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松岡利勝農水相が自殺、議員宿舎で首つる

ob-070529-2.jpg閣議のため首相官邸に入る松岡利勝農相=2006年9月29日(共同)

 「ナントカ還元水」などの事務所費問題や「緑資源機構」の談合事件に絡み、与党からも辞任を求める声が上がっていた松岡利勝農水相(62)が07年5月28日午後0時20分ごろ、東京都港区赤坂の衆院議員宿舎で首つり自殺を図り、搬送先の慶大病院(新宿区)で午後2時、死亡が確認された。宿舎の机には封書6通と便せん2通の遺書が置かれていた。うち1通は安倍晋三首相(52)あてだった。国会議員の自殺は戦後7人目だが、現職閣僚は初めて。

 午後1時40分からの参院決算委員会で「緑資源機構」の官製談合事件について答弁する予定だった松岡氏が首をつっているのが発見されたのは赤坂議員宿舎1102号室。正午ごろ宿舎を出るはずが、出てこないため、午後0時20分ごろ、男性秘書がSPとともに合鍵で部屋に入ったところ、リビング入り口のドア上部の角に、犬の散歩用の布製のひもを掛けて首をつっていた。男性秘書は午前10時ごろ、宿舎で松岡氏と直接会って話したが、その後松岡氏は部屋で1人だった。発見時はパジャマ姿で部屋の鍵は閉まっていた。

 救急隊が駆け付けた時にはすでに心肺停止状態だった。ストレッチャー上でも、顔と体に掛けられた白い布の上から心臓マッサージが続けられたが、午後2時に死亡が確認された。死因は窒息死と分かった。

 宿舎のリビングの机の上から「親展」と書かれた封書6通と便せん2通の遺書が見つかった。封書のあて先は安倍首相、長男の義父である景山俊太郎参院議員(63)、農水事務次官、大臣秘書官ら。便せん2通のうち1通は「国民の皆さま 後援会の皆さま」との書き出しで「私自身の不徳の致すところであり、誠に申し訳ない。ご迷惑をかけておわび申し上げます」と記されていた。もう1通にはあて名がなく「家内だけが内情を知っている。それは家内にいってある場所にあるので、探さないでください」。いずれも農水省の便せんにボールペンで書かれ、28日の日付と署名が入っていた。

 松岡氏は25日午後1時半から都内のホテルで開かれた農産物の輸出促進のための協議会に出席。得意分野にもかかわらず、用意した紙を読み上げるだけで、精彩を欠いていた。同日朝の定例会見では、官製談合事件に質問が集中。「極めて遺憾」「信頼回復に全力で取り組みたい」との答弁を繰り返したが、疲れ切った様子だった。27日の日本ダービーでは、自身の名前で皇太子さま(47)らに招待状を出していたにもかかわらず、姿を見せなかった。

 松岡氏の遺体は、慶大病院に駆けつけた遺族に引き渡され、午後7時すぎ、霊きゅう車で病院を出て仮通夜が行われた東京・新宿区内の斎場に入った。初美夫人(60)は「支援していただいた方に迷惑をかけたのが、つらかったのではないか」と話すと、頭を下げたという。遺体は29日、地元熊本に運ばれる。

 農水省によると、松岡利勝農水相の通夜は29日午後8時から、密葬は30日正午から、ともに熊本県阿蘇市内牧166、浄信寺で営まれる。喪主は妻初美(はつみ)さん。

泣き崩れる母

 熊本県阿蘇市の松岡農水相の実家では、1人暮らしの母ハルコさん(86)が、「自殺ですか?」と声を震わせ、「ああっ」と泣き崩れた。「仏壇にも毎日、利勝さんが元気にとお祈りしておりました」と涙が止まらなかった。親せきの男性によると、ハルコさんはその後、寝込んだという。

地元・熊本では大混乱

 地元の佐藤義興阿蘇市長は「詳しいことは何も分からない。ただただ驚いている。あちこちから電話がかかってくる状況だ」と混乱した様子で話した。熊本事務所の女性は「何も聞いていない。分かりません」。別の男性も「何も入ってこないので、こちらでは何も分からない」。次の参院選に熊本選挙区から立候補を予定している自民党公認候補者の事務所の男性は「今聞いたばかり…」と絶句し、「大変なことになった。全国の参院選に影響がでるだろう。特に熊本への影響は大きい」と話した。

 自民党熊本県連の古閑三博会長(74)は、26日に元県議の慰労会に出席した松岡農水相の姿を「少しお疲れなのかと思った」と振り返った。別の元県議は「『ナントカ還元水』の問題が起こった時に、安倍首相が農水相を辞任させておけば、こんなことにはならなかった」と憤慨。自民党関係者は「結局は、そこまで追い込まれていたということ。ああいう決着の付け方しかなかったんだろう」と同情した。

与党に衝撃

 自殺を図ったとの一報が飛び込んだのは、石原伸晃幹事長代理の国会内での記者会見中だった。石原氏は、記者団から一報を聞かされて絶句した後に「まったく承知していない。今初めて聞いた。幹事長室は(情報を)入手していない」とだけ述べ、ただちに会見を終わらせて確認作業に入った。

