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企画特集


2009年10月19日

“駒大ナタ男”憎んだ相手が恩人に

 ついに、このニュースが出ました。10月8日に横浜地裁で行われた裁判員の会見でのこと。
 記者が“裁判員が入れ替わって、評議に影響はあったのか?”という質問をしたところ、30代の男性裁判員が“自分の考えは判決にとりいれられた”と返答した、と。そして、会見後に、地裁職員が「先ほどの発言は守秘義務違反に当たると思うので、記事にしないでください」と要請した、というニュースです。

 会見での裁判員の発言が、守秘義務違反なのかは見方がいろいろあるようで、2社は報道したらしい。
 で、気になるのは、地裁職人の「記事にしないで」という発言なんです。そんなことを言われる筋合いはないような。

 たとえば、ある裁判員が友人に評議の秘密を話したとします。その秘密を聞いた友人が、他の人に話した場合、ルール違反なのは評議の秘密をしゃべった裁判員だけなんです。裁判員法には、評議の秘密を知った、裁判員ではない人が、その情報を公開することに対して罰則はないんですよね。
 となると、地裁職員の「記事にしないでください」って発言の真意はいかに。「記事にしたら今後の会見に参加させないぞ」という脅しのような…。真意は分かりませんが。

 さて、今回は10月16日に行われた樋口賢二被告人(逮捕当時21)の裁判傍聴記。罪名は、殺人予備、人質による強盗行為等の処罰に関する法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反、強盗予備。夏祭りの準備中だった駒沢大学で男子学生が小学生の男児になたを突き付けたという事件ですね。
 報道によると7月26日昼、駒沢大学の学生を殺害する目的で、大学構内の談話室にガソリン入りのオイル缶などを持ち込み、その場にいた大学生に、他の学生を粘着テープで縛るように強要するため、室内にいた小学4年の男児(10)を人質にとって、首になたの刃先を突き付けたというもの。

 調べによるとガソリン18リットルやなたなどをリュックサックに入れて現場に持ち込んでいた。大学生を縛って放火することを計画していたとみられている。調べに対して「夏祭りに参加したかったが、他の学生に断られて恨みを持った」と供述したと報じられた。

asozan091019.jpg

 逮捕時は匿名だったんだけど、再逮捕のときに実名報道になった事件でした。それにしても、そこまで夏祭りに参加したかったとなると「どんだけ祭り好きなのか」と思っていたのだが。
 起訴されたのは、報道された記事通りの件。もう1つは今年の3月23日2時45分、警官から拳銃を奪う目的で、包丁、アーミーナイフ、スタンガン、催涙スプレーを所持していたという件。報じられた事件の4か月前にも、とんでもない計画をしていたようです。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は平成18年に駒沢大学に入学し、同年の秋ごろにイベントを実行する企画研究会に入部したという。去年の夏、被告人は担当していたイベントの企画を途中で投げ出し、その後から、企画研究会への参加を拒まれるようになったとのこと。今年3月には、企画研究会の学生を殺してやろうと考え、警官の拳銃を奪おうとするが、職務質問でナイフ等の所持が発覚し、逮捕。起訴猶予で後日釈放された、と。

 4月には、バイト先で後輩ともモメたり、ミスをしたため、孤立。すべては企画研究会のせいだと考えるようになったという。ナイフやガソリンなどを準備して、夏祭りの前日には、企画研究部の部室にタイマーと導線をつないでいたとのこと。そして、7月26日。酒瓶やオイル缶にガソリンを入れて被告人は談話室へ。しかし、ガソリンのにおいがしたことと、被告人が来ていることを不審に思った企画研究部に学生らが警戒。すると、被告人は近くにいた男児の首に左腕を巻きつけて、なたを突き付けたが、祭りに来ていた企画研究部のOBらが、被告人を取り押さえたというのが事件の詳細です。

 被告人が殺してやろうと考えるに至ったトラブルが企画研究会の中であったんでしょう。その1つ1つが被告人質問で述べられていくのです。
 裁判官 「被告人質問を行いますので、証言台へ」

 と、被告人に伝えると、被告人は背筋をぴっと伸ばして、証言台に直立です。そのまま弁護人が質問を始めようとすると、

 裁判官 「長くなりますから(証言席に)座ってください」
 被告人 「ありがとうございます」

 と、一礼してからスタートです。なんと礼儀が正しいんでしょう。細かな動作からも、被告人のしっかりした性格が垣間(かいま)見えます。

 弁護人 「きっかけは企画研究会から疎外されたということですが、企画研究会はあなたにとってどういうものでした?」
 被告人 「夏祭りやサークルフェスティバルが終わったあとに、来てくれたお客さんの笑顔を見て“ホントにやってよかった”とやりがいを感じていました」
 弁護人 「そんな企画研究会から遠ざけられてた理由って、調書を見て初めて知り始めた?」
 被告人 「はい」

