双葉温泉
901m“救世主”沸いた
「次どこ行くの? 双葉温泉さん? いいね~、俺もあんな銭湯やりたかったんや」。
前回、お邪魔した「ゆ~もあらんど福栄」のご主人、横井さんが絶賛するのが西宮の「双葉温泉」だ。街中で気軽に楽しめる天然温泉として、近年注目を集めている人気店だ。
スーパー銭湯などの大型施設に対抗すべく、多くの銭湯がいろいろなアイデアを実行している中で、あくまでも「お湯」にこだわり直球勝負を挑む店。それが双葉温泉である。 「昔からこの辺りの人は、有馬まで温泉入りに行っていたもんやけど、最近は『ここでええわ』という人が増えてきましたな。有馬の方もよくお見えになるんですよ」。
そう誇らしげに語るのはご主人の三好勉さん(63)。息子の弘一さん(33)とともに、この店を守り続けている。
7年前まで、ここは何の変哲もない“下町の銭湯”だった。95年の阪神大震災で「全壊指定」を受けるほどの被害を受け、建て直し費用などで経営が苦しくなり、先の見えない状態が長く続いていた。
だが、勉さんの決断が大きく運命を変えた。「鳴尾や芦屋でもお湯が出た。西宮でも出るはずだ」。調査する時間も惜しかった。さっそく、ボーリング工事が始まった。
掘削費用は当時で「メーター約10万円」。901mまで堀った時“救世主”は現れた。泉温は温泉の基準をはるかに超える44・7度。賭けに勝ち、親子が営む銭湯は生き残った。
「こんなに(温度の)高いお湯が出るとは思ってなかったんで…。慌てていろいろな設備を作ったんですわ」。子供用プールとして使っていたスペースを改造し、名物の露天風呂が生まれた。
ほぼ「かけ流し」が可能なほどの豊富な湧出量(毎分680リットル)、温泉成分が濃く美肌効果が高いお湯は評判を集め、訪れる人の数は一気に増えた。それは、西宮周辺の銭湯ファンの流れを変えるほどだった。
しかし、どんなに繁盛しても「近所の人の社交場」としての顔は忘れてはいない。ロビーの片隅にはこちらで開催される「湯友講座」と題された、近所のお年寄り向けの講習会(市が主催)のチラシが貼ってあった。古くからこの町に住むご近所さんにも、フラッと訪れた旅人にも、三好さん親子は笑顔で出迎えてくれる。それは湧き出る温泉と同じく暖かく、そして温かい。

