秦温泉
機械仕掛けの精密銭湯
大阪の東北に位置する寝屋川は、工場も多く職人の町として知られた。今でこそ住宅街が広がるが、それでも秦温泉の2代目・坪野俊也さん(47)は例に漏れず職人気質だった。「職人気質」と言うと語弊があるかもしれない。腰は低く、考え方が柔軟な印象だから。職人と呼ぶより研究家だろうか。
銭湯は昭和36年に開店。その1年前に俊也さんは生まれた。番台に座る前、元々は鉄鋼マンだった。10年以上、設計を手掛けた。「何でも自分の手でやってみたくなる」。銭湯の設備も自らこだわり、改良を重ねた。例えば薬湯。漢方にこだわった。発汗を促す種類を調査、同時に塩素との比率や、営業時間中、安定した比率維持の運用方法を研究した。薬湯の彩度は、お客さんが入りすぎると濃く、逆に入らないと無色透明となる性質がある。一定の色を保ちつつも漢方が溶け出すように、裏側で走る機械システムを設計、安全を検証して、実用化した。
「風呂屋の裏側見ます?」。誘われるがままに付いて行った裏庭には数え切れない数の工具や鉄くず、得体の知れないマシンやスイッチが所狭しと並ぶ。研究所というより、機械好きの作業場のようでもある。
廃材を燃やす煙突が空へと伸びる。近々オイルと併用可能なハイブリッドに替えるという。さすがに業者に依頼するというが、よりよいシステムを取り込むセンスは職人のそれ、そのものだ。
そんな俊也さんの人柄に魅せられて通う常連も多い。銭湯で仲良くなった人が、登山の会を作った。脱衣所におかれたソファーがリラックスの場を演出する。また、中学生の職場体験も積極的に受け入れて、楽しんで学んでもらえるよう工夫する。「例えば風呂掃除なら、おじいさんの時代の方法、現代の方法、そして未来の方法と3種類で体験してもらう」。未来の掃除方法とは、あくまで俊也さんのイメージだが、いかにも楽しそう。そして工夫こそこの温泉の真骨頂だ。「銭湯はアミューズメント、その気持ちは昔から変わらへんから」。そう語る主人の目はキラキラと輝いていた。

