出世湯
細かな工夫が嬉しい「縁起のいい湯」
JR環状線の桃谷駅と寺田町駅の中間に「出世湯」はある。生野の風呂屋はいきなり細い路地裏にあったりして、見つけにくい場合もある。だが、この湯の場合とても分かりやすいので助かる。さらに、入り口も南北に2カ所。訪ねた午後2時前には開店を待ちきれないお客さんでいっぱい。風変わりな名前もそうだが、興味津々でのれんをくぐった。
「普通の銭湯やで」。ご主人の向田繁男さん(58)は何を聞いても飾らない。1985年、それまで寝屋川で経営していた銭湯を手放し、生野で店を開いた。「当時から出世湯という名前やったから。細かな名前の由来は知らへん。でも縁起ええ名前やろ」。店名を聞いて誰もがそう思うだろう。
あえて銭湯激戦区の生野で勝負した理由は何か? 「ここやったら、ニーズがあると思ったから」。なるほど。軒先で開店を待つお客さんを見る限り、とても必要とされていることが分かる。
89年に全面改装した。当時はまだ珍しかったフロント形式を導入、ロビーが広く、ちょっとしたビジネスホテルのようだ。ソファーの背後の壁いっぱいに張られたチューリップの写真も嫌みなく、なじんでいる。ご主人の雰囲気も、年中無休で営業されているからだろうか、空気のように気にならず、ボーッとできる癒やしの空間を演出する。
浴室に入って驚くのは壁面のテレビだ。サウナではなく、湯船に浸かりながら、番組を見ることができる。ありそうで、あまりなかった設備だ。そういえば段差がない全面バリアフリー設計で、例えば軽くひねるだけで途中で止まることのない軟水シャワーなど、よく見ないと気づかないような細かな工夫がうれしい。もちろん2階サウナから見下ろす露天風呂も絶景だ。
帰り道、2カ所の入り口のうち、どちらが玄関か聞いた。「お客さんが来られるときは、迂回(うかい)せずに。帰るときには湯冷めしないように。家から近いほうの入り口から、どうぞお入り下さい」。なるほど。これも細かな工夫だった。

