東湯
切ない明石で優しい気持ちに
兵庫県は明石にやって来た。「海峡の街」という看板を見つけた。なるほど、海を望めば眼前に明石海峡大橋が輝いている。山手を見やると、これまた堂々と明石天文科学館が東経135度・子午線の上に建っている。そうか、ここは「時の街」でもあった。最近では映画「ココニイルコト」(01年)で真中瞳演じるOLが大阪に左遷され、失意の中で訪れた場所だ。映画のプラネタリウムのイメージか、はたまた海が近いせいか、山陽電鉄・人丸前駅を降り立つと切なさがこみ上げた。
源氏物語の「須磨・明石」に登場した古い歴史を持つ町だ。空襲を免れた林崎海岸には戦前から建つ公会堂も健在だ。振り返ると、夏空に天文科学館の遠景が映えた。その手前に1本煙突が並ぶ。ここが名湯・東湯だ。
3代目ご主人・岡本潤二さん(76)が生まれるずっと以前からこの場所に銭湯はあった。明治26年に先代・竜蔵さんが買い受ける形で「東湯」を開店。その昔、現在銭湯がある場所は作り醤油屋の東屋だったことから、その名が付いた。「決して明石の東という意味ではないです」。
平成元年に郊外型の浴場を意識する形で、多機能バスを設置、番台からフロント方式への移行もいち早く実施した。「その後の不景気のあおりを受けて厳しい時期もあった」。そして昨年、「女性に喜んでもらいたくて」ミストサウナを導入、常にお客さんのニーズに応えてきた。
そんな潤二さんは別の顔を持つ。ビデオカメラマンとして阪神・淡路大震災で被災した銭湯の現状を伝えようと取材、「がんばる銭湯」を制作した。「幸い東湯は井戸水や廃材燃料が使えたので、震災翌日から開店できたが、神戸市内は大変やったから。その経験を残したかった」。
ご主人の優しさが垣間見える作品、そしてその細やかさが銭湯哲学にも生きている。
ビデオの問い合わせは電話078・911・8478

