2008年6月19日
中東勢との戦いに危機感を持っている
<W杯アジア3次予選:日本3-0オマーン、オマーン1-1日本>◇6月2日、7日◇横浜、マスカット
数日経って、監督が代わり、故障選手が復帰するとこうも変わるかと実感した2試合だった。珍しく前半にさくさくと点が入り、内容的にも圧倒的に支配したホームでの一戦に対して、アウェーでは先制を許した上に内容も五分五分といった感じであった。
オシム時代のアジア杯、サウジアラビア戦もそうだったが、特に中東のクラブとやる時は、相手のカウンターで危ない局面になることが多い。このオマーン戦でも、短い手数でシュートまで持って行かれるシーンが目立った。日本のカウンターがいまいち遅く、サイドでボールをこねたり、戻したりしている内に、相手の守備体系が整ってしまうのが常なだけに、中東のカウンターは脅威だし、その思い切りの良く、速いプレーに半ば羨(うらや)ましさも混じる。アウェーでの1点目はカウンターではないが、思い切りの良さにやられた感が強い。
★守備的MFの不在
ただ、カウンターを食らうかどうかは攻撃面だけを見ているだけでは十分ではなく、相手のFWが速くて固くて強い、例えるなら「ルーニー」タイプのプレーヤーが多く、日本のDFが付いていけない時があるのも一因だが、一方で守備面を見ると、日本がボールを支配しているだけに、ラインが伸びきっていたり、両サイドが上がっていたりという「手薄」な状況が日本にできやすいのは間違いない。相手はカウンターを食らっても3~4枚守備が残っていることが多く、そうすると個の力にそれほど秀でない日本のFWは他のプレーヤーの攻め上がりを待つことになる。

その意味では、日本は、センターバックの中沢と闘莉王という屈強な2名に守備を託して、あえてカウンターリスクを取って攻撃しているとも言えるのだが、1つ指摘をするなら守備的MFの不在は考えるべきポイントである。 特にカウンターがサイドというよりは中央から切り込まれ、その後サイドに散らされて、DF陣が横に伸びきる形になるのは、いただけない。アウェーの前半36分のシーン等は典型的だが、日本の両サイドが上がっている時に、守備的MFまで上がり気味になるのは、ややリスクを取りすぎのように思われる。サイドアタッカーに松井と中村を入れ、守備的MFに遠藤と長谷部という、決して守備的とは言えない選手を入れたためだろうが、カウンターを守る時に、MFとDFで2つの守備ラインが形成されない事が多かった。最終ラインの高い個人能力に依存して守り、結果ことなきを得たものの、相手の攻撃能力を少々低く見積もりすぎではなかろうか。
★大久保の価値
続いて攻撃陣だが、4-2-3-1として、両サイドアタッカーに松井と中村、玉田と大久保が縦の関係、というのは2試合とも、比較的機能していた様に思う。玉田と大久保と最初聞いて、背が低い2人の組み合わせで大丈夫かと思ったし、高原が本調子であれば、玉田の所は上背もある高原を使いたいところだろうと推測したが、ゲームが始まると、2人の組み合わせでボールもよく動き、シュートも打てていた。松井・中村は言うに及ばず、ドリブラーである玉田も、足元でボールを受けてからのプレーヤーである一方、大久保はスペースに走り込んでのワンタッチで勝負するプレーヤーであり、この2つのプレーの性格の違いがアクセントになって、機能したのだろう。ホームでの前半22分の大久保の得点は走り込んでくるプレーヤーならではの典型的な1点だと思われる。
今後、高原や前田といった上背のあるプレーヤーが復調してくる可能性があるが、どちらも足元でボールを持ってからの選手であり、組ませるなら大久保と、という感じがした。過去も触れた9番と11番の違いということだが、振り返ってみるとあまり過去の日本代表は、この違いを使い分けていた感がない。例えば、ジーコジャパンの時代にあった久保・高原の組み合わせは、FWを実力で2名順番に選べばこうなるのだろうが、どちらも足元派であり、中盤で完全に崩せないとゴールが遠かった。その意味では、柳沢はスペースを使うプレーヤーだったが、「QBK」という言葉が一部に流行った通り、強引にシュートに持って行くタイプではなかった。
一方で大久保は、国見高校時代はトップ下を務める等、もともとスペースに走り込むタイプであり、かつゴールを狙う気持ちも人一倍強く、このスペースへのアタックとゴールへの気持ちの2つを兼ね備えた貴重なプレーヤーなのかもしれない。ただ、言うまでもないが、依然として成熟しない大久保の性格は不安ではあるのだが。
★長友への期待
あと、アウェーでのオマーン戦からは残念ながら負傷欠場してしまったが、サイドバックの長友は最近見た中で最も印象に残り、期待している選手である。コートジボワール戦で見せた屈強なフィジカル、スタミナは、ついにサイドバックで世界に通用し得る選手が出てきた、と感じた。駒野も長友もどちらも右サイドが本職で、左右できるということにはなるが、駒野は左と右の時で結構パフォーマンスが違い、右の時の方がプレイの質は格段に高い。長友は、東京でも徳永が右に入って、左サイドをやる事があり、左サイドでのパフォーマンスは駒野を上回る。内田も攻撃的で将来を期待させる右サイドバックだが、内田の右、駒野の依然として慣れない左という組み合わせよりは、長友が左でこれだけのプレーができるのであれば、長友の左、駒野は慣れた右、という組み合わせの方が総合的に上だろう。
4バックの時の両サイドバックはずっと日本が人材不足に悩まされたポジションである。余談ながら、この長友と駒野という組み合わせを見ていて、細かいコンビネーションの不足で危ない局面を招いたのも散見されたが、総合的に見て、これ程安心できる組み合わせは、古くて恐縮だが、都並と堀池以来かもと思っている。
★五分の星という現実
さて、オマーンとのシリーズは1勝1分で、地上波での解説もアウェーの引き分けに「仕方ない」というコメントが最後出ており、何とか勝ち越して及第点という感じもするのだが、僕は、これまでバーレーンも含んだ中東勢に対して、1勝1分け1敗と全くの五分の星であることに非常な危機感を持っている。最終予選には出られると思うが、最終予選の相手よりは弱いだろうこの2カ国に対して、これまで五分の星では全く評価できない成績と言うほかない。バーレーンの人口は約70万、オマーンの人口は約300万で、それぞれ大きめの市、大きめの都道府県というレベルである。人口だけで見れば、日本代表が市の代表や県の代表とやって五分の星ということである。代表には厳しい意見をぶつけなければいけないという訳では無いが、W杯に出るために、果たしてこの道を進んで進歩するのか、結果だけ見ると疑問符なのは間違いない。
また、結果は伴わなかったが、内容面で進歩があったかというと、日本のゲームが出来たのは勝った1試合のみ。守備はセンターバックの個人技でカバーし、攻めはなんとか形になりつつある、というのが現実である。どちらかというとクラブ時代は守備的な戦術を好む印象だった岡田監督が、今回の代表では攻めに重点を置いているように見えるのは重要なチャレンジだと思うが、この道を進んで最終予選・W杯で勝てるチームが出来るのか、6月のシリーズは、結果・内容ともに真剣に見て、評価したい所である。
※写真は7日のオマーン戦、走り出す大久保(左)(撮影・宇治久裕)
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- 市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
- 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。 大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。 また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。 本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。
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