灘温泉六甲道店
震災ニモ負ケズ、一発奮起で天然温泉沸いた
神戸市灘区は95年1月17日の阪神・淡路大震災で壊滅的なダメージを受けた地域だ。JR六甲道駅周辺は戦時中の空襲被害も比較的少なかったため、戦前から建つ木造古家が多く、地震で7割が倒壊した。「銭湯の周りは何もなくなった。更地が増えて翌春には菜の花畑になった」と話すのは灘温泉の3代目でご主人の西本一夫さん(58)。地震を機に廃業する地域の銭湯は多かった。灘温泉も店舗が全壊、重油タンクも倒れた。それでも銭湯を続けることは迷わなかった。
5年間営業しないと浴場免許は失効する。一夫さんも5年後のリニューアルオープンを見据えて復興に努めた。「どうせやり直すなら、掘削して天然温泉沸かしたい」。震災から2年後、一発奮起して掘り始めた。約600mで31・9度の源泉が沸いた。「祖父の夢が叶った」と思った。平成11年12月26日に再開した。
初代重郎(じゅうろう)さんは広島出身。昭和7年6月1日の創業以来常々、天然温泉を引きたいと考えていた。天然ガス灯を採用するなど、神戸らしいモダンな建築だった。建て変わった現在でも、脱衣所の天井の設置跡などに当時の名残を感じることができる。特に外観は当時の雰囲気のまま。「創業当時の脱衣箱の扉を玄関扉に再利用してん」とご主人。何とも粋だ。
店舗内部はリニューアルに合わせて大きく変わった。番台を廃止、白を基調にした明るいロビーでは、ソフトクリームなど軽食も楽しめる。オールガス化した風呂の種類も多彩だが、やはりお勧めは「源泉かけ流し」の湯だ。ご主人は「温泉と源泉に交互に入る温冷交互浴を試して欲しい」と話す。温泉は六甲山麓の伏流水のため、天然ミネラルたっぷりだ。お湯は備長炭を通して入るため濾過され美しい。「冷浴1分、温浴1分を11回繰り返して、最後に源泉をかぶると、体にホカホカ感が残るよ」と笑った。
「石の上にも3年というけど、店を引き継いでからもう30年。石の上に30年座ってたら、お風呂のことならだいたい分かるようになって来た」。そんなご主人でもお年寄りには頭が上がらないと言う。「リニューアルするときに、お年寄りが使いやすい店にしたくて、どんなお風呂がいいか意見を求めた。そのとき教わった知恵のおかげで今がある。口コミで広まってお客さんも来てくれる」。雨ニモ負ケズ、震災ニモ負ケズ。

