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2007年3月06日

壮大なるカウンター実戦練習

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★米国と戦わば

<国際親善試合:U-22日本代表0-0U-22米国代表>◇2月21日◇熊本県民総合運動公園陸上競技場
 大きな大会の壮行試合というのは、目の前に迫る予選とつなげて考えるものである。ゆえ、そんなに強くない相手と壮行試合を行うというのは、景気づけの観点以外に、予選の最初で当たる、あまり強くない相手とレベル感を合わせるという意味もある。

 こう考えると五輪2次予選の最初の相手である香港の前に米国と対戦するというのは、両方に合致しないため、これは最終予選などを見据えたテストとして、香港戦とは独立して考えた方が良いと思われる。

 以上のように整理した上で米国戦を振り返ると、可能性も未熟な点も露わになり、テストとしては有意義であったと思う。この時期にテストをする是非はあるだろうが、今のU-22代表を理解するには極めて良い試合だった。

 まず可能性の方を挙げていこう。前半の真ん中くらいまで、走り勝っていた時間帯はゲームを支配できていたのは、今のムービングフットボールを志向した方針が正しいことを示している。この時間帯は、この世代の米国は弱いのかと勘違いするほど、完全に日本のゲームになっていた。中盤の押し上げも効いていたので、FWがボールを触りにポジションをまた下げた結果、クロスやラストパスの出し所がなくてMFが困るという様な、かつてのA代表でよく見られたシーンは皆無だった。ちなみに、中盤の押し上げと書いたが、これは中盤の選手がラストパスに飛び込んでいく、「追い越す動き」をしたという意味もあるが、このゲームの前半では、むしろ中盤が押し上げられていたので、FWの3人の選手とうまく連動できたという意味合いが大きい。

 加えて、中盤と連動していたがゆえに、FWが下がらなくてもボールを触れたのは前半の特色である。僕はこの試合、3トップはポジションを下げるなと指示されていたと思っていて、この点については後述したいが、FWが前線に張り付いている時に中盤が押し上げられていると、MFからFWまで見事にボールがつながるものである。

★相変わらずの球際の弱さ

 さて、この様に可能性はあったのだが、前半の終わり際からパフォーマンスが悪くなったのが極めて残念である。この原因は見ていたところ1つで、A代表の試合でも何回か指摘したが、要は球際の弱さと思われる。プレッシャーのある中でボールを止めて、キープし、蹴るという単純なことが変わらない日本の弱点であり、未熟なポイントであろう。中盤でトラップが大きくてボールを取られたり、短いパスをミスして相手にボールを渡したり、米国よりも明らかに日本は球際に弱かった。

 単純なプレーをミスすると、他の選手はまずそのカバーリングに追われてポジションが下がってくる。次にじわじわと効いてくるのが、この選手にパスが通るので自分はこのスペースに走り込もうとか、次のシーンのイメージが崩れてくることである。中盤というポジションは当然ながら攻撃も守備も行うポジションだ。攻撃というのは“守備をしない”と決めないと出来ない、勇気を必要とするアクションなのだが、攻撃が続くいいイメージがないとなかなか守備を放棄する決断が出来なくなる。特に3バックの時のサイドのMFは、近代サッカーにしてはレアな、自分の持ち場をカバーする選手が少ない特殊なポジションなだけに、単純なミスが続いて攻撃のイメージが崩れてくると、どうしても上がれなくなってしまう。よく一般的に「リズムが悪い」なんて言うが、今回のリズムの悪さは球際の弱さから発生し、ポジションが下がり、守る意識が強くなることで、ますます前に人が走り込まなくなったことがその本質であると思われる。

 幸いなことに、前にショートパスが出せないがゆえの、前線へのロングボールの放り込みや、慌てた横パスという、昔の悪いクセはあまり出なかった。出しどころがなければ慌てずキープして押し上げを待つ、という最低限の約束ごとは浸透していたのだろう。

★カウンターアタック

 前半の真ん中くらいから、球際のミスが続いた結果として、両サイドの攻撃的MFが下がりだし、ほぼ中盤の4人がフラットに並んでしまって、トップの3人と何十メートルと距離が開いてしまう状態が続いた。こういった状態は、欧州の試合を見ているとよく起こるし、前のW杯の決勝でも、イタリアは途中からこの様な状況になったのだが、日本代表では結構珍しいパターンだったと思う。何が珍しいかというと、前線に3人残っていたからである。日本代表は伝統的に2トップが多かったため、悪い試合だと攻撃的MFが下がりだし、さらに悪いとFWも下がってしまって、前線に下手するとゼロ、多くても2人ということが多かった。

