たこ湯
たこ躍る憩いの湯
「煙突が九の字に折れた」。3代目・濱岡佳子さん(43)は空を仰いだ。95年1月に起こった阪神・淡路大震災で「有田温泉」は大きな被害を受けた。豊中市は兵庫県以外では、もっとも被災の度合いが大きかったエリア、その中でも折れ曲がった銭湯の煙突は象徴的な風景だった。近隣住民の声に応える形ですぐに風呂を再開したが、応急手当てだけでは長期の営業は難しいと感じた。「1度は辞めようとも思った」。
昭和30年から営業を続ける「有田温泉」は地域で愛されていた。銭湯横の自転車置き場でたこ焼きの屋台を併設、安くておいしいとうわさになった。帰り道に小学生たちが100円玉を握り締めて並んだ。そんな日常があの朝、一瞬にして飛んだ。悪夢に思えた。
「地域のみなさんが続けさせてくれた」。銭湯を閉じようかと逡巡する一家に「辞めないで」という声が多く寄せられた。「(その声に)応えないわけにはいかなかった」。そして「どうせ建て直すなら、たこ焼きも一緒に」。銭湯のシンボルを新店舗の設計図に取り込んだ。
壁に巨大タコ、浴室の壁面タイルにも赤いタコが躍った。何より、「たこ焼きコーナー」をロビーに据えて、一緒に飲むビールやジュースなどをそろえた。銭湯の名前も「たこ湯」に決めた。
「ほんまは、やすらぎの湯とか癒しの湯とか迷ってんけど」。それでも今は気に入っている。名前のユニークさがWEBなどでも有名になり、地元はもちろん、遠方からのお客さんも増えたから。「みんな、名物を楽しみにして来てくれるから」。2代目・平田蔦子さん(72)や佳子さんらが焼くたこ焼きは不動の名物だ。6個150円、12個300円と買いやすい料金。お風呂に入らず、たこ焼き目的に寄っていくお客さんも多い。
今も昔もここは町の憩いの場だ。毎日来てくれるお客さんと顔を合わせ、バイタルサイン(健康異常などの兆候)を見逃さない。佳子さんは希望者に別室でエステも行なっている。健康と美容にいいことは全て取り入れた。浴室にもこだわる。体に優しい炭酸水を採用、ゲルマニウムの露天風呂や麦飯石の薬湯も構えた。
そんな佳子さんにとって銭湯とは? 「やっぱり、お客さんとの触れ合い、憩いの場やな」。帰り道、振り返ると壁面の巨大タコがニヤリと笑った気がした。

