2006年11月21日
韓国サッカーは日本の脅威なのか

★最強のライバル
<アジアユース:日本2-2(PK3-2)韓国>◇9日◇準決勝◇インド・コルカタ
韓国はいつだって最強のライバルである。特に若い世代にとっては関門に等しい。
A代表は99年Wユースで準優勝した黄金世代以降、苦手意識はなくなってきたが、五輪代表を含めた若い世代では、敗北の姿の方が記憶に強い。勝つにしても劣勢を強いられて、カウンター一発というA代表ではあまり見られない形が多い。典型的な試合展開は、走り負けである。今回のアジアユース準決勝も最後PK戦でうっちゃったが、フィールドでは過去とまったく同様の展開で、走り負けているのは明らかだった。走り勝つことはオシムのテーマでもあり、この意義については過去触れたこともあるので、本稿では、走り負けること以外に何が韓国と違うのか、そこに重点をおいてみたい。
今回のU-19韓国代表のメンバーとは、いずれ五輪予選やW杯予選で何度もお目にかかることになるから、1度おさらいをしてみるという趣旨である。
★狭いところでの差
韓国が明らかに上回っていたのは、フィジカルの強さと足元のうまさである。ここが負けていて他に何が勝っているのかと言うと、日本は足元はイマイチだったが、ボールを遠くに蹴る時、つまりパスにはまだ分があった。日本のゴールシーンは、どちらもパスがきれいに通ったあと生まれたものである。A代表では、各プレーヤーがスペースを求めて動き回るため、日本のパスサッカーが有効に機能する時も多いが、U-19レベルでは、まだそこまでプレーヤーの動きの質が高くないため、ボールに人が集まって密集するようなシーンが多くなる。こういうスペースが極端に小さい時に、韓国のプレーヤーのうまさと強さが際立ってくる。
日本のプレーヤーは、こういう密集ゾーンをそもそも避けてボールを回そうとするし、入ってしまうと簡単にボールを取られていた。また、フィジカルも一時期と比べると差は縮まっては来たが、ぶつかっても容易に倒れないのは韓国のプレーヤーの方だった。このフィジカルと足元の差が、試合を通じてパフォーマンスの違いにつながっていたように思う。3人で囲んでもボールが取れず、結局韓国にシュートまで持っていかれるシーンもあった。
これは伝統と言うべきなのか、日本にはあまり狭い所でプレーできる選手が育たない。今のA代表では田中達也くらいであろうか。十分なスペースがあればパスにシュートに良いプレーが出来る選手は多いが、メッシやロビーニョとまでは言わないものの、狭い所をスルスルっと抜けて決定的な場面を作れる選手というのは極めて少ない。こういう選手の現在のスキルを考えれば、オシムのムービングフットボールは、基本的にスペースメークにその狙いがあるため、現状に極めてフィットした戦術だと言えるが、選択可能なプレーを増やす観点で前線にはドリブルで局面を突破できる選手が最低1人はいてほしい。
狭い所でプレーできる選手が育たない正確な理由は分からないが、1つ仮説としては中学高校レベルから戦術を教えすぎているから、というのはあるかもしれない。ボールを持ちすぎず、ピッチをワイドに使ってパス主体で攻めるというのは、高校サッカーでも基本の戦術だ。確かに球離れを良くすればスペースも生まれるし、勝利の確率は高まるかも知れないが、残念ながらドリブラーが成長する余地は少なくなる。中学高校レベルでは勝利よりもドリブルを、というのは非現実的だが、韓国とのパフォーマンスの違いを見るにつけ、1度育成制度を考えてみた方が良いように思う。
★サイド攻撃の違い
あとは戦術的というほど大層な話ではないが、サイドプレーヤーの役割というのが大分違ったように思う。韓国のサイドはイタリア人プレーヤーに似ていて、クロスを上げるのではなく、中に切れ込んでシュートに持ち込むことを目的としてプレーしているように思えた。守備との間合いがあれば、そのすきに正確なクロスを上げるというよりは、その間合いをドリブルで詰めて抜き去ろうとしていた。
日本のサイドの選手が中に入ってプレーをしないわけではないが、基本的にはペナルティーエリア横のスペースに侵入してクロスを上げることが多かった。加茂・岡田ジャパンの時に、中田からスペースにパスが出て、名良橋が走ってクロスを上げる、というよく見た光景以来、変わらない日本のサイド攻撃のパターンである。
このクロスが有効でないとは思わないが、バリエーションとして、もっと中に入って勝負してもいいのではないかと思う。もちろん、中に切れ込んで勝負するためには、ペナルティー横のスペースからクロスを上げるより足元の技術が必要だから、前に言及した点との“chicken-egg”なのだが、逆に言えば、サイド攻撃のバリエーションを増やすためにも、狭い所でプレーできるようになるべきなのである。
A代表でも状況は同じで、加地や三都主は、両者ともスペースがないと活きない選手であるため、中で勝負するというよりは、サイドからパスを出すプレーヤーだ。また、きき足も三都主は左で、加地は右であり、縦に抜けるには都合がいいが、中に入っていったり、シュートを打つにはきき足が逆の方がいい。欧州では、松井が右ききで左サイドをやっているが、これも足元の技術がある選手だけに、クロスではなく中に入ってのシュートやラストパスが期待されているということだと考えられる。
韓国代表との試合で、よく相手の2トップに加えてサイドに開いたMFの2人が加わって、まるで4トップの様な波状攻撃を受ける時があるが、韓国代表のサイドプレーヤーはサイドアタッカーと呼ばれるにふさわしい攻撃的な選手が朴智星を嚆矢(こうし)としてそろっており、逆に日本には不足している。世界的に見ても、ギグスやフィーゴ、ロッベンの活躍が示す通り、サイドアタッカーは重要なポジションであり、戦略的な育成ポイントであるように思われる。松井大輔とて、日本というよりは、フランスでサイドアタッカーの芸を磨いたと考えるのが自然だろう。
★韓国の日本化?
最後に韓国もずい分パスがうまくなったことは指摘しておきたい。まだパスサッカーは日本に分があるが、14番(MFイ・チュンヨン=FCソウル)や21番(MFイ・ヒュンスン=全北現代)など、「ファンタジスタ」らしきプレーが出来る選手がチームに交じっていた。アテネ五輪組では、松井大輔が韓国人には非常に印象に残ったという。それは、松井のようなテクニックがあるファンタジスタが韓国にはなかなか育たないからと聞いた(当時の松井は今と違ってトップ下でプレーしていた)。
逆に日本には上に述べた通り、朴智星のようなサイドアタッカーが育たないのだが、今回の韓国チームには、これまでいなかったタイプの、真ん中でボールをさばいたり、ラストパスを出せたりする選手が育って来ているように思った。今後14番や21番が松井、あるいは中村俊輔のような選手に大成してくると、サイドも真ん中も攻撃陣が充実するため、ライバルチームとして非常に脅威になるだろう。
※写真はPK戦を制し雄たけびを挙げながら走り出す日本イレブン(撮影・下田雄一)
- 市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
- 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。 大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。 また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。 本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。
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