ゆ~もあらんど福栄
尼の改革派
空前の健康ブームが続く中、銭湯はその流れに取り残されている。昔ながらの営業を続けてきた下町の銭湯の多くが原油高やレジャー施設の多様化、経営者の高齢化などで次々と閉店、廃業を余儀なくされている。そう、現代は銭湯にとって「冬の時代」なのだ。
だが、そうした厳しい状況の中でも、前を向いて挑戦を続ける人たちがいる。今回訪れた兵庫・尼崎の「ゆ~もあらんど福栄」さんも、そんな1軒だ。
「親父から引き継いだとき『これからは店の体質を変えなアカン。俺がやってやろう』と思ったね」。そう語るのは2代目ご主人の横井秀仁(しゅうじ)さん(49)。昭和30年代前半に開業して以来、ずっと「普通のお風呂屋さん」だったお店を、地域でも評判の名銭湯に変えたアイデアマンだ。
1990(平成2)年、店を継い横井さんは従業員の大量雇用、券売機の導入、朝6時からの営業という「改革」を尼崎市内の他店舗に先駆けてスタート。その後もスタンプカード、うどんなどが味わえる喫茶コーナー、そして隠れた名物となっている治療用マッサージ機など他店にはないサービスを次々に導入し、常連客の獲得に努めてきた。
食事について聞いた。おすすめは発泡酒と冷や奴がセットになった「ほろ酔いセット」(400円)だ。「これはほんまにサービスやで。儲けないもん。この冷や奴に乗ってる生姜も手ですってる本格派。かかっているタレもこだわってんねん。(高級スーパー)イカリで買ってんねん。でもな、同じものが(量販店)ジャパンにもあったわ」。さすがだ。オチも忘れない。
もちろん、メインのお湯たちへの設備投資も力を注いだ。湯ざめしにくい炭酸温泉や3種類のジェットバス、約10種類の漢方薬が入った薬草風呂など、スーパー銭湯顔負けの豪華ラインアップを誇る。数ある設備の中でもご主人イチ推しは、一番奥にある「エステバス」だ。普通のジェットバスよりも強力な水流がお腹などの気になる部分をマッサージしてくれる。ご主人いわく「日本で2番目にウチが入れた」という珍しいお風呂で、導入直後には一度入りたいという人で長い列ができるほどの人気だったとか。
「これ見てみい。10個ジェットノズルが付いとうやろ。すごいことやねんで」。言われて初めて気づいた。実に奥深い。
阪神大震災時には大きな被害を受けながらも、常連さんの要望に応えて営業を続けた。下町の一銭湯が始めたサービスは着実に支持を集め、ファンの増加につながっている。
歌謡曲の作詞もこなすというマルチな才能を持ったご主人の挑戦はまだまだ続く。そうしたアイデアが、尼崎のみならず関西の銭湯文化を変えるような日がいつか訪れるかもしれない。