 事件前は、なぜ疎外されてたのかわかってなかったようです。

 弁護人 「当時の企画研究会代表のA(法廷では本名)さんの調書によると、あなたが親近感を表すために、ボディタッチをすると。それが行き過ぎて、投げ飛ばされた、と」
 被告人 「はい、それはありました」
 弁護人 「あと、(1昨年の?)夏祭りの打ち上げであなたが酔っ払った、と。それで体育館の屋上に上って、飛び降りそうになった、と」
 被告人 「はい、それもありました」
 弁護人 「平成19年の暮れに、みんなで鬼怒川に慰安旅行にいったとき、ひとりで雪山に行こうとして、Aさんにとめられた、と」
 被告人 「団体よりも個人行動がしたくなったんですが、止められて不機嫌になりました」
 弁護人 「いくら自由行動の時間とはいえ、ひとりで雪山に行って、何か起きたら大変ですから、Aさんが止めたのは当然ですよね」
 被告人 「はい」

 エピソードとしては3つだけなんだけど、企画研究会の中では浮いた存在だったのかもしれませんね。

 弁護人 「そして、去年のオータムフェスティバルのフリーマーケットは、あなたが責任者だったのに途中で辞めた、と。なぜですか?」
 被告人 「副代表の地位に就いていたんですが、バイト先ではマネージャーという肩書を与えられ、両立が難しく、オータムフェスティバルを辞めたいと思いました」
 弁護人 「バイトは何をしていたんですか?」
 被告人 「一昨年からマクドナルドで働いていました」
 弁護人 「バイトからマネージャーになるように声をかけられるって、よくあることなんですか? 頑張った人だけ?」
 被告人 「そうです」

 企画研究会では副会長を務め、マックではマネージャー。仕事に関しては一生懸命やる人なんでしょう。

 弁護人 「去年の年末の慰安旅行ですけど、そこでかなり酔っ払った、と。Aさんは心配して、コップに水を入れて飲ませてあげたそうですね。そのコップを落として割って、ガラスの破片でリストカットしようとしたと。さらに、破片をAさんの方に向けたそうですが、覚えていますか?」
 被告人 「(泥酔のため)記憶にありませんが、他の人に話を聞いて、翌日謝りにいきました」
 弁護人 「その後、駒沢大学は今年の正月に行われた箱根駅伝に出場することになったんですよね。あなたは応援を企画したけど、参加できずに、つまはじきにされたと思ったと」
 被告人 「はい、そうです」
 弁護人 「数日前に慰安旅行の件があったんだから、謹慎期間だわね」
 被告人 「はい」
 弁護人 「でも、3月に行われる卒業コンパには参加したいって伝えてたんでしょ?」
 被告人 「はい。Aさんだけでなく、お世話になった方々のお別れ会ですので、参加したいと伝えました」
 弁護人 「でも、Aさんに断られたと」
 被告人 「……」
 弁護人 「いろいろと迷惑かけられて、Aさんが『来ないでくれ』と言うのは、そんなにおかしな話じゃないですよね」
 被告人 「今はそう思います」
 弁護人 「当時、サークルでつらい目にあってるというのは誰かに相談しましたか?」
 被告人 「自分の気持ちを言っても仕方ない、意味がないと思って話しませんでした」

 すべてを1人で抱え込み、悶々とした日々。

 弁護人 「次にかかわりたいと思っていたのは?」
 被告人 「今回の事件である、夏祭りです。それで連絡しましたが、“2年生とわだかまりがあるので来ないでほしい”と」
 弁護人 「のけものにされていると思いましたか?」
 被告人 「はい。わだかまりがあるのは自分でもわかっていたので、“1年生としか作業しないので”と伝えましたが、別の人から“Aさんも来るし、参加しないでほしい”と連絡がありました」
 弁護人 「その時の気持ちはどういうものでしたか?」
 被告人 「“Aさんが来るから参加できないのか”と、心にぽっかり穴があいたような虚無感がありました」

 そのころ、時を同じくして、バイトの方でもトラブルが発生してしまう。

 弁護人 「休学状態で、あなたにはバイトしかなくなったのに、居づらくなったそうですね」
 被告人 「マック内での人間関係が悪化してしまい、商品を入れ忘れたり、レジの打ち間違いが多くなってしまいました」

 そして、被告人は夏祭りの2週間前に、バイト先を無断欠勤してしまう。

 弁護人 「調書によると、死のうと思ったと。生きがいの企画研究会と、バイトに行けなくなったとはいえ、そんな考えでは、この先命がいくつあっても足りませんよ」
 被告人 「私の人生はいらないと思うようになって、他のことに目がいかなくなったと思います」

 他人から言わせてもらえば、たかがサークルとバイトなんだけどね。本人にとっては生きてる意味がなくなく程のものだったんでしょう。

 弁護人 「談話室でのことを聞きますが、男子児童の首に腕を巻きつけるとき、何て言いました?」
 被告人 「覚えてませんが、検事さんに(取り調べで)“ごめんね”と言ったと聞きました」
 弁護人 「思わず、申し訳ないという気持ちが言葉に出たんじゃない?そういう気持ちがあるのに思いとどまれなかったのかは、よく考えてください」
 被告人 「はい」

