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2007年7月22日

こなれない1トップ

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<アジア杯:日本1-1カタール>◇9日◇1次リーグ◇B組◇ハノイ
★中進国の躍進

 後半開始直後のカタールの猛攻を見て、前半は意図的に抑えていたことと、カタールがとても暑く、そして蒸した国であったことに思いが至った。僕は、世界の暑くて蒸した国には、アジアからアフリカ、南米まで結構行って慣れていると思うのだが、昨年訪れたカタールの暑さと湿度には実に閉口した。盛夏、夕刻の大阪の、水の中にいるような湿度に、更に7度位気温を上げた感じだろうか。

 暑さにやられて出歩く気力もなく、あまりドーハの町の記憶はない。暑さの他によく覚えているのは、冷房の効いたメルツェデスやハマーを乗り回すアラブ人と、バスにすし詰めになっているインド人、パキスタン人という移民社会・格差社会の図と、すし詰めになっているインド人、パキスタン人が軒並み携帯電話を持ち、e-mailを操り、CNNを見ているという、フラット化する世界の現実である。

 ベトナムも暑い国である。それをものともしないカタールの後半の動き、特にウルグアイから国籍を変更した選手だというセバスティアン、ナイジェリア国籍だったオバイド、人種を詳しくは知らないがアラブ人というよりは南アジア系の顔立ちに見えるフサイン・ヤセルの姿は、優秀な選手に国籍を取得させるのが最早先進国の特権ではないことと、あの暑い国でサッカーをしていることのアドバンテージを十分に感じさせた。

 これまでアジアで強かったのは、サウジアラビア、イラク、イラン、あるいは韓国、北朝鮮、日本など人口が1000万人を超える人口大国であったが、今後は比較的小さめの中進国であっても、国外から選手を集めて、短期間に強くなる可能性があるだろう。また、日本の中心選手が涼しい欧州でプレーし、アジアが基本的に暑い地域であることを考えると、暑いと相手がバテて日本が後半盛り返すというパターンは、アジアではあまり見られなくなるかもしれない。

★基本

 さて、試合の方だが、圧倒的に押してはいたが、基本を忘れると罰を受けるという、サッカーの真理がそのまま生きていた。失点シーンは、セバスティアンのキック力も素晴らしかったが、壁に相手選手を入れてしまったという、信じられない日本の凡ミスが最大の原因である。オシムが事前に壁を閉じろというゼスチュアを繰り返していたが、気付かなかったのか、間に合わなかったのか、壁に入っていた相手選手が、体を横にして隣の日本選手を押して作った1人分のすき間をボールが通り抜けて行った。三都主が弱い相手との試合ではよくやる手だし、野球で言えば「隠し玉」みたいな、プロ同士だとあまりないプレーではあるが、予選でも強い方の国と当たると、こういうすき1つが致命傷になる。今回は引き分けで済んで良かったと思うべきだろう。

 得点シーンも、不調になった時間帯も、これはこれで同じことの裏返しだったように思う。前半からサイドの今野が走っていい形になったシーンが続いたが、攻めあぐねた時間帯は、攻撃がセンターに偏ってパスの出し所を探すようなプレーを続けていた。カタールはMFはワイドに展開していたが、その後ろの両サイドにはぽっかりとスペースがあり、ここにボールが通ればいい形が出来ていたのだが、前半も半ばを過ぎると、なぜかそのスペースを日本は使わなくなり、そうすると攻めあぐねてボールを持たされている形になってしまっていた。

 その悪い均衡を突如として破ったのが、今野の後半15分のサイドへの進出と速いクロスであり、このクロスから高原のアクロバティックなゴールが生まれた。相手の弱いところはしつこく突くのは基本中の基本だが、今回はいつもの日本と比べてサイドへの展開が少なかったように思う。

 ドリブルにしても同じことが言える。引き気味に戦う相手にセンターでパスサッカーをするのは、アルゼンチンでない限り難しい。今回、サイド以外のチャンスはほとんどドリブルから生まれていた。前半41分に高原がドリブルで切れ込んで、中村俊輔がフリーになったり、後半4分に中村俊輔がドリブルで相手2人を引き連れ、中村憲剛がフリーになったシーンなど、ドリブルすると相手がボールに集まって、日本にフリーな選手が出来ていたシーンがいくつもあった。しかし、戦略的にいつもよりドリブルを増やしたようには感じられなかった。引いた相手にはドリブルやサイドでかき回さないとパスを出すスペースがないのは当然のことである。意図的にドリブルやサイドを使うという共通理解がもう少しあった方が良いと思われた。

★1トップの功罪

 この試合の日本は、珍しく4-2-3-1の布陣をひいていた。これは、高原がドイツでの活躍にたがわぬプレーをここ数試合見せ“proven”なFWになってきたことと関係があるだろう。1トップは久保以外にずっとそれらしい選手が居なかった日本代表だが、欧州でパウレタやアンリなど、従来の9番型の選手以外でも1トップを務めていることを考えると、高原のようにヘッドよりもテクニックに特徴のある選手でも、十分通用するという判断だと思われる。今回の高原のパフォーマンスも若干下がりすぎるきらいはあったが、前線で脅威を与え続けていたのは評価に値する。

 ただ一方で、MF陣については相変わらず改善の余地があるように思われた。1トップというのは、前線をFWの選手であえて埋めず、1トップの両サイドを使うサッカーになる。その割りには、サイドを使っていたのは長い距離を走る今野であることが多く、この試合でのウインガーのポジションはあまり有効ではなかった。また、山岸は消えている時間が多く、遠藤のポジションは低く、かつシュート意欲に欠けていたように思う。後半の10分過ぎに遠藤が立て続けにペナルティーエリア付近でシュートではなくパスを選択するのを見て、天を仰いだものである。

 彼が2トップの時の左の攻撃的MFであれば、前線でもつれた時に、FWの2名+右の攻撃的MFと、味方が2-3名居る可能性が高いと思うのだが、1トップの左ウィンガーであれば、それは1-2名の可能性が高い。かつ相手が引いて戦っており数的不利が色が強まっていることを考えると、ああいったチャンスでパスを選択するのは、やや可能性が低いプレーだった様に思う。

 また、高原はヘッドがそれ程強い選手ではないが、カタールDFの上背もなかったから、攻めあぐねたら1トップに当てて、1トップがサイドに弾いてウインガーがそれを拾うといった戦術も、格好は悪いが、たまには選択してみると、攻撃のバリエーションも広がったのではないか。1トップ自体は、高原の成長とMFに魅力的な選手の多い日本の特徴からするに、今後の可能性を秘めたフォーメーションだと考えているが、この試合では、まだこなれ度合いは道半ばの感であった。

 直近数カ月、あまりJリーグをフォロー出来ていないので、間違っていたらご指摘頂きたいが、Jリーグの上位チームは2トップが比較的多い。 クラブレベルで慣れていない戦術を急造の代表で行うのは難しいものだ。フラット3を1つの特徴としたトルシエ監督の時は、クラブレベルがこぞって3バックになって、人が変わってもパフォーマンスが余り落ちなかったものだが、今オシムが1トップを志向するとすれば、割と人を選ぶ選択肢ではないかと思われる。そのリスクを取っただけの果実が今後見えてくるか、アジア大会はそんな視点でも見てみたい。

※写真はカタール戦の後半、相手選手を厳しくチェックするDF今野泰幸(撮影・宇治久裕)

市川雄介 科学的サッカーのススメ
市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。  大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。  また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。  本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。

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