 守勢に回った時に、7人で守るのと8人で守るのとの限界効用はあまり大きくないが、カウンターになった時、2人で攻撃するのと3人で攻撃するのとではまったく違う。日本のカウンターがきれいに決まることがこれまで少なかったのは、そもそも強いとか速いとか思い切りがいいとかの傑出した個がFWに欠けていることもあるが、1、2名でフィニッシュまで行くのがそもそも難しいのである。この試合では、カレンや李は努めて前線に残ろうとしていたので、たまに前線にボールが入ると、3人で攻撃の形を作ってフィニッシュまで持っていける時が多かった。FWとそれ以外の距離が開くのは良いことではないが、実力差があったり、コンディションが悪いとそうならざるを得ない試合もあるから、3人でも攻められることが分かったのもやや皮肉めくが収穫と言うべきだろう。

 リズムが悪い時間帯が長かったのに、シャドーの2名のような動くタイプが前線に残っていたのは、前述の通り、これは指示が出ていたからと思われる。前の選手がボールをもらいにポジションを下げると、そのまま守備ラインに吸収されて、守備と攻撃の間のスペースを詰めるという狙いが実現しないことが往々にして多い。サッカーは点を取らないと勝てない競技であるから、攻撃の芽を残しておく観点でも、相手が攻撃にかけられる人数を減らす意味でも、FWはゲームから消える時間帯が長いことを恐れず、前線に残るのが定石である。高さや速さといった特徴のある選手が多かった今回のFW陣だけに、残らせた指示は正しかったと思う。世界から極端な例を探すと、スコラーリは、試合後半のプレースメントキックの局面でもFWを下げないタイプの監督だ。これは上記の様な効用を重視しているからだろう。

 また、この指示の背景は、平山を自他共に認める9番の選手として育成したいという狙いもあっただろう。4-2-3-1にしろ、4-3-2-1にしろ、今の欧州のフォーメーションの主流は1トップであり、その1トップにはイタリア代表のトーニのような、典型的な9番タイプが求められるのは、オシムもW杯後に指摘していた通りである。日本代表で9番らしい選手と言えば、ドーハからの13年間でも高木、久保くらいだろうか。平山は数少ない将来の9番候補であり、役割分担が不明確になりがちな2トップではなく、本質が1トップ2シャドーである3トップの中心で起用したフォーメーションには、そんな狙いが透けて見える。

 平山も悪い時はボールをもらいに下がるクセがあったが、1トップだとポジションは高い位置を取らざるを得ない。ジーコジャパンの時代に、柳沢はシュートを打たないという批判の次くらいにFWにしてはポジションを下げ過ぎだと言われていた。しかし、その柳沢も、コンフェデ杯のメキシコ戦など、1トップとして起用されたゲームでは自然にトップの位置で90分プレーしていた。柳沢のスキルが1トップというフォーメーションに向いていたかは別問題だが、中盤で押し込まれてズルズル下がりそうな試合でも、不思議と2トップより1トップの方が、FWが前線で体を張り続けるシーンを見ることが多い。

★監督の戦術はどうだったか

 さて、主に選手レベルでの内容についてはここまでとして、もう1つレベルを上げて監督レベルでの戦術の善し悪しを振り返ってみたい。上に書いたような球際の弱さは、フィジカルなのか練習方法なのか、なかなか日本にユニークな弱点である。この問題に対して、監督サイドはA代表にしても五輪代表にしても「走り勝つ」「3人目の動き」等のキーワードで、戦略的にムービングフットボールを志向することで解決しようとしている。基礎技術は一朝一夕にレベルアップ出来ない類のものであるから、正しい方向性であると思うが、試合毎にその戦略を十全にワークさせる工夫があるかというとこれは改善点があるだろう。

 例えば、米国は2トップの下にワイドに広がる2枚の攻撃的MFという布陣だったが、FWと比べると明らかにMFの方が脅威で、特に6番のカークは極めて良いパフォーマンスだった。これに対して、日本は劣勢になっても引き続き相手のFW2人には3人のDFが当たり、攻撃的MF2人には2人の決して守備が得意でないサイドMFが対応することを続けた。相手のFWに1人余るバックラインという原則を墨守した結果だろうが、ここはゲーム中に修正すべきポイントのように思われる。例えば、MFが1人下がって4バックに変え、ペナルティーエリア横のスペースをつぶして相手のMFをケアすると共に、日本の攻撃的なMFが攻める余地を作るという戦術的修正もあり得ただろう。

 ここから半年間、楽勝とは言わないが、あまり強いとは言えない相手と戦うことになるため、選手よりも、さらに監督レベルでの戦術ミスが露わになる局面は少ないだろうが、ここはシビアに考えて、戦い方のバリエーションを増やしておかないと最後に差が出ないとも限らない。日韓W杯のトルコ戦、それ程スピードに特徴のない相手DF陣に対して、トルシェはスピードとドリブルに優れる三都主をFWで起用して、スタメンを見た日本国民を驚愕の渦にたたき込んだが、一方で「あれだけ練習試合したのに、このオプションをそもそも試しておかなかったのはなぜ?」と思った人も多かったのである。

※写真は競り合うFW平山 (撮影・蔦林史峰)

市川雄介 科学的サッカーのススメ
市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。  大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。  また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。  本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。

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