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2011年3月27日

シャッターチャンスと張り紙

 地方を旅すると、必ずシャッター通りに遭遇する。風がヒューと吹いて、背中を丸めながら、ガランとしたアーケード街を歩く。街がまだ呼吸をしていた、かつての繁栄へ思いをはせる。ってな訳で今回は「シャッターチャンスと張り紙」-。さて、連載「ピート小林と歩く こころの日本遺産」は今回で終了です。また、日本の、どこかで会いましょう。

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閉店を惜しむファンの張り紙で埋められた、シャッター(東京・豊島区)

「シャッター通り」は大忙し

 列島のあちこちをアテもなくトボトボと往く。道々でイチバン視界に入るのは、何のことはない、電柱とシャッターである。何かの拍子で気になりだすと、この2つが目玉の周辺をオタマジャクシのように縁どる。
 電柱は、ガキのころ“電信柱”なるアダ名で呼ばれた恨みで、張り紙は別として興味はない。が、シャッターの方は違う。日ごろ、カメラでお世話になっている! なんて駄ジャレも加担して目ん玉をとらえる。多くは歳月が染み込んだトタン地なのだが、なかなかフォトジェニック、つまり絵になるのもあり目が離せない。
 そのシャッターには、半開きのというのがあって、これは重用する。遣らずの雨に遭った折に、カメラ機材を拭うために拝借、ついでに軒先よろしく雨宿りなんかもさせていただく。傘は荷物になるので持たないから、感謝である。

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このミシン屋は店じまいしたのだろうか? 消息が追えず(東京・豊島区)


 「シャッター通り」と揶揄(やゆ)される駅前通りに目を向ける。かつて栄えた在来線の駅に降り立つと、存外に被写体として見逃すにはモッタイナイほどの宝モノが、さっきまでかくれんぼをしてたように顔をのぞかす。陰影の中、光芒(こうぼう)に想いをはせ、しみじみ感情がアップされる。店々の鎧戸(よろいど)のシャッターが化粧を解いた昭和のすっぴん顔をして、すっぽんのように私をわしづかみにするのだ。
 いわく、カメラ屋さんもシャッターを下ろすほどの「シャッター通り」で、カメラのシャッターは大忙し。シャッターのアルバムストックは増殖の一途で、猫の手も借りたくなる。
 それは、この国の誰もが望んでいなかったのに、ツルツル・ピカピカの白日世界に変貌してしまった前の、ありのままの姿。それは、人のぬくもりや市井の営みの息づかいであり、生命力とエネルギーに満ちた、今あるニッポンの原動力だった。それが、昭和どころか20世紀の日本もどんどん遠ざかる。嗚呼。無色・無臭のデオドラント日本である。
 ふとトレンドなるものに眼を遣る。シャッターを無味乾燥な長物とみなして、壁画もどきの絵を連ねた「シャッターアート」なるものをしばしば見かける。町おこしを兼ねた美化運動ということだが、活性化という題目と作為が透けて見えるのが悲しい。むしろ、反動として住人たちの自活する気持ちがなえたり、また心の襞のようなものの喪失感の方が気にかかる。シャッターという日常行為に則するものにも、ニッポンの来し方行く末が表出される。

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店主がペンキかマジック? で描いたような絵に惚れ惚れ(徳島県・阿南市)

 そんな中で、ふと閉店のお知らせをする「張り紙」に目が留まる。「長年のご愛顧に心より感謝いたします」といったおなじみの文面である。こちらは「シャッター通り」に限らず、全国至るところの通りのごく普通の店で見かけるようになって久しい。以前は何となく遣り過ごしてたのだが、ある時から張り紙をじっくり見る、読むようになっている。
 なぜ? と自問する。ありていに言えば、そこに人生のドラマと感じる、はたまた人生劇場を見るということだろう。が、背後にあるのは憐憫(れんびん)の情であり、有為転変の世にあって“生きとし生けるもの”の生命、万物の天命を映し見る、からである。 
 ずいぶん昔になるが、贔屓(ひいき)にしてた古い呑み屋が店じまいするにあたり、「閉店お知らせ」の代筆を頼まれた。老女将(おかみ)の心情をくんでの文言をしるした覚えが、いま「蛍の光」の記憶のように立ちのぼる。ただ1度だけの閉店張り紙書き。存外、これが伏線になっているのかも知れない。
 オメオメと連載してきたこのコラムも、今回でシャッターを下ろして閉店です。1年間のお付き合い、ありがとうございました。【ピート小林】

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シャッターは“戸”だから「マル“と”」なのだ。見事イッポン!(宮城県・気仙沼市)


