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企画特集


2010年5月09日

犬も歩けば…マンホール

 捕物帳小説でおなじみ、作家の岡本綺堂は路地を歩かなかった。上から瓦が落ちてくるのを危ぶんだからである。では、下を見て歩けば何があるか。マンホールである。全国各地、何ともユニークなそれを眺めてみよう。ってな訳で今回は「犬も歩けば…マンホール」―。

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北海道・函館市で

美空ひばりも歌ってた…

 カメラを持って外に出ると、世間というか、モノをよく見るようになる。観察する、といった方がいいかもしれない。これが手ぶらで外出だと、見ているようで何も見ておらず、ボーッと歩いているだけで、犬や猫の方がよっぽど周りを見ている! なあに、私のことであり、周囲にそう言われている始末。で、外出にはカメラを、首から下げないまでも(犬の首輪みたいで嫌悪している)、なるべく持ち歩くようにしている。そうすると、心なしか気が四方八方に働いて、犬や猫の気持ちも少し分かるような気になるから不思議だ。

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岡山県津山市で

 カメラを持つと下にも目玉が向いて、いきおいマンホールと目が合ってしまうのに気づいた。これは実に適当な被写体で、人間でないからプライバシーだの肖像権うんぬんといった気苦労が無用。大きさだってほどよくて、犬も歩けば…のごとく探すまでもなく次々と路上に現れるので、カメラとの相性もすこぶるよしだ。家からカメラを持ち出した際に、ま、1番バッターというか、打ってつけの被写体となる。
 と、10年ほど前になるがマンホールの発見にかくも小躍りしていたら、世の中には誰も気に留めないはずのマンホールの蓋(ふた)を撮り歩いている大家が先刻いて、しかるべき考現学も流布されているのだ。世界的にもマンホール蓋の収集家の数は尋常でないようで、何のことはない、自身では鬼の首をとったかのような出来事も、その他大勢の1人という、よくある早とちりだった次第。およそ、この世で人間まったく手つかずの事象なんて、ありゃしないのだ――凡人の発見なり。

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岩手県花巻市で


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長野県野沢温泉で


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兵庫県明石市で


 それはそれとして、余のマンホール蓋狩りはうろたえることなく続いている。表面の意匠といえば、ご当地の市章、花、郷土の芸能あたりが一般的だが、ヒトは大同小異というが、どれ1つとして同じものはなく千差万別。思いがけない発見があったり、飽きもせずに見ていられる。そもそもマンホールの蓋は、華やかさも主張もみじんもなくジミさを地でいく物件であり、人や車に踏みつけられる運命である。されど見る人にそこはかとなくホッとする何かを発光する、そんな気がしてならない。また幸いなことに、全国には桜意匠のマンホールが少なからずある。出くわした折には、シャッターを一押しして、“さくらストーカー”の、花眼にやさしいコレクションの一員となる。
     ◆
 そういえば、子ども時分、路上でよく石けりをしたりベーゴマ遊びをしたけど、あの路(みち)にもマンホールがあっただろうなあ。ベーゴマの図柄・感触がマンホールの表面に似ていた気がしてベーゴマとマンホールって仲良しだった!? との思いでいると…あの美空ひばりの歌に、なんとマンホールが顔を出している。昭和25年、ひばり12歳の時のヒット曲「東京キッド」である。
  ♪ 歌も楽しや 東京キッド
    いきでおしゃれで ほがらかで 
     右のポッケにゃ 夢がある 
      左のポッケにゃ チュウインガム 
       空を見たけりゃ ビルの屋根
        もぐりたくなりゃ マンホール。(作詞藤浦洸 作曲万城目正)
                                                    【ピート小林】

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東京都で


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北海道・新得町で


都会の闇…ここにあった!

 毎晩、酔っぱらってネオン川に流れ、繁華街をほっつき歩いているので、都会の闇など無いもんだと思い込んでいたら、あった。
 マンホール。
 地下に埋め込まれた下水道などさまざまな施設を点検、管理、清掃するため作業員が出入りする穴、通路である。日本語では「人孔」と訳されているようだ。
 さて、ここで触れるのはマンホールの蓋(ふた)で、全国に900万個ともいわれるそれは例えば「下水道用マンホールの蓋」というJIS規格があり、材質、大きさ、品質、形状が細かく規定されている。種類は素材によって鋳鉄製と鉄筋コンクリート製に分かれており、鋳鉄は主に車などが通過する道路一般、鉄筋コンクリートは歩道に適用されている。
 マンホールの蓋がなぜ丸いのかについては、角形はその角が破損しやすく、時にホールの中に落下する危険性があるからだという。ふたの直径は60センチ。その下に続く、人間が上下して作業するホール部分はもう少し太く、直径90センチとなっている。
 どんな世でもコレクターはいるもので、例えば作家の赤瀬川原平、林丈二、南伸坊氏らが1986年(昭61)に結成した「路上観察学会」はその活動の一環としてマンホールの蓋を取り上げている。これら路上に見られる「不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物」を、赤瀬川氏は「超芸術トマソン現象」と呼ぶ。トマソンとはかつて巨人に在籍した外国人選手に由来する。大型扇風機とからかわれ、使い物にならない選手の代表格だが、しかし確かにあまり活躍はしなかったが、彼以後に巨人に入団した外国人選手で、もっとひどいプレーヤーもいたことは彼の名誉のためにも付記しておきたい。
 この蓋のデザインについては規定はなく、全国各地でさまざまな、かつ奇妙なものが跋扈(ばっこ)している。その多彩な美しさを鑑賞したければ「路上の芸術」(垣下嘉徳著、新風舎発行)を取り寄せるとよい。
 とあれ下水道(だけではないが)という、臭いものに蓋をして知らんぷりをする日本古来の伝統が脈々と息づくこの穴こそ、現代の「都会の闇」であろう。【石井秀一】

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青森県弘前市で

 

ピート小林と歩く こころの日本遺産
ピート小林(ぴーと・こばやし)
 前世紀生まれ。駐留軍基地と米国で肉体労働者、バーテンダー、Brooks Brothers勤務などの後、広告業界へ。ME博報堂、電通などを経て独立。コピーライターでもあり、“さくらストーカー”の異名で桜前線を酔狂に追い、“ノスタルジジィ”の異称で「こころの日本遺産」を撮る酔眼カメラマンでもある。チープシックが金科玉条で「青春18きっぷ」のヘビーユーザー。青山学院大卒、サンフランシスコ・アート・インスティチュート写真科中退。著書に「アメリカ語トレーニング」(主婦の友社)「股旅桜」(日本カメラ特別付録)「美人のひと言」(PHP・英語ナビゲーター)「にっぽんお宝桜撮影行」(枻文庫)「北海道さくら旅」(北海道新聞社)。近著の全国の案山子(かかし)を訪ね歩く写真集「カカシバイブル」(東京書籍)は好評発売中。ホームページはこちら。
石井秀一(いしい・ひでかず)
 1953年(昭和28)、東京生まれ。78年、日刊スポーツ入社。80年秋、野球部へ異動。長嶋解任直後の巨人を担当、その後横浜大洋(現横浜)担当を経て、巨人担当キャップ、遊軍記者を歴任。野球デスク、野球部長、編集局次長。昨年より編集局文化社会部編集委員。

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