2007年6月22日
サイドからのゲームメークの可能性

<国際親善試合・キリン杯:日本0-0コロンビア>◇6月5日◇埼玉
評価が難しい試合であった。前半が悪くて後半が良かったようには見える。ただ、日本のパフォーマンスが改善されたから後半良くなったかというと、そうでもない。コロンビアの疲れに乗じたという部分も大きく、素直には喜べない。
★マルーダでもリベリーでもない
前半は、フィジカルの強い相手にガツガツと寄られると日本がよく陥るパターンにハマっていた。球際に負けると、中盤がズルズルと下がる。特に今回の前半は高原の1トップだったこともあり、以前から良く書いている、FWと攻撃的MFの距離の乖(かい)離が発生していた。前半の日本のフォーメーションは、いわゆる4-2-3-1で、攻撃的MFの3は、左から遠藤-稲本-中村俊輔である。前回も引き合いに出したW杯ドイツ大会でのフランス代表だが、今回の日本と同じ4-2-3-1を通常採用していたが、「3」は左からマルーダ、ジダン、リベリーである。ジダンがタクトをふって、マルーダとリベリーがFWのようにサイドから前線に飛び込んでいくのが、攻撃の1つのパターンだ。稲本にジダンを求めるのは筋違いだが、一方で中村俊輔がボールを持っても、前線には高原だけのことが多く、稲本はマルーダでもリベリーでもなかった。高原は点こそ入れられなかったものの素晴らしいパフォーマンスで孤軍奮闘していたが、1人で点を入れられるほどコロンビア守備陣も甘くない。アンリが点を入れるにはマルーダとリベリーのサポートが必要であり、パウレタにはフィーゴとC・ロナウドが必要であり、トニにはカモラネージとペロッタが必要なのである。
欧州では、4-2-3-1や、4-3-2-1など、1トップを採用する場合には、2名のサイドアタッカーと1、2名のパサーというのが黄金律である。今回の日本は1トップ、3パサー(両中村、遠藤)という黄金律に反する布陣だったが、稲本の代わりに羽生を入れたのを見るに、オシム監督はシステムの問題ではなくて、選手のパフォーマンスの問題であると考えているように思われた。オシム監督は横並びの戦術は取らずに、サイドからゲームメイクした上で、相手のケアが薄れる反対サイドで流動的に選手を動かすことによって、得点の確率を上げるようなサッカーを考えているのかもしれない。ただ、少なくともこの試合では今ひとつであった。それは、両サイドがボールをもらう場所が低すぎること、及びその逆サイドが押し上げられなかったことが原因と思われる。
また、コロンビアは13番のマリーンが左サイドの2列目でよく機能していた。4-2-3-1の1つの弱点は「2」の両脇に比較的広いスペースがあることである。マリーンはこのスペースを使って、飛び出しを図り、あわててセンターバックと駒野がカバーに入ると、今度は逆サイドがぽっかりと空く、そんなパターンを何度も食らっていた。フォワードもバルデラマのような華麗さはなかったが、一瞬のジャックナイフの様に鋭い走り出しは素晴らしく、しばしば日本の守備陣は振り切られていた。
★なぜエンジンが掛かったか
後半に入ると、コロンビアが中1日という強行日程からか、目に見えて足が止まり、それに乗じて日本のパフォーマンスが上がってきた。羽生はよく横にも縦にも動いてスペースを作っていたが、前半であれば潰されていたかもしれない。なので、羽生が前半から出ていれば違うゲームだったかどうかは判らない。疲れた相手に更に動き回る羽生という組み合わせの妙で全体に日本にエンジンが掛かった印象である。
また、今野は左サイドに入っていたが、相手が2トップ気味の時は、ポジションを上げて、左ボランチの位置に入っていることもあった。守備的にはこれが効いていて、中村憲剛の前半の守備はかつてのピルロを見るような危うさがあったが、今野-鈴木という何年か前に五輪代表でよく見たコンビでの守備は極めて安定感があり、最終ラインの前で相手のボールをよくはね返していた。前半はこのゾーンでマリーンにいいようにやられていたが、後半はボールの取りどころがここになって、守備は安定した感があった。
守備が安定して、相手が疲れて当りが弱くなり、かつ前線に走れる選手が入ってタメやスペースが出来れば、うまく行かない方がおかしい。後半15分と同17分にパスがつながるいい攻撃が出来たが、これはこの3つの要素によって攻撃的MFがポジションを上げれたからこそである。これを最初から出来るかが今後の大きな課題であろう。後はいつものように終了間際に大量の選手をオシムは投入してきたが、この試合では今ひとつ意義が判らなかったし、特段目立った選手もいなかった。水野や藤本などは、もう少し時間が与えられてもいいように思う。
★フォーメーション仮説