迷い猫の消息求む

 猫を拾った。
 商店街の坂道、店先の段ボールの中に、雑貨とともに横倒しになっていた。折からの夕日を真っ向はね返す黄金色で、左足(左手?)で空へ手招きをしていた。
 招き猫、である。
 見まわすと赤さびたシャッターに「閉店御礼」の張り紙が張り出されている。中華料理店で、なるほど店じまいで、猫はお払い箱になったわけだ。「百万両」の札を首から提げていた。かわいそうに、おもわず抱き上げホコリを払うと、ちゃりんちゃりんと小銭が鳴った。
 家人が猫好きで最盛期? に5匹の猫がいた。最初の猫は近所の独り住まいの老婦人が高齢者施設に入ることになり、引き取った。「しいたけ」という奇妙な名前で、長くすみ着いたが家人が入浴中に、いすの上で眠るように亡くなった。老衰と思われた。
 2匹目は庭に迷い込んできた。「リョウヘイ」と、娘が人気アイドルの名前を付けたが、ある日突然死した。獣医師に診せると「心臓まひですかね。突然の…。死んだ本人がビックリしているんじゃないでしょうか」と言った。
 3匹目は体重7キロという巨大猫だが、ある日急に足取りがおぼつかなくなり、獣医師に診せると「どうも結石のようですね。持病でしょう」というご託宣であった。
 4匹目は真っ黒で、警戒心が強く、家人にしかなつかない。先天的な猫エイズを患っているそうだ。
 5匹目は雨の夜、知り合いの、コンビニの自動ドアの前でうずくまっていた。まだ生まれたばかりのようで、手のひらに乗るような小ささで、右目が少々不自由だった。だから「メメ」と名付けてかわいがっていたが、昨年6月のある日、フイといなくなった。
 先日、阿久悠さんの著書「犬猫太平記」を読んでいたらこんな歌にぶつかった。
 「立ちわかれ いなばの山の峯に生(お)ふる まつとし聞かば いま帰り来む」
 百人一首・中納言行平の歌で、猫がいなくなったときに呼び戻すための呪文(じゅもん)だそうだ。
 でも、猫は帰ってこない。
 シャッター前で拾った、黄金色の招き猫は玄関の、げた箱の上に据えた。左手を挙げたそれは友を呼ぶのか、金運を招くのか。
 出来れば迷い猫の消息を教えてもらいたい。【石井秀一】

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<左>誠心誠意、頑張ってこられた店に拍手を送りたくなる(青森県弘前市)<右>どうせなら、とシャレてみた―店主敬白・ピート小林


★お知らせ 「ピート小林と歩く こころの日本遺産」は今回で終了です。4月からは「御利益散人 パワースポット探訪」がスタートする予定です。お楽しみに。


★発売中 「ぼちぼち歩こう 墓地散歩(石井秀一著=日刊スポーツ出版社刊=288ページ、税込1365円)墓マイラー必帯本が発売中。日刊スポーツ紙上で1年間連載された、著名人のお墓を探訪する「ぼちぼち歩こう 墓地散歩」の書籍化です。新たに坂本龍馬を書き下ろし、さらに幕末から平成の忌野清志郎まで197人の霊園マップが付いています。沖田総司、勝海舟、正岡子規、稲尾和久、夏目漱石、太宰治、石原裕次郎、美空ひばり、坂本九、尾崎豊、hideなど死にまつわるストーリーが51編と充実の内容です。全国書店で発売中。購入問い合わせは、日刊スポーツ出版社営業部。電話03・3546・5711まで。(写真)

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ピート小林と歩く こころの日本遺産
ピート小林(ぴーと・こばやし)
 前世紀生まれ。駐留軍基地と米国で肉体労働者、バーテンダー、Brooks Brothers勤務などの後、広告業界へ。ME博報堂、電通などを経て独立。コピーライターでもあり、“さくらストーカー”の異名で桜前線を酔狂に追い、“ノスタルジジィ”の異称で「こころの日本遺産」を撮る酔眼カメラマンでもある。チープシックが金科玉条で「青春18きっぷ」のヘビーユーザー。青山学院大卒、サンフランシスコ・アート・インスティチュート写真科中退。著書に「アメリカ語トレーニング」(主婦の友社)「股旅桜」(日本カメラ特別付録)「美人のひと言」(PHP・英語ナビゲーター)「にっぽんお宝桜撮影行」(枻文庫)「北海道さくら旅」(北海道新聞社)。近著の全国の案山子(かかし)を訪ね歩く写真集「カカシバイブル」(東京書籍)は好評発売中。ホームページはこちら。
石井秀一(いしい・ひでかず)
 1953年(昭和28)、東京生まれ。78年、日刊スポーツ入社。80年秋、野球部へ異動。長嶋解任直後の巨人を担当、その後横浜大洋(現横浜)担当を経て、巨人担当キャップ、遊軍記者を歴任。野球デスク、野球部長、編集局次長。昨年より編集局文化社会部編集委員。

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