2006年11月06日
黄金世代→谷間の世代→?

<国際親善試合・U-21日中韓3カ国対抗戦:日本2-0中国>◇25日◇国立
前回より少々時間があいてしまったが、今回は10月25日に行われたU-21の中国戦について書いてみたい。
このカテゴリーは2008年北京五輪に出て、かつそこで好成績を残すのが目標ではあるのだが、だからと言って、勝てばいいのかというと、ナショナルチームとしてはやはりA代表をどう強くするかが圧倒的に重要な関心事だから、選手を育ててA代表に何人送り込めるかという、育成も重視しないといけない。よって、細かい戦術を云々するというよりは、選手個々人の技術や、21歳という年齢にふさわしい成熟度とかにより注目する必要がある。
★基礎を欠いた守備
そう思って試合を見たのだが、いくら若いカテゴリーとは言え、日本も中国もセットプレーへの守備は極めてお粗末だった。前半開始早々、中国が上げたクロスで日本は最初のピンチを迎えたが、この時も中国のフォワード2名を完全にフリーにしており、運が悪ければ1点もののシーンであった。一方の中国も、前半の日本の得点シーンが顕著であったが、攻撃4名に対して守備6名という状況で数的には十分いたにも関わらず、増田のクロスに対する守備は、かろうじて平山に1人が当たりに行っていただけで、5人はボールウォッチに終始し、日本は3人がフリーであった。
梶山のヘディングもどんぴしゃりで素晴らしかったが、それほど鋭角的に落ちたとは言えない増田のクロスがぴったりハマったのは、中国の守備がルースだったという要因が大きいだろう。このマークにつききれない、というのは両チーム試合終了まで散見され、得点には至らなかったが、例えば後半5分の中国の攻撃の時も、途中でカットしたから良かったものの、真ん中では2名がフリーで飛び込んでいた。
また、守備でもう1つ気になった点を挙げるなら、何人でボールを取りに行くとか、カバーは誰がするとか、約束ごとというか、「守備の嗅覚」みたいなものが一定のレベルを維持出来なかったことである。前半15分くらいだったと思うが、ライン際でボールを持つ相手のFW2人に対して5人で取りに行き、結果的にボールが取れたから良かったのだが、スカスカの真ん中は1:2の数的不利になっていた。ライン際のボールに5人行くのは明らかに多すぎで、一歩間違ってこれが抜かれでもしたら、1:3という状況に陥っておかしくないシチュエーションを自ら作り出していたことになる。
反町監督が試合後に、前半10分から15分までは、このゲームはどうなることかと思った、と述べていたが、僕もこのシーンの後の日本のゴールまでは、オランダ・ワールドユースからの伝統(?)ではないだろうが、安定しない守備に非常にハラハラしながらゲームを見ていた。
こういう、セットプレーの時に相手を放してしまうとか、ボールに選手が集まってしまうというのは戦術の前の、ディフェンスの基礎中の基礎みたいな所の問題点である。若いとか、国際経験が少ないというのはあるだろうが、Jリーグではレギュラーを張る選手が多く、1つ若いカテゴリーの時にワールドユースに出た経験があり、かつ先にアウエーで中国とやった上でのホームゲームだから、弁護の余地がたくさんあるとは言えないだろう。
★チームとしてのまとまり
最初に気になった点を述べてしまったが、チームとしては良いパフォーマンスを出していたと思う。反町ジャパンは、オシムのムービングフットボールとはやや趣きが異なり、高いラインを引いて、前線から守備までの距離をコンパクトに保つ、プレッシングフットボールに近い思想のように感じた。あえて過去の代表から近いものを選ぶならトルシエ・ジャパンでは無いかと感じたが、中盤でスペースを与えず速いチェックで相手をつぶす度にに喝采(かっさい)し、たまに3バックの間のスペースへの長いスルーパスでヒヤッとする、というのは、当時の日本代表を見る上では欠かせないエッセンスだったし、今回のゲームも似たようなシーンが多くあったと思う。