 攻撃しようと思ってたのは、Aさんを含めた企画研究部員だったわけで、被告人としては心が痛んだのでしょう。そして、この事件には驚くべき事実が隠されていたのです。

 弁護人 「なたを突き付けて、最初に止めに来たのは誰ですか?」
 被告人 「Aさんです」
 弁護人 「あなたが一番憎んでいたAさんのおかげで大事に至らなかったんだよね。結果として、ケガ人が出なかったのは、君にまだチャンスがあるよってことだと思わないと。憎んでいる人に助けられたんだよ」
 被告人 「その通りだと思います。Aさんやほかの部員に止めてもらったのは、運がよかったと思います」

 なんと、殺したいほどに憎んでいた敵が、恩人になろうとは。なんという、ドラマティックな結末なんだ。

 弁護人 「拘置所の方には企画研究部の人から手紙が届いたそうですね。どんな内容ですか?言いたくなければ結構ですが」
 被告人 「手紙の中には“私も含め、企画研究部の対応は本当にひどかったと思う。企画研究部は被害者ではなく加害者です”という一文があり、今はそれが心の支えになりました」
 弁護人 「今後あなたの人生でつらいことや壁にぶつかること、仕事であれ、女性関係であれ、なんでもいいですよ、そういう時、今後はどうしますか?」
 被告人 「相談する人がいないと思い、事件を起こしてしまいました。(逮捕されて)親であれ、兄弟であれ、みんな助けになってくれるんだとわかりました」
 弁護人 「お母さんも何度も面会に来てくれてるね。最大のサポーターじゃないですか」

 と、弁護人か傍聴席にいる母親をチラッと見て、質問終了でした。
 続いて、検察官からの質問。と、思ったら、検察官は時計を見て、残り時間が30分になったのを確認して、

 検察官 「そんなに長くないんですが、次回で」

 というわけで、これにて閉廷でした。
 話を聞く限り、被告人の周りにはいい人が多いんだけどなぁ。相談ですべてが解決することはないだろうけど、もししていれば、こんな犯行には至らなかったんじゃないかなぁ。原因は、被告人のコミュニケーション不足といったところか。
 好きなもの、熱中できるもの、目標がある人は、幸せ者だ。しかし、それを失う時の絶望感というのは耐え難いものがあるわけで、被告人はその絶望感に耐えうる器を持ち合わせていなかったのでしょう。しかも、トラブルメーカーでありながら、副代表になり、バイトでマネージャーを任されるほどの生真面目さが悪い方に働いてしまいましたね。

 イベントの企画や運営に生きがいを感じていた被告人が、生きがいを失った瞬間、殺害を1人で企画するとは。
 企画に参加した人の笑顔を見るのが生きがいだったはずなのに。元代表にも止められず、本件の企画が遂行されていたら、笑顔を見せるのは誰だったんだと、被告人に問いたいものだ。

※写真は事件当日の駒沢大正門前。夏祭りの中止を知らされて残念そうに引き返す人たち

注目の裁判

11月16日(月)被告人・原口悦郎:著作権法違反(初公判)
原口悦郎:著作権法違反(初公判) <映画などを無断で配布した事件> 09年9月、元東京消防庁滝野川消防署員、原口悦郎(当時58)は、08年11月から09年2月にかけ、自宅のパソコンでウィニーを使い映画4タイトルを不特定多数の利用者がダウンロードできるようにしたとして逮捕された。

11月16日(月)被告人・山田利生:強盗(判決)
<元タクシー運転手によるタクシー強盗> 09年9月、元タクシー運転手の山田利生(当時66)は、東京都江東区の路上で、乗っていたタクシーの運転手(当時61)に模造刀を突き付け「金を出せ」と脅し、運賃2150円の支払いを逃れたとして逮捕された。

11月17日(火)被告人・桜井勝己:脅迫(初公判)
<松本人志さんに対する殺害予告事件> 09年9月、埼玉県春日部市の無職桜井勝己(当時35)は、インターネット上の掲示板に「ダウンタウン」の松本人志に対する殺害予告を書き込んだとして逮捕された。

11月18日(水)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月18日(水)被告人・有馬龍之介:恐喝未遂(初公判)
<小6女児から金を脅しとろうとした事件> 09年9月、東京都台東区の文教大学2年、有馬龍之介(当時20)は、8月に書店の書棚に1000円札を置き、それを拾った女児に因縁をつけて現金を脅し取ろうとしたとして逮捕された。

11月18、19、20日(水、木、金)被告人・潮忍:昏睡(こんすい)強盗と準強姦(ごうかん)致傷(初公判)
<女子中学生に睡眠薬を飲ませて暴行した事件> 09年6月、埼玉県和光市のタクシー運転手潮忍(当時36)は、中学1年の女子生徒に睡眠薬を飲ませて暴行し、財布を奪ったとして逮捕された。

11月19日(木)被告人・阪中彰夫:旧証券取引法違反(偽計)
<ペイントハウスの架空増資事件> 09年6月、投資コンサルタント会社ソブリンアセットマネジメントジャパン社長・阪中彰夫(当時58)は、住宅リフォーム会社「ペイントハウス」の株価のつり上げを狙って架空増資を行い、同株を売却して3億円の利益を得たとして逮捕された。

11月20日(金)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗(判決)
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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