18日 02:36
いや~久し振りにサッカーの試合内容で笑いました。あの、時間を使うスキルを駆使した件は、思わず笑ってしまいました。しかし、これからの湾岸諸国は強くなりそうな予感がしますね。中国の成長に伴うオイル高、いくらでもサッカーにお金をかけれそう!
投稿者:がんも|2007年7月18日 04:01
サン○イ新聞の文化部長と名乗られる方が、とあるメジャーリーガーが嫌い、と
最早ジャーナリズムの欠落した"作文"をエントリしていたのを見たが、
いやはやコチラはユーモアあって面白い。
しかし、無理はなさらず、お体のほうは気をつけてくださいね。
"某国のサッカー"はスタジアムの外で何かを起こす可能性がありますし。
投稿者:kyou|2007年7月18日 13:10
わかっておられますな
投稿者:通りすがり|2007年7月18日 13:46
腹抱えて笑っちゃいました。
投稿者:vivi|2007年7月18日 14:56
そんなにあの国へ気を使わなくていいんじゃないですか。
大抵の日本人は韓国(に限らず)のことになると急にお人好しぶって持ち上げたりしてるけど
何だか卑屈で捻くれた美徳だよなと思います。
自分はバーレーンが勝ってよかったです。
サウジとバーレーンの決勝進出を応援しています。
あ、韓国側の応援席でのことじゃなく
この記事のことです。
投稿者:原田|2007年7月18日 16:58
読ませていただきました。ホント面白かったです。でも、バーレーンファンって珍しいですね(笑) でも私もバーレーンは嫌いではないです。決勝トーナメントで日本と戦ってほしいです。
投稿者:pani|2007年7月18日 18:16
ワールドカップ予選の時はバーレーンまで行きました。
そこに海島さんもいらっしゃたのでしょうかね。
私はバーレーンとインドネシアのGL突破を祈っていますが、
外出のため、残念ながらテレビが見られません。
帰宅後、大笑いしたいと思います。
投稿者:匿名|2007年7月18日 19:06
韓国の敗戦は必然性があったように思われます。アジア杯までの準備期間や試合前の監督や選手のコメント、韓国マスコミの記事などを見ても、明らかに油断があったと言われても仕方ありません。仮に予選敗退などになったら、サッカー強国を自認する韓国にとっては屈辱的なことでしょうが、勝負は時の運、いつもの無意味な責任の押し付けなどせずに謙虚な気持ちで敗因を分析し、これをバネにさらにグレードアップして欲しいものです。
投稿者:祝日本|2007年7月18日 19:37
さて、とうとう運命の日ですね。
僕もバーレーンには勝ち上がってもらいたいのですがどうなるでしょうか・・・。
投稿者:hide|2007年7月18日 19:42
前半を終わったところで,韓国がリードしているのに,サウジも空気を読めなくて2-0でリードしています。
韓国が大量リードをするのを待ってから,ロスタイムにバーレーンが2-2に持ち込むとしたら相当なものですが。
期待しましょう。
投稿者:正成|2007年7月18日 20:15
現在4-0でサウジが爆発しております。
やはりリードしたときの中東戦術は恐いものがあるな。
投稿者:ita|2007年7月18日 21:01
結果がすべてわかったところで書いてます。
サウジがバーレーンに4対0で勝っちゃいました。
結局、湾岸国どうしでも、ドローで両国とも勝ち残れる状況でも、サッカーの試合では自らのプライドを賭けて戦っているのだと強く感じました。
健全ですね。^^
投稿者:naonim|2007年7月18日 21:54
ここまで負けるとあきらめがつきますね。どうもフバイルの調子がよくないようで、また、マルズーキがあがると危ないというパターンも変わってなくて・・・・。追う展開だったので、ダラダラ作戦が見られなかったのが心残りです。さあ、次はカンガルー戦だ!あとは日本を応援します!!
投稿者:海パン|2007年7月18日 22:33
バーレーンに住み始めて現在1ヶ月です。『わがバーレーン』という言葉に思わず喰いつきレポートを読ませてもらいました。そして、サウジ戦を応援する気になったのですが、すでにサウジに負けたあとでした。。。次にがんばってほしいと今日のところは願うばかりです。
投稿者:oofumi|2007年7月19日 02:56
米国居住の韓国人です。本当に興味深いコラム読ませてもらいました。
韓国がインドネシアに1−0で辛勝してなんとか準々決勝に漕ぎ着けたけれど、
今時の韓国代表には本当に呆れてます。でもどうして4大会連続(私の記憶が確かなら)、
韓国とイラン同じ相手の準々決勝になるのは謎。
日本は順調のようですね。アジアに入ってきたオーストラリアに必ず勝って、
昨年W杯でのお返しをして欲しいですね。
余談ですが先週終わった南米選手権コパアメリカの準決勝と決勝をテレビで
みながら、何故か空しいなと想ったのはアジアのサッカーが南米や
ヨーロッパ水準になる日はきっとやって来ないだろうという事です。
投稿者:サッカー狂|2007年7月19日 04:14
GCC諸国同士で引き分ければどちらの国も決勝トーナメント進出という場合、試合中盤で同点ならばどちらも攻めないで結果的に引き分けるというのはあるのでしょうが、自国が勝っている場合、相手国の予選通過のためにわざと点を入れさせて引き分けてあげるということはないということなんでしょうね。
あと、自国の1次リーグ敗退が決まっている場合でも、相手国の予選通過のためにわざと負ける、または引き分けるということもUAE vs カタールを見る限りではないようですし。
投稿者:トシ|2007年7月19日 05:51
サウジとバーレーンの談合はなかったようですね。両チームとも引き分け狙いは得策ではないと言っていたみたいですし、4-0になってもサウジは情け容赦なくバーレーンゴールに向かっていたのを見ると、たとえGCO諸国でも国のプライドを賭けて戦っているんだなあと思いました。個人的にはバーレーンが追いついてダラダラ戦術をやるのを見たかった気もしますが・・・。それにしても韓国はやはりシブトイですね。イランー韓国戦が、日本ー豪州戦と同じくらいに楽しみです。
投稿者:トロジャン|2007年7月19日 10:34
- イラクに始まりイラクに終わった、さよならアジア杯
- クアラルンプールの夜はアラブ人の宴
- 日本勝利にインドネシア大喜び?の理由
- 胸を張れインドネシア、そして誇れ日本サポーター
- ジャカルタの空に響く「ケンチャナヨ」
- 両翼をもがれた中東の雄
- マレーシア惨敗に共催国が大喜び?
- アラブ勢に降り注ぐ東南アジアの涙雨
- 日本とは違う湾岸式サッカー観戦法
- 初戦の相手カタールは情報統制?
- カタールの裏技に注意せよ
- 湾岸の名将マチャラが波乱を呼ぶ
- 日韓の脅威は「GCC」諸国
1965年、東京生まれ。一橋大学社会学部卒、97年よりバーレーンに在住し、バーレーン大学で日本語の講師を務めている。98年バーレーンでのガルフ杯のころからバーレーン代表の試合を見続け、現在は中東サッカー全般をウオッチしている。
- 西村幸祐
- ハノイの決戦を振り返る
- セルジオ越後
- 攻めも守りも平均点の鹿島
- オシム語録
- 阿部勇樹の負担
- 市川雄介
- 豪州戦はオシムジャパンのベストゲーム