この反町監督のサッカーは極めて中国に対して有効だったのも事実で、2トップは日本の3バックにマンマークで密着されて局面を打開できなかったし、中盤は日本の速いつぶしに手こずり、短めのアーリークロスを放る位の攻撃しか出来ていなかった。個々のマークではひやひやしたものの、チームとしては守備が機能していたのは、戦術が優れていたからである。その他にも、日本は1トップがマークをひきつけつつ、2シャドーが複雑にポジションを入れ替えてマークを外す等の、このカテゴリーにしては比較的高度な動きにトライし、それは十分奏功していた。加えて、前半の終わり際には、平山の後ろにMFの4人が並んで、交互にポジションチェンジを繰り返し、フリーな選手が出来ると前線に飛び込んでパスが出るという、コラーをトップにMFが4人並んでパスサッカーを繰り広げた数年前のチェコの様なシーンも多かった。これらは、高さのある平山と総じてドリブルを苦手とせず、ショートパスも得意な選手で粒がそろっている中盤という、チームの特徴をうまく活かした戦術だったと思う。よって、前のチャプターで述べたような、個人のレベルにおける守備力の向上が出来れば、よりまとまった、結果を出せるチームになる可能性も十分あると思う。
★谷底の世代?
次に、育成という観点から選手の技術レベルを考えたい。単刀直入に言うが、この中から何人今のA代表で通用するかと考えると、現時点ですぐにというのは難しいように思う。このチームでは、やはり平山が注目されるし、今回はゴールを決めて結果も出したが、足下の弱さが気になった。ゲームを通じて、足でボールをキープして味方に渡したり、シュートで終えたりしたシーンは極めて少なかったと思う。FWは必ずしも足下の技術だけではないが、今のスペースを消しあうサッカーでは、足下の技術がないと、スペースへの走り込みがやたら速いとか、ヘッドに異常に強いとかの「一芸系」FWになってしまい、90分ゲームを任せられるというよりは、フィットした場面でのスーパーサブ的な扱いにならざるを得ない。
192センチという平山の身長は、イブラヒモビッチと同じだが、イブラヒモビッチはキープ力が高く、ボールを簡単に失わない選手である。同様に、イングランド代表のクラウチや、オランダ代表のフェネホール・オフ・ヘッセリンクも、身長が非常に高いのが目に付くが、足下の技術も低くない。かつて見た平山は、足下もそこそこ使えていたように思うが、周りのレベルが上がったのか、単純に体がまだ絞れていないのかは不明だが、このゲームでは精彩を欠いていた。A代表のFWもリッチな状況ではないが、現状のレベルでは平山のA代表デビューは先の話であると思う。
また、MF陣に目を移しても、総じてどこのポジションもこなせ、ドリブルもパスも守備も出来る選手が多く、試合自体は上に書いた通りグッドパフォーマンスだったとは思うのだが、21歳と言えば、中田英寿がペルージャに移籍した歳である。往時の前園・中田や小野、そこまで行かなくてもアテネにおける松井・今野クラスの傑出した個性があるかと言われると、少々粒が小さくそろいすぎているかも知れない。これはビジネスにおいても同じだと思うのだが、歳を重ねて丸くなるというのは、角が取れて丸くなるというよりは、辺の部分に肉がついて丸くなるのである。もともと尖っていないと小さな丸になる。中田は五輪代表の頃から視野が広く、フィジカルは強かったし、小野も同様に若い頃から絶妙の柔らかいトラップとパスワークを備えていた。サッカー選手は、この「尖った部分」を強み・個性として残しつつ、フィジカルだとかシュート力だとか、足りない部分を補強して、よりバランスの取れた選手に成長していくものだ。そう考えると、このU-21代表は、粒がそろっていて、戦術理解度も高く、チームとしてはいい成績を残せるかも知れないが、傑出した個を今後A代表に送り込めるかと言われると、谷間の世代といわれたアテネ組と同様の結果に終わる可能性もある。
