玉造温泉
名物の“大阪一熱いサウナ”
今回、訪れたのは大阪市中央区にある玉造。かつては勾玉(まがたま)を製造する「玉造部」が置かれ、大阪城にもほど近く、古くから交通の要衝として、繁華街として、近年では下町として、幾多の時代の流れを見つめてきた街だ。
営業開始が戦後まもなくという大阪銭湯の名門「玉造温泉」。ネオンやイラストをあしらった看板など、現代風の外観ながら、玉造で生まれ育った多くの人たちから「心のふるさと」として親しまれている伝統の力は今でも健在だ。
自転車の列が途切れることのない入口から中に入る。広々とした脱衣所には3台のマッサージチェアと、今では珍しいゲーム台が置いてある。近所の人たちの憩いの場として、にぎわっていた時代を思い出させるアイテムだ。
浴場に入って、まず目に入るのが右側にある大きな電気風呂。3つに仕切られ、「強」「中」「弱」という3パターンを楽しむことができる。
浴場は2階建てになっており、1階には他にもラドン塩風呂、ラドンスチーム、寝風呂、打たせ湯と、なかなかバリエーションに富んだ顔ぶれだ。2階に上がると、この温泉一番の名物である“大阪一熱いサウナ”が出迎える。優に100度を超す熱気は1階から昇る階段からも感じることができるほど。備え付けられた温度計を見ると120度。木のベンチに腰掛けるまでのわずかな時間で、汗がドッと噴き出す。
このサウナが特別な理由は他にもある。なんと追加料金なし。入浴料の390円だけで利用できるということだ。他にも破格の21時間営業(6時~翌朝3時)、毎週土曜日のオールナイト営業など、利用者にはありがたいサービスが多い。
「起きている限りは、いつでも入れるのがウチの特徴。まあ、経営者としては失格かもしれんけど」。笑顔でそう語るのは、この温泉の主・縄手幸雄さん(65)。27年前から経営を受け継ぎ、下町の銭湯を「名門」に育て上げた。「喫茶店に寄る感覚」で楽しめるようにと始めたサウナ料金無料、「休日前のお客さんを無理に締め出しづらかった」という理由から生まれたオールナイト営業…銭湯という憩いの場を少しでも多くの人に楽しんでもらいたいという熱意から、多くのアイディアが生まれた。
一見、順調に見える営業も、スーパー銭湯ブーム、燃料費の高騰などでここ数年は逆風続きだという。「正直、繁盛したのは昭和まで。でも、いい時期も長かったからね。後悔はしていない」。玉造の街同様、いくつもの時代の流れがこの温泉を駆け抜けていった。
しかし縄手さんの目はしっかりと前を向いている。「この街から出て行った人が、ここを思い出して『懐かしい』と言ってくれる。そんな場所をずっと残していきたい」。意気込みを語る表情がまぶしく見えた。
取材が終わり、また込み始めた脱衣所の片隅でホッとひと息つく。訪れた多くの人の様々な思い出が混じりあったこの場所には、やっぱりサンガリアの「みっくちゅじゅーちゅ」がふさわしい。昔ながらの大阪を味わいながら、時の移り変わりに思いをはせる――。500円でお釣りのくる贅沢がそこにはあった。
