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企画特集


2011年3月06日

永遠の青春、IVY&VAN

 VAN-憧れだったんだよね、1960年代は。買えなくて、いつもショーウインドーを見上げたっけ。せめてと、あのロゴマークの付いた包装紙、紙袋を集めたんだよ。中に安物のウエアを詰め込んで、町を歩いたっけ。ってな訳で今回は「永遠の青春、IVY&VAN」-。

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人生の“ハイライト”といえる「VAN」は永遠に不滅!

まさに戦後ライフスタイルの意識革命
 
 服飾やライフスタイルにも「こころの日本遺産」がある!という声がどこからとなく聞こえて、あのIVY(アイビー)スタイル&VANのコラム登板である。
 明日の生活はもっとよくなると希望に満ちていた60年代。不毛だった日本の服飾史上に、米国直輸入の「アイビー」というスタイルの文化が彗星(すいせい)のごとく現れる。そのパトロンであり、お膳立てをしたのは、言わずと知れた「VAN」だった。
 お洒落(しゃれ)という言葉が禁句、若者の着る服が詰め襟の学生服という時代にである。なにしろ、“トレーナー”も“Tシャツ”も“トラッド”も、“TPO”なる和製英語もすべてVAN(正確には、創業者でありダンディズムの祖と称された石津謙介氏)が生みの親と聞けば、その影響力の絶大さが計り知れよう。ほどなく一世を風靡(ふうび)した「平凡パンチ」の表紙シリーズ、社会現象になった「みゆき族」…アイビーは、まさにエポックメーキングな戦後のライフスタイルの意識革命だった。

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「IVY ! forever」は一生のお宝モノ。石津謙介氏の直筆サイン


 そのアイビーの洗礼を受けたのは、高校時代の後期。なけなしの大枚をはたいて手に入れたVANのボタンダウン半袖シャツ。「男の服飾」(後の「MEN’S CLUB」)を読みあさり、姉妹誌「MCシスター」も愛読、「TAKE IVY」という本場の紹介本は座右のバイブルだった。希世のオーラを放ったVANの紙袋を抱えて街を闊歩(かっぽ)、フラれてばかりのナンパにも励んだ。膨大なノベルティーグッズは羨望(せんぼう)の的、ため息ついては眺めた。
 “for the young and the young-at-heart”とカッコいいフレーズで修飾されたVAN。その名状しがたいロゴから魅了された心酔ぶりは、心身がジャックされたかの感覚。さらに、連鎖したフーテナニーやジャンボリーなどの音楽系イベントやパーティーにも熱中、まぎれもなく洗脳された青春グラフィティーの1章だった。それはまた甘酸っぱい蹉跌(さてつ)であったか、とも言える。

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<左>指南書だった「MEN'S CLUB」の前身、「男の服飾」(62~63年)<右>本国アメリカで英語版が復刊された、幻の写真集「TAKE IVY」

 68年、ひょんなことから米国へ行く局面になる。ややあって、現地で生計のための職を得るのに迷わず門戸をたたいたのは、IVYリーグモデルの総本山と言われたBrooks Brothers。わずか5分の面接で幸運にも即断即決で就職したのだが、あるシーンが忘れられない。祖国でのVANの存在をアピールするや、マネジャーがMEN’S CLUBのアイビー特集号を喜々として抱えて、恭しく握手してくれたのだ。それはよく言うところの社交辞令の欠片(かけら)もない、アメリカの友愛の表現であった。
 リンカーンをはじめ歴代大統領が顧客であり、米国最古の歴史を誇るBrooks。日本人社員の第1号としてロサンゼルス店とサンフランシスコ店で働いたが、服飾という狭義なカテゴリーを超えた古き良き米国の精髄に触れて、かけがえのない貴重な体験となった。
 栄枯盛衰は世の習い、IVYやVANの爆発的ブームは70年代末に終焉(しゅうえん)。Brooksとて今昔の感がある。きわめて日本的だった様式と米国の父のような存在…彼我の差は洋の東西たる異相のもので、日本茶とコーヒーを比べるようなものだろう。極東の小国が西洋を模したにせよ、男が僥倖(ぎょうこう)だった時代から、早や半世紀になろうとしている。そして今、“young”ならぬ“and the young-at-heart”の言葉をそっと胸にあてる。
 VANが創ったIVYの秩序といえる文化は、葬られた遺物でない。決してエレジーではなく、“ノーブレス・オブリージュ”、永遠に不滅な紳士道の系譜なのだ。今や無意識と虚実感が漂い本質を見失っているこの国へ、普遍的価値観を問い掛けている。その意義で「こころの日本遺産、VAN」と言っていい。
 2011年は、不世出の創業者・石津謙介氏の生誕100年。VAN-そこには「前衛」「先導者」「第一級」の意がある。【ピート小林】