付け加えると、谷があるからには両側に山があり、片方の山はシドニー世代であろうが、もう1つの山は、かつては平山・森本・カレンを擁したこのU-21だと言われていた。しかし、やや伸び悩んでいる内に、今となってはすっかりU-21の2つ下、9月のアジアジュニアユースで優勝したU-16にお株を奪われた感がある。このU-16カテゴリーは注目選手が多く、久々の黄金世代になるかも知れない。また、U-21のすぐ下のU-19も梅崎、伊藤、ハーフナー・マイクなど、2010年が楽しみな選手が多い。高校時代に騒がれた幾多の選手のその後を考えると、この年代での実力は水物という要素が強いのは事実だが、再び谷間の世代、あるいは次の輝きが見えてくると、谷底とも言われかねないだけに、昨年のワールドユースでは4戦勝利無しと結果が出なかったU-21世代の奮起と、A代表への1人でも多い選出を期待したい。
★中国について
最後に、対戦相手である中国についてである。北京オリンピックでも地元開催という事で、相当気合が入っているだろうし、五輪に限らず、W杯においても、アジアからの出場権をかけて、削りあいの歴史を今後築くであろう相手だけに僕も注意を払って観戦した。全体的にフィジカルは強いものの、技術や戦術はまだ1段以上の差があるというのが感想である。前半39分にマルセイユ・ルーレットの様なプレーをした選手がいたが、これは例外で、ラテン的なテクニック志向のサッカーというよりは、ゲルマン的なフィジカルとFWのラン、が中心という印象だ。ただ、韓国ほどスピードとサイドアタックに目を見張る個性があるという訳でもなく、個性と言っても「あえて言えば」というレベルの話だ。
考えてみれば、オフトや岡田監督の頃は日本はどういうサッカーかと問われても答が見つからず、アトランタ・シドニー世代を経てようやく、日本のサッカーの特徴というものが根付き、そして強くなった感がある。そう考えると、中国が今後日本の恐るべきライバルとしてW杯の常連国になるのは、それが何であっても、中国のサッカーとはこれ、という個性が出来てきた頃、と言えるだろう。
あと、まったく余談ながら、今回の中国チームには、控え選手も含めたDFとGK陣に苗字が劉・関・張・趙という選手が含まれていた。メンバー発表を見て、三国志の蜀カルテットだなと思って、この4人が揃うシーンを心待ちしていたのだが、残念ながらこのゲームではかなわなかった。今後、中国と試合する時は、ついこの4人を気にしてしまいそうである。
※写真は中国戦で前半、先制ゴールを決める梶山(左)(撮影・たえ見朱実)
- 市川雄介(いちかわ・ゆうすけ)
- 1975年8月生まれ。サッカーどころ静岡に生まれ、幼少よりサッカーに親しむ。JSL1部でのヤマハ発動機優勝をきっかけにプロサッカーの面白さに目覚め、90年イタリアW杯で世界のレベルを知った。 大学卒業後は、ビジネスの世界で、M&A、経営コンサルティング、企業投資に携わる。仕事上、戦略的な資源配分や組織論について考えることが多く、かねてより集合としての人のパフォーマンスを最大化するという観点で、企業経営とモダンフットボールに多くの共通点が有ると考えていた。 また、最大の趣味は海外旅行であり、アマゾンの泥濘、アンデスの雲の上、キリマンジャロのサファリ等、各地でボールを蹴る人々を記憶に収めてきた。ルーマニアでは孤児院の子供達とプレイした経験もあり。 本コラムでは、アウトサイダーならではのサッカーに関する独自の視点を提供すると同時に、旅行に出ている際には現地のサッカー事情なども交えてお話し出来ればと考えている。
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