アジア杯(7月7日開幕)が目前になってきたが、ペルー戦、モンテネグロ戦、コロンビア戦と経て、パフォーマンスの試合による違いは致し方ないが、ようやくオシムジャパンの型が見えて来たように思う。低い位置からのゲームメークと攻め上がりは中村憲剛、両サイドから試合を作り、道半ばだがパスの受け手にもなり得るのが遠藤と中村俊輔。そしてトップで高原。攻撃陣で言えば、あと1名ボールを受けるタイプの選手が2トップとして高原とコンビを組むか、あるいは攻撃的MFとして遠藤・中村俊輔にサンドイッチされるかというオプションである。どちらを採用するかは、相手のバックラインの性格によって変わってくる。
守備陣では、アクシスには中沢か闘莉王か1名強じんな選手を置いて、残りはボランチでもサイドでもセンターバックでもやれるポリバレントな選手をそろえる。フォーメーション的には4-2-3-1(コロンビア戦)、4-2-2-2(ペルー戦、モンテネグロ戦)、3-2-3-2(相手が2トップの場合)あたりを相手のFWの数や、布陣に応じて使い分けるイメージだ。
ただし、使い分けはあくまで対戦相手の特徴に対応するものであり、根本的な思想はどのフォーメーションでも共通している。オシム監督は、あまり「トップ下」を作らない監督だが、例外的に初期の頃は三都主をトップ下的に使っており、今回も稲本、羽生と試した。どれも従来の日本的なラストパスを出すトップ下というよりは、ボールを受けられるタイプの選手である。このあたりにオシム監督の思想があるとにらんでいるが、彼は日本人のフィジカルの弱さとパスセンスの良さ、及び速くて強いサイドアタッカーの不足を鑑みるに、パサーをサイドと低めに配置するのが世界と戦うには良いと考えているのではないだろうか。ベッカムのようにサイドからゲームを作り、センターには縦横に走れる選手を置いて、相手陣内にスペースを作ってそこを突く。攻撃的ボランチは、サイドにボールを散らした後、攻め上がって、できたたスペースに走りこむ。イメージとして、こんな攻撃だ。
この布陣の最大の課題は、今回も浮き彫りになったが、両サイドMFとFWが時間帯によっては、極めて乖離し、一体化した攻撃が出来ないことである。ただ、ここさえ改善してくれば、確かに面白い布陣になるのでは無いか。今の欧州では、ACミランで守備はイマイチだがパスセンスは抜群のピルロをボランチに置いたことに端を発する、割と低めからのゲームメークが流行だ。一方でベッカムのような傑出した選手がいる場合を除いて、サイドからのゲームメークというのはあまり例がないのだが、日本人の特性、今のタレントからすると合理的な選択肢である。
前のエントリに書いた通り、僕は依然として両サイドの攻撃的MFにはパスの受け手タイプ、いわゆるサイドアタッカーが居ても良いと思っているし、本山、田中達也、藤本、或いは大久保であっても、そこでプレイできる能力はあると思う。サイドアタッカーが百花繚乱の欧州を知らない筈の無いオシムがそうしないのは、国内組をクラブと違うポジションで起用するよりは、世界で通用している選手をサイドに配し、そこで相手に脅威を与えた方が効率が高いと思っているのだろう。これはあくまで僕の仮説であって、2010年には全然違う戦術で戦っているかもしれないが、僕はサイドからのゲームメークというのは日本人にユニークに適合する戦術で、追究する価値はあると感じている。
最後にモンテネグロ戦の後の記者会見でオシム監督は、将来的に2ボランチのところを守備も攻撃の基点にもなる1人に任せたいと言っていたが、もしそれが実現するのであれば、4-1-4-1であれ、4-1-3-2であれ、前の5人の内、ボールを出すのがサイドの2名、受けるのが真ん中とFWの3名ということになり、前段で書いた「黄金律」と構成の違いはあるが、バランスは近くなる。こうなった時が、オシム監督の布陣が完成する時なのかもしれない。
アジア杯、僕はオシム監督が本当にそんな仮説を持っているのか、そこに注目しつつ見てみたいと思う。
※写真はコロンビア戦でFW高原にバックパスを送るMF稲本(撮影・宇治久裕)
- 市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
- 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。 大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。 また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。 本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。
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