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愛用した「Brooks Brothers」のポケットダイアリーとカード


無一文から生まれた「悠貧」の言葉

 2005年(平17)6月19日、銀座の「みゆき通り」で派手なイベントが催された。
 この5月に亡くなった石津謙介さん(享年93)をしのんで、その“信奉者”たちがこの通り付近に集結した。コットンパンツ、ボタンダウンシャツなどアイビールック・スタイルで、50~60代の男女約50人が「VAN」の紙袋を持って歩いた。
 年代的には私もこの時代に生きていたはずだが、残念ながら「VAN」の時流には乗れなかった。金が無く、このファッションに手が届かなかったからである。ボタンダウンのシャツは、あるにはあったが偽物で、本物を買うには月賦で買うしかなかったから、当時の彼らは羨望(せんぼう)とやっかみの対象で、「VAN」は金持ちの、坊ちゃん道楽にしか見えなかった。
 石津さんが「VAN」の倒産を経て、無一文になった。日本はバブルの時代だった。その再出発にあたって「悠貧」という言葉を造った。
 「これからは『貧』を楽しんで生きよう。『貧すれば鈍する』という。貧しいために心や頭の働きが愚鈍になるのではなく、貧しくとも、むしろ貧しいからこそ心豊かに、悠々と貧の暮らしを楽しんでいこう。そんな生活を私は『悠貧』と名づけた。私の造語なので、まだ辞書にはのっていない。悠貧は私が楽しむだけのものではない。多くの人に悠貧を楽しみ、悠貧に生きてもらいたいと思っている。貧という字は、お金を表す『貝』の部首に『分ける』がついている。お金を分けるとは、すばらしいではないか」(『「変えない」生き方』)。
 石津さんは生前、多くの名言を残した。
 そのひとつひとつは当時の若者、そしてその後の彼らの成長にあたって多くの影響を与えたはずだが、私には、破産の揚げ句の、無一文が吐き出させた「悠貧」という言葉が一番好きである。【石井秀一】

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特注の半てんと手拭い

 ◆スタート 「石津謙介大百科」が近くウェブ上でスタートします(3月中旬第1次完成予定)。アドレスはwww.ishizu.jp
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ピート小林と歩く こころの日本遺産
ピート小林(ぴーと・こばやし)
 前世紀生まれ。駐留軍基地と米国で肉体労働者、バーテンダー、Brooks Brothers勤務などの後、広告業界へ。ME博報堂、電通などを経て独立。コピーライターでもあり、“さくらストーカー”の異名で桜前線を酔狂に追い、“ノスタルジジィ”の異称で「こころの日本遺産」を撮る酔眼カメラマンでもある。チープシックが金科玉条で「青春18きっぷ」のヘビーユーザー。青山学院大卒、サンフランシスコ・アート・インスティチュート写真科中退。著書に「アメリカ語トレーニング」(主婦の友社)「股旅桜」(日本カメラ特別付録)「美人のひと言」(PHP・英語ナビゲーター)「にっぽんお宝桜撮影行」(枻文庫)「北海道さくら旅」(北海道新聞社)。近著の全国の案山子(かかし)を訪ね歩く写真集「カカシバイブル」(東京書籍)は好評発売中。ホームページはこちら。
石井秀一(いしい・ひでかず)
 1953年(昭和28)、東京生まれ。78年、日刊スポーツ入社。80年秋、野球部へ異動。長嶋解任直後の巨人を担当、その後横浜大洋(現横浜)担当を経て、巨人担当キャップ、遊軍記者を歴任。野球デスク、野球部長、編集局次長。昨年より編集局文化社会部編集委員。

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