 ベテラン議員によると「光熱水費問題は気にしている感じではなかったが、緑資源機構の話が出てから落ち込んでいる様子だった」というが、まさか自殺とは。「1つの衝撃だ」(中川秀直幹事長)と動揺が広がった。この日、安倍晋三首相(党総裁)は、参院東京選挙区から出馬する元アナウンサー丸川珠代氏らに公認証を手渡す予定だったが、急きょ延期した。

 片山虎之助参院幹事長は、安倍政権への影響について「現職閣僚が亡くなったということは影響があるだろう」と認めた。公明党の北側一雄幹事長は「非常に残念としか言いようがない。(参院選への影響は)まったく分からない」とした。

関係者の話

 東京・霞が関の農水省では小林芳雄事務次官は午後4時から記者会見し「信じられないのひと言に尽きる」と語った。緑資源機構をめぐる献金問題や事務所費など一連の問題が発生してからの農水相については「変わった様子はなかった」と繰り返した。小林次官によると、前週末の25日に仕事の打ち合わせをしたのが、最後の面会。「内外に課題が多い中、精力的に仕事に専念されていた」という。

 松岡氏の盟友、新党大地代表の鈴木宗男衆院議員 松岡農水相の訃報(ふほう)に言葉を失った。私と松岡さんは、私が中川一郎先生の秘書で、松岡さんがまだ肩書のない農水省の役人のころから36年来の付き合いだった。中川先生も将来のある男だと目にかけていた。今となっては、5月24日夜、東京での会食が最後となり、いつも変わらない松岡さんの姿に、何も気を留めなかった自分が悔やまれる。心から心からご冥福をお祈りしたい。

 作家猪瀬直樹氏 天下りシステムが完全に出来上がった林野庁系の世界で、松岡氏はボスであり、農政の最高責任者。その意味で(自殺は)古いスタイルの政治の終わりを象徴している。約1カ月前、ある閣僚に「安倍さんはなぜあんなに松岡さんのことで謝らなきゃいけないのか」と指摘したことがある。首相が松岡氏をかばい続けたのは、佐田行改担当相の辞任に加えた政権へのダメージを避けたかったし、農水相として役割もそれなりにあったから。だが光熱水費問題への答弁はお粗末だったし、緑資源機構の談合事件で“全身火だるま”の状態に陥ったのではないか。

東知事、松岡農相に「感謝しています」

 28日、東京都港区赤坂の衆院議員宿舎で首つり自殺を図り、搬送先の慶大病院(新宿区)で死亡が確認された松岡利勝農水相(62)について、宮崎県のそのまんま東知事(本名・東国原=ひがしこくばる=英夫)は「突然のことに大変驚いています」とコメントを出した。就任直後に鳥インフルエンザに見舞われたことを振り返り「現地調査をはじめ先頭に立ち取り組んでいただいた。大変お世話になり感謝しています」。

 熊本県の潮谷義子知事は記者団に「とにかく驚きというひと言。さまざまな形で県に力を貸していただいた。こういう形で亡くなられるのは本当に残念だ。熊本は農業県だが、県政に口を差し挟むような方ではなかった」と述べた。

◆松岡利勝(まつおか・としかつ)
 1945年(昭和20年)2月25日、熊本県阿蘇町(現阿蘇市)生まれ。69年鳥取大農学部卒。農林水産省に入り、国土庁課長補佐などを経て、86年林野庁広報官。88年に退職し、90年衆院選に立候補し初当選。当選6回。村山改造内閣で農水政務次官、第2次森改造内閣で農水副大臣、06年安倍内閣で農水相として初入閣。初美夫人との間に2男。長男は銀行員、二男はNHKアナウンサー。
◆松岡農水相の大臣就任後の主な語録
 06・9・26 「秘書官のおかげ。本当にありがとうございます」(農水相として初入閣が決まり、小泉純一郎前首相の飯島勲秘書に電話して)


 同9・29 「国民や農水省の皆さんに申し訳ない」(出資法違反で家宅捜索を受けた会社の関連団体にパーティー券を購入してもらいながら、政治資金収支報告書に未記載が発覚して)

 07・1・9 「事実に基づき、かかったものが積み上げられている。架空とか付け替えとかは一切ない」(資金管理団体が、家賃のかからない衆院議員会館の事務所に毎年2000万円以上の事務所費を計上していたことについて)

 同3・5 「水道にはナントカ還元水とか、そういったようなものを付けている。暖房なりなんなり、別途そういうものも含まれる」(参院予算委員会で多額の光熱費の理由を問われ)

 同3・7 「報告すべき点は適切に報告している。これ以上の開示は現行制度が予定しておらず、制度のあり方にもかかわるので差し控える」(光熱費問題で詳細の公表を拒否。35分間で「適切に報告」発言を23回連発)

 同3・8 「今、水道水を飲んでいる人はほとんどいないんじゃないか」(1本5000円の水を飲んでいるのかと聞かれて)

 同5・24 「遺憾の極み」(緑資源機構の官製談合事件で、東京地検特捜部の取り調べが始まったことについてコメント)

 同5・25 「再発防止に取り組むのが責任だと思う」(最後となった閣議後の会見で進退を問われて)

◆現職国会議員の自殺者
 衆院事務局などがこれまでに把握している戦後の現職国会議員の自殺者は6人おり、松岡農水相は7人目とみられる。また現職閣僚では、陸軍出身の阿南惟幾陸相がポツダム宣言受諾に反対して割腹、1945年8月15日に死亡しており、「阿南陸相以来で戦後初めてだろう」(同事務局)という。


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