美章園温泉
「ほんま、ええことないなあ」。
美章園温泉の番台に座る鎌田英秋さん(55)はため息をついた。「原油高騰のあおりを受けて銭湯はどこも大変やで」。
美章園の地にこの銭湯ができたのは昭和8年、それ以来74年の時を刻んだ。現在建物は文化庁指定の有形登録文化財に登録され、存在感は増すばかりだ。その一方で利用者の数は減っている。
まさに「大阪のゴージャス感」を持つ銭湯だ。入り口は金字で男、女とデザインされた扉となっている。重厚な木製の引き戸を開けると、豪華なシャンデリアが飾られた脱衣所に移る。竹林のあるミニ庭園が臨める脱衣所の床のござ下には、高級な桜の板が敷かれている。創業当時は2階にダンスホールがあって、昭和の若者が毎晩踊り明かした。現在では2階に上がる階段が残るだけだが、豪華にデザインされた設備の節々から当時の盛況ぶりが偲ばれる。
浴室に入ると、ルネッサンス風彫刻の泉が掛け湯を貯める。シンプルな作りだが、男湯奥左手のラドン温泉ルームは落ち着ける。この日は秋田の名湯・乳頭温泉の水を使用、芯から温まることができた。その他にもスチームサウナや寝風呂など設備も多彩だ。
「どんだけ豪華でも経営と別物やからなあ」。父親が昭和42年に前の経営者から銭湯を引き継いだため、鎌田さん自身は昭和の繁栄を知らない。
かつてミヤコ蝶々と南都雄二が新婚時代を過ごした美章園。この大阪の下町を見守ってきたこの歴史遺産を守る意味でも、一度は訪れて欲しい銭湯だ。
